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    桜餅ごめ子

    @yaminabegai

    このポイピクを見る者は一切の希望を捨てよ
    (特殊な解釈・設定を含む二次創作が多いのでお気をつけください)

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    POIPOI 252

    桜餅ごめ子

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    ヤンデレごっこしてるマホロアと真格で友情愛情拗らせたカービィの小説です。
    拗れまくってほしいとのことだったので拗らせようとしたら想定以上に拗れまくりました。
    エアスケブリクエストありがとうございました!

    ##全年齢

    ごっこ遊びはほどほどに プププランドにも古本屋があると聞いて、どんなものかと覗いてみたのがことの始まりだった。小さな店だったが、品揃えは存外悪くなく、それなりに興味をそそる書籍をいくつか発見することができた。
     ――そう思ったのだが。
    「ウッカリしてたナァ」
     購入したものの中に、ブックカバーと中身が異なる本が混ざっていたのだ。よく確認すればよかった、とボクはローアの書庫でひとりごちる。
    「ドレドレ……」
     目当ての本ではなかったことに苛立ちながら、ブックカバーを外す。中身はどうやら「ヤンデレ流♡ 愛の指南書」というタイトルのようだった。曰く、ヤンデレとは意中の相手への愛情が高まりすぎて病的な精神状態になっていることを指すらしい。一途な愛情とほっとけない危うさで好きな人のハートを射止めよう、というキャッチコピーが大きく印字されている。
    「クダラナイ……」
     自らの心を蝕むほどの傾慕の念を、そんな簡単に有効活用できるはずがない。そう感じるのは、他でもない自分が薄暗い愛を抱えているからだった。
    「……カービィ」
     想い人の名をひっそりと呟く。
     どん底に堕ち、冠を破壊し、見知らぬ土地に流れ――それでもボクは、死に物狂いでこの星に帰還した。嘘つき、裏切り者と罵られても構わない。追い返されてもいい。もう一度だけでも会いたい。そう願って。
     しかし、カービィは平然とした顔でボクを出迎えた。お帰り、とのんきな顔で笑った。恐る恐るこの星に住みたいと伝えれば、歓声をあげた。ボクが厚顔無恥にもトモダチだのベストフレンズだのと宣っても、彼は喜んで肯定した。
     道標となって行き先を照らす、星明かりのような彼。その在り方に、ボクはどうしようもなく救われていた。
     とはいえ、その光はボクだけのものではない。人気者のカービィにはたくさんの友達がいて、ボクはそのうちの一人でしかないのだ。そんな彼だから好きなのに、その事実こそがボクの心を焦がす。ボクだけを愛してほしい。彼を独り占めしたい。そんな感情が常にボクの脳内を渦巻いている。友愛なのか、恋情なのか――種類すら分からないが、少なくとも健全なものでないことは確かだった。
    「……ほっとけない危うさ、ネェ」
     もし、僅かの間だけでも、彼の思考をボクだけが独占できたら、どんなに甘美だろう。そう、ほんの少しでよいのだ。ほんの少しの間だけ、意識を向けてもらえれば。
     ボクはふと思いついた。この指南書を元にして、ちょっとしたごっこ遊びを考えてみたらどうだろうか。軽薄な内容に呆れながらも、指南書のページをめくる手を止められないくらいには、ボクの性根はひねくれていた。

     菓子作りは嫌いではない。科学的な思考と手順が要求されるため、几帳面な己の性分に合う。もっとも、いつもカービィのために作るのであって、自分用にこしらえることは殆ど無いが。
     これより作ろうとしているのは、甘酸っぱいラズベリーケーキだ。まずはラズベリーピューレを作るため、真っ赤な果実を煮詰める。鍋の中でぐつぐつと咲く毒々しい赤は、ボクが彼に向けている感情とよく似ていた。
     今日は、レシピ本と合わせて例の指南書も開いていた。自らの血液を食物に混ぜ、意中の相手とひとつになろう――指南書には、そう記されている。
     ボクは厨房の床に座りこんだ。手袋をずらし、包丁を素肌に当てる。鋭い刃をぐっと食い込ませると、ぷつりという皮膚が開く感触が伝わった。
     そして滴り落ちる鮮血をピューレに注ぎ――なんてことは、しない。製菓においてレシピにない物を入れるなんて論外だし、そもそも衛生的に最悪である。それに、いくらカービィが何でも食べられるとはいえ、彼の口に入るものに非食品を盛るような真似はしたくない。
     そう。これはあくまでごっこ遊びだ。重苦しくて抱えきれない愛を、発散させるための自己満足。彼に危害を加えたいわけではないのだ。
     間違っても血液が菓子の材料に混入しないよう、手早く止血する。しかし、血の流れが思ったより激しく、わずかだが手袋に付着してしまった。
     ――彼がこの赤い染みを見たら、心配してくれるだろうか。そんな考えが頭をよぎる。そう、ほんの少しの間だけでも意識を向けてもらいたい。このごっこ遊びの発端は、そうした幼稚な欲求だった。ほんのちょっぴり心配させるだけなら――加害のうちに入らないのではないか?
     そう。カービィのトモダチであるマホロアが、手作りのケーキを振る舞うだけ。ケーキを作っている最中に、うっかり手を傷つけてしまった。それだけの話だ。ボクはそう心の中で唱える。まるで、自らに言い聞かせるように。
     
    「ネェ、カービィ! ケーキを作ったんダケド、よかったら一緒に食べナイ?」
     てくてくとのんきに歩いていたお散歩中のカービィを呼び止め、いつも通り愛想よく微笑みかける。カービィはというと、最初はごく普通のテンションで返事をしていたが、ケーキという単語を出した瞬間目の色が変わった。
    「えぇっ!? 食べる食べる!!」
     カービィは顔をキラキラと輝かせてボクに飛びついてきた。こういうところは扱いやすいな、と心のなかで笑みを深める。
     そうしてボクは彼とローアに向かい、中に招き入れた。ケーキを切り分けてもてなすと、カービィはより一層はしゃいだ。フォークで割って一口頬張ると、幸せそうに目を閉じる。
    「おいしーい! ほっぺたが落っこちちゃいそう!」
    「クチに合ったならヨカッタヨォ! どんどん食べてイイカラネ!」
    「やったぁ! ありがとう、マホロア!」
     カービィは花開くような明るい笑顔を浮かべ、ぱくぱくとすがすがしいほどの勢いで食べ進めた。最後の一切れに手を付けたところで、カービィはふと顔を上げた。
    「……あれ?」
     ケーキを食べるのをやめて、テーブルに置かれていたボクの手をじっと見ている。
    「アァ、コレ? ケーキ作ってるとき、チョット切っちゃッタだけダヨォ」
     ボクはあえて何でもないことのようにヒラヒラと手を振る。すると、カービィはおもむろに席を立ち、ボクのそばに駆け寄ってきた。
    「だいじょーぶ?」
     カービィは先程までの爛漫とした様子から一転、哀しげに顔を歪めてそっとボクの手を取った。かちり、と目が合う。彼の瞳が、風にさざめく水面のようにゆらゆらと揺らいでいた。
    「大したケガじゃないヨォ」
     その言葉自体は事実だった。本質ではないだけで。心配しないでと付け加えて、ニコッと笑いかける。しかし、それでもカービィの顔は曇ったままだ。どうしたものかと思案していると、カービィはボクの手袋の赤黒い染みをそっと撫でて、ふいっと手を振った。
    「いたいのいたいの、とんでけー」
     まるで、ボクの手から痛みを吸い取って、空中に放り投げるように。
    「……ナニソレ?」
     未知の行動に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。するとカービィがくすっと笑って、また同じ動作を繰り返した。
    「知らない? 痛いの痛いの飛んでいけーってやつ。よくあるおまじないだよ。こうすると、なんとなく痛みが引く気がするんだ」
     御呪い。その割には呪術的な儀式らしさが感じられない。どちらかといえば、幼子をあやすための単なる戯れ言のように思える。昔の自分であれば馬鹿馬鹿しいと一笑に付しただろう。しかし今のボクの心は、彼の優しさを受け止めてぽかぽかと温まっていた。
    「アリガトウ、カービィ! ホントにイタイの飛んでっちゃったヨォ!」
     カービィの両手をギュッと握り、ブンブンと激しく揺らす。かつて常用していた大げさに喜ぶ演技は、照れ隠しにも役立った。
     まさか、こんなに心配してもらえるなんて。ドキドキと胸が高鳴る。切り傷は本当に小さなものだし、手袋に付いた血液の染みはさらに小さなものだった。それなのにカービィは気づいてくれて、ボクを心から気遣ってくれている。
     ――心地よい。
     ほんの少しの間だけ意識を向けてもらえればいい、そう思っていたのに。あまりの心地よさに、ボクの心はもっと、もっととせがんでしまう。あの子の好意を利用するなんて、かつて犯した罪と同じじゃないか。そう自己嫌悪しようにも、何者にも捕らわれない春風のような温もりを独り占めしている甘やかさが、ボクの脳内を支配していた。

    「……ねえ、あのさ、マホロア」
     彼の問いかけに、ぼうっとしていた頭が急激に覚醒する。
    「な、ナニ?」
     何でもない風を装って笑みを返す。カービィは不審なボクの様子を意に介さず、うつむいてボクの手を見つめていた。ボクの目の高さからだと表情がよく見えなかったので、浮遊力を下げて彼の顔を覗き込む。見ると、彼の青い瞳からぽろぽろと涙がこぼれていた。
    「か、カービィ!?」
     見慣れない姿に思わずぎょっとする。溢れ出る涙が容赦なく彼の頬を濡らし、唇は嗚咽を漏らさないように固く結ばれていた。
    「カービィ? ドウシタノ……?」
     問いかけたが彼は答えず、無言でボクの手から手袋を脱ぎ去った。あらわになった素肌に、先ほど自ら付けた傷が生々しく残っている。
    「いたいの、いたいの……」
     小さな声で唱えながら、ピンク色で丸っこい手を傷にかざしたあと、自身の胸にぐっと押し付けた。
    「……ぼくに、飛んでこい」
     ドクン、鼓動が胸を強く打ち付ける。嫌な汗がじとりと背中に伝う。痛みを吸い取って、空中に放り投げるようなおまじない。しかし、今カービィがした動作は、まるでボクの痛みを彼が肩代わりするかのようだった。
    「か、カービィ? 何ヲ……」
     急いで聞き返す。すると彼はボクの頬を包み込むように手を当てて、自らの顔にぐっと近づけた。
    「マホロア、うそついてない?」
     ボクを責めるような言葉。しかし、表情が、声色が、瞳に宿る色が――ボクを案じての発言だと示していた。
    「……ナンデ、そう思うノ?」
     質問に質問で返すと、カービィは視線を落とし、ボクの手の傷口に目を向けた。
    「ここ、お菓子作ってて怪我する位置じゃないでしょ。なら、嘘ついてまで隠さなきゃいけない理由があるってことになる。違う?」
     図星だった。しかし、キミの気を引くためにわざと傷を付けました、なんて言ったらどうなる? 呆れられるだけで済むならまだマシだ。また自分の優しさを利用しやがって、と今度こそ嫌われてしまうかもしれない。自分の愚行を後悔しながら、それでも真実を明かす覚悟が決まらなくて、目を泳がせる。そうしているうちに、カービィの瞳がどんどん温度を失っていくような気がして、ボクは耐えきれずぎゅっと目を瞑る。
    「……誰にやられたの」
     しんとした部屋に低い声が響く。予想外の発言に思わず目を開けると、カービィがボクの顔をじっと見据えていた。
    「誰にやられたの。教えて」
     彼は復唱する。焦燥感を滲ませながら、濡れた頬を拭いもせずに。ボクを見つめるその瞳に、ケーキを食べていた先程までの輝きはない。異様な光景に言葉を詰まらせていると、彼はさらに畳み掛けた。
    「教えられないひと?」
     彼の瞳が一層、暗闇に近くなる。教えられない人、とはどういうことだろうか。意図を汲み取れなかったボクが聞き返そうとする前に、カービィが続けた。
    「ぼくの友達?」
     彼の言葉に驚く。そんなわけないと否定したかったが、尋常ではない彼の気迫につい口ごもった。
    「気を遣わなくていいよ。きみより大事な友達なんていないから。きみを傷つける奴なんて、いらないから」
     耳を疑った。カービィがそんな排他的な発言をするなんて、想像したこともなかったからだ。カービィは、ボクの一挙手一投足を見逃さまいとばかりにじっと見つめてくる。海の底のように、真っ暗な瞳だ。 
    「そ、そんなコト言わないでヨォ。カービィには、ボクよりズット誠実で、真っ直ぐな心を持った友達がタクサンいるジャナイカ」
     カービィを独占したい。その欲求は確かにある。しかし、彼は皆を照らす一番星であってこそカービィなのだ、と思う気持ちもまた本心であった。カービィには、嘘つきで裏切り者の自分より、優先すべき者がいるはずだ。
    「ボクなんかより、ソッチを大事にシナヨ」
     そう口にした次の瞬間――ぐるりと視界が回転し、カービィの顔が間近に迫る。床に押し倒されたのだ。
    「きみがまた蹂躙されるのを、指を加えて見ていろって言うの」
     彼らしからぬ、殺伐とした言葉選びだった。
    「服、脱いで」
     端的に命令される。突拍子もない発言に脳内がハテナで埋め尽くされる。
    「な、ナンデ」
    「他に怪我させられてないか、確認するから」
    「ケガ?」
    「だってマホロア、ケガしても普段着で隠せちゃうじゃん。それを利用されて、わざと見えないところに傷をつけられてるんでしょ」
     カービィはそう言ってローブに手をかけた。無遠慮で乱暴な動作に思わず悲鳴を上げる。すると、カービィはぴたりと動きを止めた。
    「ごめ……ん。……これじゃ、マホロアいじめてるの、ぼくじゃん……」
     カービィは空虚な笑いを浮かべながら、はらはらと涙を流していた。最愛の友の憐れな姿に、さしもの虚言の魔術師も罪悪感を抱えきれない。
    「あ、アノ……ご、ゴメンナサイ……、このキズ、自分でつけタノ……。その、カービィの……気を、引きたクテ……」
     もはやこれまでと観念し、頭を垂れて罪を告白する。嫌われてもいい。見限られてもいい。己の矜持を犠牲にしてでも、彼にいつもの調子を取り戻してほしかった。
    「じゃあ、もうマホロアしか見ない」
     しかし、それは叶わなかった。
    「マホロアの声しか聞かない。マホロアとしかお話しない。きみのためなら、ぼくはいくらでも、マホロアだけのともだちになるよ」
     カービィが発しているとは思えない、あまりにも独りよがりな言葉に絶望する。
     ああ、ボクはいつもそうだ。傲慢な野望を抱くくせに、それは真の願いとは食い違っている。そして、野望が叶った途端、こんなはずじゃなかったと喚くのだ。
     かつて戴冠した無限の力だってそうだ。ボクは冠を御しきれず、憎悪と執念に囚われた化け物になってしまった。その怪物を打ち倒して解き放ってくれたのは、他でもないカービィだというのに。人々の心を分け隔てなく照らした星明かりは、今は見る影もない。
    「かーび、ぃ……」
     説得しようにも考えがまとまらない。ようやく絞り出せたのは、辿々しく彼の名を呼ぶ声だけだった。
    「――やめて!!」
     すると、彼は張り裂けるように叫んだ。ボクを床に押し付ける力が強まる。
    「その声でぼくの名前を呼ぶのはやめて」
     カービィが苦しげに顔を歪める。
    「猫被ってていいから笑ってよ。嘘ついていいからお喋りしてよ。ぼくのこと、騙していいから、裏切っていいから、元気でいてよ。幸せでいてよ」
     それはまるで命乞いのようだった。
    「ねえ、マホロア。ぼく、きみのせいでぐちゃぐちゃだよ」
     グチャグチャ? 呆けたボクがオウム返しをすれば、そう、ぐちゃぐちゃ。と、せせら笑う。
    「ぐちゃぐちゃになっちゃった。きみがあんまり綺麗だから」
     キレイ――ボクを表現するには似つかわしくない単語だった。咄嗟に否定しようとするが、彼の丸い手のひらで口を塞がれる。
    「……綺麗だよ、きみは。誰が何と言おうとも」
     カービィは大きく息を吐き――やがて訥々と語り始めた。
     
     ぼく――カービィが、マホロアに対して抱いた第一印象は、「元気で快活な子」だった。軽快に笑ったと思ったら、船の故障を憂いてガックリうなだれる。パーツを見つけてきたと知れば子供のようにはしゃいだ。ころころと忙しなく変わる表情は、まるで子供のように純粋だった。
     その印象が変わった瞬間があった。
     ある日、ぼくがローアを訪ねると、キーボードを叩くマホロアの姿があった。しばしばモニターを見上げ、思案するように耳をピコピコと傾げる。集中しているのか、ぼくの来訪に気づく様子はまったくない。普段の騒がしい彼とは打って変わって、静謐な聡明さをまとっていた。ぼくとそう変わらないはずの小さな背中が、とても頼もしく、格好良く見えた。
     ぼくが彼の認識を改めた出来事は、それだけではない。マホロアとの付き合いが長くなるにつれて、彼が笑顔の裏に隠している本心に、ぼくは薄っすらと気が付きつつあったのだ。わざとらしい感謝の言葉、端々に散らばる不遜な言葉遣い、成型した工業製品のような笑顔。ぼくはやがて、マホロアは無害で純朴な人柄を狡猾に装っているのだと勘づいた。猫被りの仮面は、よく見ればぼくのような能天気でも分かるくらい綻びだらけで、それで騙せた気になっている彼が無性に愛らしく思えた。
     そして、ぼくの心を徹底的に焼き切ったのは、あの一言。
     ――キミとドコか遠くへ、旅に出たいナ。
     船の完成が近づいて気が緩んだのか、演技を取りこぼして薄く微笑む。マホロアの素の笑顔は、あまりに儚かった。
     すべてがマーブル模様のように渦巻いて、瞬きするたび違う色を見せるきみ。それがあまりに綺麗で、ぼくはいつしか魅入られていた。
     だからこそ、彼がぼくとの友情ではなく、あの冠を選んだことに――人生で初めて、身を焦がすような激しい嫉妬を覚えた。

    「きみのこと、嫌いになれたらよかったのにね。帰ってきたきみをさ、この嘘つきって追い返しちゃうくらいに」
     語り終えたカービィが、乾いた笑い声をあげる。
    「でも、もう無理だよ。だって――」
     言葉を切って、ぐしゃりと顔を歪める。
    「ぼく、マホロアが好きなんだ。どうしようもなく」
     カービィからの愛の言葉。喉から手が出るほど欲しかったはずなのに、さあっと血の気が引いていく。
    「し、シッカリシテヨ、カービィ! コンナノ、コンナノ、キミらしくナイヨォ!!」
     彼の身体を両手で掴んで揺さぶるも、彼は痛ましい笑顔を貼り付けたままだ。
    「のんきでおひとよしで、食いしんぼうなヒーローの『星のカービィ』なら――もういないよ。きみの手を掴めなかったんだから」
     手を? 言葉の意味を理解できず、思考が停止する。カービィはぼくに構わず話を続けた。
    「きみは今、どこにいるのかな。クラウンに啜られて……身体だけ、器だけ……いいように扱われてるのかな」
     彼は、訳の分からない言葉をうわごとのように喋り続ける。
    「ともだちなのに、助けられなかった」
     ボクは――マホロアはここにいるのに、どうしてそんなことを言うのだろうか。分からない。分からないが、仮にカービィがボクを助けられなかったとしても、彼が気に病む理由はどこにもないはずだ。なぜなら。
    「……ボクなんか、助けなくてイインダヨ」
     裏切り者を見捨てる道理はあっても、助けなければならない道理はないのだから。
    「あ、またボクなんかって言った」
     カービィはけらけらと壊れたオモチャのように笑った。
    「ねえ、マホロア。きみがボクなんかって言うたびに、胸が痛いの。ジクジクするの」
     カービィはそう言うと、ボクの胸に自身の胸をぐいっと押し付けた。ドクドクと早鐘を打つ鼓動と、カタカタという身震いが伝わってくる。それは、カービィの心身が極限まで摩耗していることを表していた。
    「ゴメンネ……カービィ……、ホントウに、ゴメンナサイ……」
     必死に懺悔するが、のしかかる力を強めたカービィに制止される。
    「やめて。きみの悲しそうな声を聞くと、頭がおかしくなる」
     どうしてこんなことになってしまったのだろう。ボクはただ、キミとボクだけの時間を、ほんの僅かだけ、欲しがっただけなのに。
    「……ごめんね、マホロア」
     その言葉が何処に向けられているのか、ボクには分からなかった。
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