支部に上げていたものの再掲(キャプションを確認してから読んで頂いた方がわかりやすいかな、と思います)
〚冬なので、音が凍ってしまいました。〛
冬なので、音が凍ってしまいました。
彼が喚き散らかした言葉を要約するとこんな感じ。加えて言うと、アタシの後ろ姿が辛気くさくてインスピレーションが消えてしまったとかなんとか。
他にも散々文句を言われたから、アタシは「じゃあ他のところに行ったら?」と訪ねたのに、我らが王は「ん~、」とまるで猫みたいに伸びをし、そのまま木の根元に座り込んで寝てしまった。
寝てしまったと言っても寝息は聞こえない。何度か声をかけたけれど返事は帰ってこないし、断固として動こうとしない。
「困ったわね、帰れないじゃない」と溢すと、彼は少し顔を上げて「帰るのか?」と聞き返してきた。
「ええ。だってもう、用事は済んでしまったんだもの」
「ふぅん……ほんとに?」
「丁度、あなたが来たほんの少し前にね」
そう返すと、彼はバツの悪そうな顔をして立ち上がった。「邪魔しちゃったじゃん」と小さくぶうたれながら、さくさくと雪を踏みながら歩き進む。
数歩足跡をつけて、「ほら、帰るんだろ?」とこちらを振り返った彼の背後に広がる雪が日の光を浴びて輝いていて、きっとこの綺麗な景色を見たら彼の音はすぐに溶け出て踊り出すだろうに。でも彼はアタシを見てるからそんな事には気付いていなくて。それがなんだか可笑しくて、アタシにも暖かい"霊感"とやらが降りてきた気がした。
〚なつのひ、思い出した。〛
復帰直後の彼が倒れた、と知らせを受け慌てて保健室へ入ると、当の本人は「あ!セナだ!」と元気よくこちらに手を振る。案外大丈夫そうだなとため息を付きながらベッドに近付くと、しかし、やはりいつもよりも彼の顔は青白かった。養護教諭に聞くところ、熱中症で軽い目眩を起こしたらしい。
「後は任せて良いか?」と言いながらこちらの返事も聞かずに出ていくよれた白衣を横目に、カバンから五線譜とペンを取り出しベッドの主に手渡す。ありがとう、と彼は笑い、時折よくわからない言語を溢れさせながら懸命に紙にペンを走らせていた。
しばらくして、ふ、と彼が顔を上げた。
どうしたの、と声をかけると、彼は楽しいのか悲しいのか、よくわからない表情をして「夏ってこんなに暑かったんだな。忘れてた」と小さな声で言った。