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    アロマきかく

    @armk3

    普段絵とか描かないのに極稀に描くから常にリハビリ状態
    最近のトレンド:プロムンというかろぼとみというかろぼとみ

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    アロマきかく

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    何となくこういう方向性で書いてみよう。ここはすげえ書きたいから忘れないうちにノれる所まで書いてしまおう。
    そんなサビだけ書いてAメロが出来上がってないようなテキストたちを放置してそのまま腐らせるくらいならせめてサビだけでも、といった墓場のようなもの。

    一発ネタでツイッターに乗せるには長すぎるものもこっそり追加してこ。

    使い所を見失ったテキスト置き場 正確な表現をするか。
     3回目の死因とは言ったが、あの点で”俺”は死んでいない。”管理職の俺”が、アブノーマリティ『美女と野獣』になっただけ。そのままL社の収容対象として飼われ続けた。クリフォト抑止力、だっけか。そいつで強制的に眠らされて、強制的に起こされて。起きたら気の触れるような無数の視界、処理しきれずに頭痛を訴え続ける脳。身体全体が常に引き裂かれるような痛みに苛まれて、生かさず殺さずという作業内容。
     いっそひと思いに殺してくれ。死んで楽になりたい。自然とそう考えるようになるよな。だから自分を殺してくれそうな抑圧作業を好むんだよ。1回じゃ足りない。2回抑圧することで、「この人は自分を殺してくれるんだ」。そう確信して、呪いが引き継がれる……んだと、思う。多分な。

     さっきも言ったろ。俺は”死んでない”んだよ。だから呪いを移せないまま、あの点で俺はずっと『美女と野獣』として生きていた。毎日が苦痛まみれで、どのくらい経ったかなんて気にする余裕もなかった。
     そのうちAの都合かなにかでリセットがかかったんだろうさ。それでやっと点を飛べた。

     この一件でわかったことがある。”俺”は自身を構成する組織が変化しても、意識が”俺”である限り死んだことにはならない――有り体に言えば、ヒトの形を失っても俺は俺だっていう認識さえあれば、まだ生きていると判定されるってこった。あぁ、勿論”職員としての俺”は2回目の抑圧を行った時点で死亡扱いだけどな。
     そんな訳で俺は呪いを引き継いでも”形を変えて生きている”ってことになった。点を飛べなかったのはそのせいだ。

     俺がなかなか美女と野獣からギフト貰えなかった話はしたっけか?とにかく全然貰えなかったんだよ。
     もしかしたら、あの美女と野獣は俺がかつて同じ存在だったことに気がついて、美女と野獣の象徴ともいえるギフトを渡したら、俺がまた苦痛の日々を思い出すんじゃないか。そう思ったのかねぇ。
     そういうことにしておくか。嫌われてると思い込むよりか、ちったぁマシかもな。

    ……まぁ、こうして詳細に語れる時点で忘れようがないんだけどな。
     Aの野郎、よく観察もしないで指示しやがって。あの苦痛の日々は忘れろって言う方が無理だっての。


    ――――――


    「……親友が、いたんだ」
    「うん」
     小さく相槌を打つ。話の邪魔をしないように。遮らないように。

    「俺が勝手に、一方的にそう思ってただけで……向こうはどう思ってたか、わかんねぇけど」
     彼にも、大切な存在が居たんだな。裏路地で暮らしていた頃のことだろうか。
    「生きるためのことしか知らなかった馬鹿な俺にさ、勉学だの教養だの、色々教えてくれた」
     彼が暮らしていた裏路地は相当に治安の悪い場所だったと聞いている。そのなかにあって、わざわざ人のために行動できる人間であり、知識も豊富。一体どんな人だろうか。気になりはするが、口を挟むようなことはしない。あくまで、彼のペースで。
    「あんたにも似て、……いや、どうだろうな。とにかく、あいつも根っからの世話焼きだったよ」

     一部、引っかかる表現があった。相槌の代わりに投げかける。

    「過去形、なんだね」

     投げかけられた言葉の意味を把握するために、僅かな時間を要したようだった。暫しの沈黙。もう少し噛み砕いた表現にするべきだったか。沈黙の裏側でひっそりと反省をひとつ。

    「……」
     沈黙の後、得心がいったという顔。憂いを纏った気配が、さっと彼を覆う。
     そうだ、この気配だ。酔い潰れていたところを見つけたときと、同じ。
     纏わりつく憂いを払拭させないと、きっと彼の心は病んだまま。放っておけば、また何かしらの方法で現実逃避をし始めるに違いない。
     彼の語る”親友”とやらが、今もなお彼の心に暗い影を落としているのだろうか。親友だと思えるほどに心を許していた人物が、何故。

    「入社して会えなくなっちまった、ならまだ良かったんだけどな。……今はもう、居ないんだ」
     やはり、そうか。うちの施設は大概裏路地と大差ない場所にあるが、治安そのものは悪くなかった。少なくとも、敷地内で子どもたちを自由に遊ばせる事ができる程度には。
     うちはまだ運の良い方だったのかもしれない。治安の悪い裏路地だとしたら、何が起こっても不思議は――

    「首括って、死んじまった」
    「……え、」
     今度はこちら側が言葉の意味を把握するのに時間を要した。
     諍いによって命を落とした、などはきっとよくある話なのだろう。むしろそちらのほうが裏路地としては自然な話だ。
     今までの話からは到底導き出され得ない言葉に、関連性を見出だせず困惑した。

    「あいつはお人好しで、甘ちゃんで。優しすぎたんだ」
     治安の悪い裏路地に於いて、お人好し・甘ちゃん・優しすぎだという彼の”親友”。その性格が本当ならば、裏路地に潜む悪意の格好の餌食になっていてもおかしくない。彼が常に側で守っていたのだろうか。それとも裏路地住まいではなく外部の人間であり、度々彼の元を訪れていた、ということなのだろうか。

    「あいつとの関係は経緯がややこしいから端折るけどさ。とにかく、俺が親友だと思いたくなるほどには俺と親しくしてくれたし、あいつから貰ったものが多すぎて――恩を感じるなんてレベルじゃないんだよ、俺にとってのあいつは」
     ”親友”について話す彼は、どこかここではない遠くを見ている目をしていた。今ではない、おそらくは”親友”と暮らしていた頃の思い出を。
     懐古と郷愁をはらんだ目つき。今までに見たことのない、穏やかな彼の顔に思わずどきりとする。

    「いい人、だったんだろうね」
     きっと、今の顔が純粋な彼自身なのだろう。不純物……吐き出すべき暗い感情のない顔。
     純粋な彼の顔につられて、純粋な感想が口をついて出る。

    「そりゃぁな。善意と気遣いが服着て歩いてるような奴だったよ」
     あたしは彼にとっての”親友”にまでなれなくてもいい。彼の中の暗いものを吐き出させて、洗い流して、すっきりさせてやりたい。単純にただそれだけの、あたしの我儘。お節介かもしれないけれど、今、彼がここにいるってことは……つまり、そういうことなのだろうか。

    「そんな人が、どうして……」
     彼のペースで、と決めていたのに。思わず踏み込んでしまう。聞き役に徹するはずだったのに、話の方向性を誘導してしまう。自覚はしている、自分の悪癖。
     口に出した直後、後悔する。自分自身を叱りたくなる。そんな心情が顔に出てしまったのだろうか。
     彼は「仕方ないな」というような、宥めるような顔で、あたしの頬に触れた。

     これではどちらが受け止める側なのか、わかりやしない。

    「あいつは、自分が抱えてる悩みだの辛さだの、そういった感情を一切表に出さなかったんだ。全部自分の中に溜め込んで、積み重なっていって……とうとう、糸が切れちまった」
     こちらからも手を伸ばし、彼の頬に触れる。そのまま親指を目尻から目頭へと滑らせる。親指の腹で、滲む涙をこぼさせまいと受け止める。



    「瞼の裏に焼き付いて消えないんだ」
     親指の腹から、受け止めきれない涙がこぼれていく。親指の付け根から手首へと、一筋。
    「今まで見たことがない目をしてた。真っ暗だった。絶望と後悔しかない。そんな目は一度たりとも見せたことなんて無かった。……何が”親友”だ。俺は……あいつの愚痴の受け皿にすら、なれなかったんだ」
     一筋の跡をなぞるように、大粒の涙が後を追う。手のひらに受けてもなお溢れていきそうな彼の心が、雫となってあたしの胸に落ちた。


    ――――――


     何かあった時のためにとオープンにしてある無線から、入室と同時に、畏れの混じった微かな悲鳴。短く荒い呼吸。時折痛みに耐えるかのような小さな呻き。洞察作業のチェック項目を読み上げる声は掠れている。じっと聴いていると、またも脳が危険を叫ぶ。先輩が作業する様子を聴いているだけだっていうのに。先輩が頑張ってるのに、自分がこんなことで負けてられるか。がんがんと響く頭を抑えながら、じっと耐える。
     先輩は作業を続ける。段々と声から力が抜けていく。呼吸の音がより短く、より荒く。時折漏れる呻き声はさっきより大きくなっている。そろそろだ、時計に目をやった。作業予定時間ぴったりに、消え入りそうな、震える声で。
    「洞察作業……終わったぜ」

     矢も盾もたまらず、メインルームを飛び出していた。まだ頭痛の余韻が残っているが、先輩の状態を考えたらそんなの誤差だ。廊下を行き交うオフィサー達にぶつかりそうになる。もどかしい。先輩のところへ。一刻も早く。早く。
    「先輩!ダフネ先輩!」
     壁にもたれかかり、手には握り拳。何とか立っている、というよりそうでもしないと今にも倒れてしまいそうな、先輩の弱々しい姿があった。肩で息をする先輩が、こちらに向かって顔を上げる。その顔にはまるっきり生気が感じられなかった。
    「っは、ハハ……俺、まだ生きてるん、だよな?……生きてる……よな?」
     生きてます。先輩は生きてます。全力で走ったせいで息が上がっていたけれど、今はそんなことより。
     先輩に駆け寄り、肩を貸す。すまんな、と小さく先輩の声。預けられた体重が、思った以上に軽く感じた。そしてその線の細さにどきりとする。そこらの女性よりか、余程細いんじゃないのか。

     先輩の着る黄金狂――『彼女』と同じ魔法少女の一人であるというアブノーマリティ『貪欲の王』から抽出したE.G.O――は、同じ魔法少女と呼ばれる存在から抽出されたとは到底思えない、頑丈な装甲のついた明らかに前衛向きといった趣の防護服。
     その装甲でも誤魔化しきれない、隙間から覗く体の線の細さ。先輩の体格そのものは共同浴場で度々見ていた。一緒にサウナに入り、間近で見たこともある。細いながらもそこには筋肉の確かな感触。防護服越しに触れて、あらためて思う。隠された強さがそこにあるのだと。
     率先して未知のアブノーマリティに作業をする。率先して脱走したアブノーマリティや試練の鎮圧に向かう。血気盛んかといえばそうでもなく、冷静に戦況を判断して押し引きのタイミングを図ったりもする。その判断力は誰よりも高い。
     同期のコービン先輩やグレゴリー先輩でも、ダフネ先輩より一手遅れる。コービン先輩やグレゴリー先輩が決して弱いわけではない。ダフネ先輩は、間違いなく……『慣れている』。その表現が一番しっくりきた。
     この人は、強い。

    「先輩は、あれの作業をやりきったんすよ!もっと胸張って、堂々としてくださいよ!」
    「そういうのはお前さんの方が似合ってるぞ、ウランランス」
     そんなことない。自分はまだ、『彼女』に堂々と胸を張って会えるとは思えない。決めた覚悟に、力が伴っていない。
     先輩はまだオープンのままであった通信機のマイクに音声が拾われないよう、声を殺して。
    「いつ居なくなるかもしれん奴が……するようなことじゃ、ないってだけだ」
    「そんな、」
     そんなことない。先輩に限って、居なくなるなんて、そんなことない。
     先輩に何があっても、きっと管理人はやり直すだろうから。何度でも。

     そう言いたかったのに、その先が紡げなかった。
     自分よりだいぶ背丈(タッパ)のある先輩。今はこうして肩を貸して、同じ高さから見る先輩の横顔。そこから窺う翡翠のような瞳の奥に、また、あの締め付けられるようなものを感じて。
     先輩の強さは『そこ』から来ているのだ、と。直感がそう告げていた。
     その正体はわからない。


    ――――――


     3回目はそこそこに期間が空いてしまったと記憶している。まずWAWクラスを収容できる状態まで持っていけることが少ない。そして俺がそこまで生き延びていられるかまで行くと相当に少ない。
     何とか必要最低限程度には文字が読めるようになってきていたから、初期の段階から始まる点であればある程度は生き延びることができた。
     そういう点に限って、管理面で上手く行かなかったりする。
     知っているアブノーマリティが収容されても、迂闊に口を挟めば怪しまれる。まだ管理人がXじゃなかった頃のことだ。俺も悪知恵が働くほど場数踏んでいなかったし、さり気なく誘導する、なんてもってのほかだ。そういう発想がなかったし、Aに対して何か意見できるような空気でもなかった。
     もどかしかった。俺はあいつの対処法を知っているのに、それを教える訳にはいかない。
     そんな点が何度続いたか。WAWクラスの管理もままならないような点ばかり。HEでもなんとかかんとかという有様で、最早彼女のことも半ば忘れかけていた。

     あの時もそうだ。WAWクラスなんて収容しても、まともに管理できそうもない点だった。俺自身、この点はそろそろ覚悟しておいたほうがいいかと思う程度には。
     もう死ぬことにもいい加減慣れた。慣れたくなんてなかった。
     痛かったり苦しかったりもするが、いわゆる喉元過ぎればっていう奴だ。要は引きずらなければ良い。点を飛んだと察したら、前の点のことはすっぱり切り捨てることがすっかり習慣となった。
     そんな危うい点でのこと。情報開示に必要なPE-BOXの量からして、推定WAWとされる個体を収容した。
     いよいよ腹括る時が来たかと思いつつ、一応確認だけはする。
     一目見て、即座に思い出す。間違いない。あの黄金色の光だ。

     矢も盾もたまらず、相手がAであるという事実すらもかなぐり捨てて。
     自分が作業に行く、と申し出た。
     一応防具は赤属性に耐性がありはしたものの、俺自身の体力が保つかはわからない。最悪、そのまま死んでもいいとまで考えていた。
     HEすら安定して管理できない状況では、遠くない未来全滅、そうでなくとも管理人が諦めるだろう。そんな点を必死こいて生き延びるよりは、目の前の彼女に。『貪欲の王』に。
     聞きたいことが沢山あった。ぶち撒けたいことも沢山あった。
     Aは取っ掛かりを探していたのだろう、意外と素直に作業許可を出してくれた。
     少女のような人影が見える。ひとまず愛着作業を試してこい、と。
     本能作業でないことが若干不安要素だったが、そんなことをいちいち気にしていられる心の余裕も無かった。

     収容室まで全力で駆けた。あれほどに胸が昂ぶったのは生まれて初めてかもしれない。
     作業チェックリストは無視して、息を切らせながら収容室のドアを開ける。
     喜びに弾むような調子で。
    『入るのならば、音声機器の類は切ってもらおうか。でなければ許可は出せんな』
     彼女だ。彼女の声だ。
     Aから、通信を切るよう指示が入る。――言われずとも。
    「……音声、全部切ったぞ」
     まだ僅かに整いきっていない呼吸に乗せて伝え、収容室に入った。

     宝石のような窓から透けて見える彼女は、明らかに嬉しそうに見えた。
     尊大で勿体つけた口調で、からかうように。
    『久しいな。3度目か。緑の髪の坊や』
    「ぼ、坊や……。あんた、そんな喋り方だったか?」
     いずれ話すことだ。もう”知っている”ことを隠す必要もない。……隠さなくて良い。その事実からくる安堵が、知らぬ間に口を動かしていた。
    『そなた達が貪欲の王などと呼ぶからな。王と呼ばれるのならば多少は”らしい”態度で振る舞ってみるのもまた一興。だろう?』
     はっと気づいて、端末に目を落とす。
     表示されているアブノーマリティ名は『O-01-64』。収容されたばかりだから、当然名前など判明していない。
     やっぱり、覚えている。”前”のことを。
    「あ、あんた……何で、覚えて、俺のことだって」
     訊きたいことが沢山ありすぎて、普段殆ど喋ってこなかった弊害がここに来て押し寄せる。
     吃る。噛む。声が震える。言葉が出てこない。何から訊いたら良いのかがわからない。知りたいことを全部まとめて訊きたい。
     ”王様”っぽく振る舞うことにしたらしい彼女の話も余すところなく聞きたい。
    『全て答えるには時間が足りんぞ。一つ言うとしたら、そうだな……』
     ゆるりと一拍置いて。
    『そなたの内にある欲の匂いだ。今までで初めてだぞ、このような奇妙な欲は』
     当時は”打ち明けたい”ということを欲のひとつだと認識していなかった。
     ただ”死にたくない”という意思だけは自覚していたから、”生に執着する欲”以外持っていないことを指して奇妙だと言っているのか。そう思い込んでいた。

     作業時間もあまり残されていない。時間に対して話したいことが多すぎる。
     どうせ全部聞けるわけがないことは最初からわかっていた。
     なら、”次”に続きの話をしよう。覚悟は決まった。
    「えっと、”王様”、でいいのか」
    『申してみよ。……ふふ、なかなか面白いな。こういうのも』
     全てを喰らい尽くす恐ろしいアブノーマリティが、無邪気に笑う。見た目相応の挙動。
     その姿を見て少し躊躇いが生まれたが、振り払う。
    「俺を、喰ってくれ。欠片も残さず」
    『……ふ、ははは!何を言うのかと思えば!やはりお前は面白いな。この私を自害の道具に使うか。こいつは傑作だ!』
     ”王様”ごっこも忘れ、完全に素の反応を見せる彼女。
     相変わらず、からかうように。
    『断る。お前はもっと熟れてから喰うことにした。まだ青い林檎と真っ赤に熟れた林檎、喰えるのならば熟れたほうを喰うに決まっている』
     そう上手くは行かないかという落胆と、まだ当時はよく理解できなかった例え話。理解はできなかったが、内容はハッキリと覚えている。
     いつかその真意を訊いてみたいと思ったから。
    『美味いものは最高の状態で喰らうのが良いのだ。……まるでわからん、といった顔だな。つまりお前はまだ青い林檎、ということだ。精々腐ることなく熟れてくれよ、ふふ』
     やたらと愉しそうに笑う彼女――”王様”のあどけない顔が、印象に残っている。
    『それと、私は自害の道具ではない。そんなに”次”に行きたくば、別の手段にしておけ』
    「その、……悪かった」
    『良い。どうせじきお前は死ぬつもりなのだろう。その欲がどう熟れるのか楽しみにしているぞ。……またな』
    「あぁ。”また”な、王様」

     作業結果は普通。だが、彼女は脱走しなかった。したらしたで鎮圧をするふりをして喰われに行くつもりでいた。
     彼女も俺が真正面から喰われに来ると察したのだろうか。
     やはり、そう上手くは行かないらしい。

     次にいつ会えるかはわからない。
     しかし、気兼ねなく自身の境遇をぶち撒けられる存在が居る。その事実がたまらなく嬉しかった。
     生と死を繰り返すだけの拷問めいた煉獄で、まだ俺は立っていられる。


    ――――――


    「うーっ、寒っ……いきなり氷漬けたぁたまったもんじゃねぇや」
     いまだ寒気の残る身体を震わせ、鼻水をすすりながらひとりごちる。L社も大概だったが、この図書館とやらも大概奇妙なことばかり起きる。
     そもそも自分は一度死んだはずの身でありながら、何事もなかったかのように活動できていること自体まず奇妙なことこの上ない。

     奇妙ではあるのだが、そんなことがどうでも良くなる程に気がかりなことがあった。
     ちらとかつての同僚を見やる。
    「俺に何かあったら娘を頼む」――半ば遺言めいた言葉を託した、あの時とは大きく変わってしまった、大切な同僚を。


    ――――――


    「何でドライヤーかける必要あンだよ!拭くだけでいいじゃねえかそのうち乾くんだし!」
    「そんなんだから君の髪の毛はガッサガサのままなんだよ~。そもそも君、お風呂自体サボりがちでしょうに。たまに顔出すときくらいこざっぱりして帰り給えよ」
    「余計なお世話だっつの!なんかあんた、来るたびにチェック項目増えてってないか!?最近は歯磨きチェックも始めたしよぉ!」
    「そりゃ君が歯ぁ痛いって愚痴ってたからでしょ~。治療はしてもらったんだし、再発防止のケアもしないとね。君の歯、すごく乱杭だからさ」
    「俺は酒呑みに来てるだけのはずなんだけどなァ!?」


    ――――――


     人間の手はこんなにも脆く頼りない。研いだら剥がれそうな薄く柔らかい爪、ちょっと力を入れたら折れてしまいそうな細長い指。ものを保持するのには確かに有効な形だが、いざ自分のものとしてみるとまるで自由に動かない。どう指を動かせば“握れる”のかがわからない。匙の1本もまともに握れない俺に、あんたは本当に、……本当に根気強く付き合ってくれたよな。
     有り得ないだろ。こんなナリしてるのに言葉も喋れず、かといって何が出来るわけでもない。むしろ人としてのまともな行動は何一つ出来ないと言ってもいい。二本の脚で歩くことすらぎこちない有様だ。普通はこんな得体の知れない奴の世話を焼こうなんて露ほども思わないだろうさ。見て見ぬふりをして関わり合いにならず、何なら警察に通報でもするところだろう。
     なんで、……なんで……俺を無視しなかったんだよ。なんで“ここ”で匿おうなんて思えるんだよ。面倒事しか起きようがないってことくらい、あんただって承知してるだろうに。なんで……


    ――――――


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    🇱🇴🇻🇪👏👏💴💴💴💴
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    アロマきかく

    DOODLEたまにはサブ職員さんの解像度を上げてみよう。
    49日目、オフィサーまでも一斉にねじれもどきになってその対応に追われる中、元オフィサーであったディーバにはやはり思う所があるのではないか。そんな気がしたので。
    甲冑で愛着禁止になったときも娘第一的な思考だったし。
    なお勝手に離婚させてしまってるけどこれは個人的な想像。娘の親権がなんでディーバに渡ったのかは…なぜだろう。
    49日目、ディーバは思う 嘔吐感にも似た気色の悪い感覚が体の中をのたうち回る。その辛さに耐えながら、“元オフィサー”だった化け物共を叩きのめす。
    「クソっ、一体何がどうなってやがんだよ……ぐ、っ」
     突然社内が揺れ始めて何事かと訝しがっていたら、揺れが収まった途端にこの有様だ。
     俺がかろうじて人の形を保っていられるのは、管理職にのみ与えられるE.G.O防具のお陰だろう。勘がそう告げている。でなければあらゆる部署のオフィサーばかりが突如化け物に変貌するなどあるものか。

     もしボタンを一つ掛け違えていたら、俺だってこんな得体のしれない化け物になっていたかもしれない。そんなことをふと思う。
     人型スライムのようなアブノーマリティ――溶ける愛、とか言ったか――が収容された日。ヤツの力によって“感染”した同僚が次々とスライムと化していく。その感染力は凄まじく、たちまち収容されている福祉部門のオフィサーが半分近く犠牲になった。そんな元同僚であるスライムの群れが目前に迫ったときは、すわ俺もいよいよここまでかと思ったものだ。直後、管理職の鎮圧部隊がわらわらとやって来た。俺は元同僚が潰れてゲル状の身体を撒き散らすのを、ただただ通路の隅っこで震えながら見ていた。支給された拳銃を取り出すことも忘れて。
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