*
「お、今日も会えたな」
最近家の近所でよくみる銀色の、大きめの猫。態度がふてぶてしいところがまたかわいい。
「おいで」
しゃがんで手招きすると今日は素直にこっちへよってきた。頭を下げて、撫でさせてくれるようだ。
「いい子だな、アルハイゼン」
毛色とか瞳の色とか、そしてなにより全然懐かないところが誰かを想起させる。こっそり名前をつけて、撫でたり構ってたりしていた。(ん?懐いてる?)
「アルハイゼン、かわいいなぁ……」
そんな名前をつけてしまったこと。それは僕がヒトの方のアルハイゼンにずっと片思いをしているからかもしれない。だからこれは内緒にしたかったのに。
「俺の名前を勝手に使うな」
「うわっ?!」
そういえばここは彼の家の前で。すぐにバレてしまったのだ。
「ちっ、ちが、これはこの子が銀色で君に似てるから……」
「……なんでもいい、俺のいないところでやれ」
「待てよアルハイゼン」
「にゃあ!」
「あ、」
「……」
家に入ろうとしたアルハイゼンの名前を呼ぶとネコのアルハイゼンが反応してしまった。申し訳ないけどかわいい。
「よしよし、アルハイゼン、ごめんな」
「…………」
ひょい、とアルハイゼンを抱っこして撫でる。ヒトのアルハイゼンの眉間のシワが増えた気がする。
「あっちのアルハイゼンがおこりんぼだから名前変えないとな〜、なにがよいかな、シロかな、クロかな」
「そいつは白くもないし黒くもない」
「でもアルハイゼンはだめなんだろ?」
返事の「だめだ」と「にゃあ!」が被る。思わず笑ってしまった。ヒトのアルハイゼンは非常に面白くなさそうである。
「君もこの子を撫でてみたら?そうしたら可愛さがわかるかもしれない」
「…………」
ヒトのアルハイゼンに向けてネコのアルハイゼンを抱っこしなおす。アルハイゼンが手をのばす。お、いい感じじゃないか。
「!」
「みっ!」
「あ、」
……いい感じじゃなかった。ネコのアルハイゼンはヒトのアルハイゼンにてしっ、とパンチをしてなでなでを回避してしまった。
「……コイツは確かに俺に似ているな」
「? そーか?」
ネコのアルハイゼンは僕の手は問題ないらしく、撫でているとゴロゴロ喉をならしていた。
「君はこんなに可愛くないだろ、ん?ちゅーか?」
「…………!」
ネコのアルハイゼンがぺろりと僕の顔をなめてきた。
*
アルハイゼンたちの冷戦が続いていたある日、例年稀に見る豪雨の日があった。
「あの……、アルハイゼン」
「なんだ」
「お願いがあるんだが……」
今日だけネコのアルハイゼンを家にいれてよいだろうか、とお願いをした。アルハイゼン関係なく元々動物を飼ったり入れたりはしないという話になっていた。(装飾品や本たちに傷がついたら困るからだ)もっと嫌がられると思っていたが、ヒトのアルハイゼンは大きくため息をつくと彼を受け入れた。そう、僕は知っているのだ。アルハイゼンは僕がいない時になんだかんだ餌だったりを代わりにあげていることを。
「ありがとうアルハイゼン」
「今日だけだぞ」
「あぁ!」
ゴウゴウと窓の外がうるさいなか、そろそろ寝る時間だ。自室へと寝るため入ろうとすると、ネコのアルハイゼンがついてくる。
「寒いよな、一緒に寝るか」
「にゃあ!」
「……!」
しかし、そこにヒトのアルハイゼンも着いてきたのだ。
「あ、アルハイゼン……??」
「俺も寒い、一緒に寝る」
「は?いや君は自分の部屋があるだろ……?!」
「コイツはよくて何で俺はダメなんだ」
「え、ええ……?!」
僕たちがうるさくしていたからかネコはとっくにリビングのソファに避難してしまった。なのに結局アルハイゼンは僕のベッドに潜り込んで僕はネコじゃないのにぎゅうぎゅう抱き着いて撫でられて一緒に寝たのだ。
「…………どういうことだ?」
おしまい!🐱