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    すえつむはな

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    すえつむはな

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    フォークロアの夢追翔に幻影を抱いて小説を書きました。
    このあとエログロになります。注意です。

    干し肉 もうちょっとの先だってわからない。吹雪の中、懸命に足を動かしている。一度でも止まったら、もう動けなくなってしまいそうだったから。意識がもうろうとして、ただでさえ見えない視界がどんどん狭まっていく。ひたすら進んではいるけれど風を遮ってくれそうな場所なんてどこにもない。もう、もうだめだ。
    「大丈夫?」
     声が聞こえた。

     目が覚めた。そこは、人どころか草木も見当たらない雪の大地ではなく、木の暖かみを感じる大きな部屋だった。目の前ではストーブの火が揺らめいている。ぼくにはブランケットがかけられていたらしく、体をおこすとぱさりと床へ落ちた。目線を下に向ければ、さっき落ちたブランケットがあり、ぼくの下には毛布が敷かれていることに気づいた。
    「あ、起きたね」
     声が聞こえた。振りかえると見慣れない民族衣裳が目に入った。その民族衣裳は湯気のたったマグを持ち、こちらへ歩いてきた。こう言うとまるで民族衣裳に意志があって動いているかのようだが、ちゃんと人間が着て動いている。ただ、もこもこと膨らんだ布地が、すっぽりとその体を隠してしまっているので、ぼくの目には"民族衣裳"が動いているように写った。
    「ココア入れたけど飲む?甘いのは嫌い?」
     "民族衣裳"がぼくと目線を合わせ、マグを差し出してきた。赤いファーの中から出てきた中身はとんでもない美人だった。雪のように透き通った白い肌。頬が桃色に色づいてより白さを際立たせている。切れ長な目は、底が見えないほど深い緋色。柔らかく笑う表情もあいまって、目尻に少し皺ができるのも、彫刻みたいに美しかった。前に叔母の家に置いてあったビスクドォルを見たことがあるけれど、あれなんかよりよっぽど人形じみた綺麗さを持っている。
    「好き…です」
    「そう、よかった。」
    美人はマグをぼくに渡すとストーブの上に置いてあったケトルに手を伸ばす。
    「一応あそこよりは暖かいと思うけど…。まだ寒いでしょ。」
    ケトルを持って部屋を歩きながら美人がぼくに話しかける。ものを持つ仕草すら絵になるなぁなんて、呑気に眺めていると美人がぼくを見た。
    「君、どこに行くの?」
    「え、」
    「あんな雪の中歩き回ってたんだもの、どこか行きたいところがあったんじゃないの?」
     そうだ。そうだぼくは。
    「家に、帰りたくて」
    「そんな薄着で?この辺の子…ならそんな格好でうろつくわけないし…。どこからきたの?」
    「うん、えっと、南の…えと」
     うまく言葉が出てこない。美人は机の上に置かれたマグにお湯を注ぎながらぼくの言葉を待つ。
    「ゆっくりでいいよ。あぁ、知らない人にお家を教えちゃいけません、ってやつかな」
    「わ、分からなくて。引っ越してきたばっかりだから。」
    「こんな雪の降る時期に?」
     美人は目をまんまるくさせて訊いた。
    「ぼくは引っ越しなんかしたくなかったけど、起きたら汽車の中だったから。」
     僕が帰りたいのは、どこかも分からない新居じゃなくて住み慣れた街にある家だ。新しい家の方が大きかったけど、それだけだ。ぼくは小さくてもいいから、街の中央にあって、友達にすぐ会いに行ける家がいい。
    「なんかわけありっぽいね。まぁ汽車で来た道を歩いて行こうとしたんだ」
     よっぽど帰りたかったんだね。そう、ただ、帰りたかっただけなんだ。父さんに頼んでも、母さんにだだをこねても、もうあの家には帰れないと言われて。だから外に飛び出して、僕だけでも帰ろうとしたんだ。もうあの家には帰れない。そう気がついたら、ぼくはわんわん泣いてしまった。美人は黙って、ぼくの傍にいてくれた。
     どれくらい泣いていただろうか。ちょっとずつココアを飲んで、気持ちが落ち着いてきた。
    「ぼく、帰ります。」
    「街にあるお家?」
    「ううん、新しい家の方。やっぱりぼくだけじゃ帰れないから」
    「そっか。…まだ手が冷たいね。お風呂入って暖まってきな。それから寝て、明日になったら家まで送ってあげるよ」
    「ありがとう…ございます」
     タオルと着替えを渡され、お風呂場に案内される。今さらになって、こんな美人の前でみっともなく泣いてしまったのが恥ずかしくなってきた。美人が何か説明してくれているが、まったく頭に入ってこない。タオルに顔を埋めて気を紛らわせようと下を向く。ふと、顔をあげると、美人がいない。お風呂場から出ていったようだった。ひとりで恥ずかしがっていてもどうしようもないので、ぼくは服を脱いでお風呂に入った。お湯に浸かると、体がじんわり温かくなってきて気持ちがいい。
    「使い方わかる?」
    「あっはい。わかります」
     美人が声をかけてきた。それだけじゃない。お風呂場に入ってこようとしている。
    「まだ本調子じゃないでしょ。そんなフラフラなのに1人にしておけないよ」
     まずい。美人が入ってくる。確かにぼくはまだ10歳になったばかりだけど、お風呂にお母さんと入るのだってとっくに卒業している。ぼくはとにかく焦った。
    「まっ、待って!ください!1人で大丈…」
     シャッと、仕切りの扉が開かれた。美人は産まれたままの姿でそこに立っていた。さっきはもこもこの民族衣裳を着ていたからわからなかったけど、とても細身で、でも貧相なわけではなく、綺麗に筋肉のついた四肢を持っていることがわかった。雪国で暮らしているからだろうか、さっきよりも見える面積の増えた肌は驚くほどに白く美しい。美人は体まで美しいんだと、ぼくはこのとき知った。
    「知らない人と一緒に入るのは嫌だろうけど、何かあっても困るからさ」
    「嫌じゃないんですけど…。は、恥ずかしいですよ」
     胸も隠さずにどんどん美人が近づいてくる。ぼくは顔をあげることができなかった。背中にはバスタブがあたり、視界に美人の足が入り込んだ。いよいよ逃げられない。ぼくは恐る恐る顔を…あげようとして気がついた。女の人にはついてないモノが美人にくっついている。
    「男同士、裸の付き合い…ってことで」
    美人は、男の人だった。
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