15ロド箱入りドラルクはひとりで家の外に出たことがないので学校へももちろん送り迎え付だ。
ロナルドとなんだかんだ仲良くなったドラルクは初めて放課後にゲームセンターへ寄り道した。
ふたりきりだった。
特有の騒がしさに驚いて死にかけたが、ロナルドを散々ゲームでおちょくり、リアルで砂にされて笑ったり怒ったりせわしなく瞬く間に時間が溶けた。
ゲームセンターからふたりの家はバラバラの方向だったので、そこで解散することになった。じゃあ、と声をかけてもその場から動きそうにないドラルク。少し進んで気になったロナルドが引き返した。
「なにしてんの」
「迎えに来てもらうんですよ。私、かわいいからひとりで帰っちゃダメなんです」
もう15歳だぞ? 言ってる言葉はわかるけれど理解できないと思いつつもロナルドは細い腕を掴んだ。
「なんですか?」
「帰るぞ」
「送ってくれるってこと?」
敏いドラルクの質問には答えずに引っ張ってロナルドは歩き出した。半ば引きずられているのにドラルクは楽しそうだ。「歩き疲れたらおんぶしてくださいね」なんて図々しいことを言って笑っている。
大通りに面したゲームセンターから離れ、住宅街に入ったところでロナルドは歩くスピードを少し落とした。住宅街を抜けて奥、街の端っこにドラルクの住む屋敷がある。
後ろから早足だったドラルクが追いついてロナルドの隣に並ぶ。引っ張って、引っ張られていた手は解かれずに繋がった。
雑魚吸血鬼だから仕方ない。
手を振りほどけずにロナルドは思った。ひとりで帰れというにはドラルクは小さくて頼りない。だからと言って電話一本でドラルクの予定に振り回されて迎えに来る人はかわいそうだ。
仕方がない。
だから自分がドラルクを送るのだ。
ロナルドは宛てのない言い訳を心の中で繰り返した。
「ね、ね、ロナルド君」
無言で歩くロナルドを意にも介さずドラルクが見上げる。
「今日とっても楽しかったのでまた遊んであげてもいいですよ。一緒に帰ってあげますね」
ロナルドは目を剝いて絶句した。逆だ、逆!俺がお前に付き合ってやったんだ! と大声で怒鳴りつけようと大きく息を吸い込んで、結局音にはならずに吐き出した。
なんだかすっかり馴染んで歩いているが、今日が初めてだったのだ。
ふたりで、放課後、遊んで、うちまで送るために、手を繋いで歩いている。
次が当然にあるのだと思い当たり、ロナルドは俄かに浮足立った。
「私、行きたいところたくさんあるんだよね」
ロナルドの返事を待たずにドラルクはしゃべり続ける。ファミレス、大型本屋、ゲームショップ、ファストフード店、ロナルドにとってはありきたりな場所をドラルクは目を輝かせて並べたてた。
「あちこちフラフラしてたら家の人が心配すんじゃねえの」
少し前からドラルクのポケットから鳴り続けるバイブ音にロナルドもドラルクも気付いている。
「大丈夫です。ロナルド君が一緒だって言いますから」
細い腕で、繋いだロナルドの手ごと振り上げてドラルクは笑った。
「……そっか」
ロナルドはそれだけしか言えなくて、
「そうですよ」
けれどドラルクは強く肯定した。
「いつでもどこへだって行けますね」
「じゃあ俺はずっとお前のそばにいなきゃなんねえじゃん」
「ずっと付いていってあげますよ」
おかしな話だ。
学校以外で過ごすのは今日が初めてなのに。ありとあらゆるゲームが好きなくせにゲーセンに行ったことがないというから仏の心で連れて行ってやっただけのことなのに。
気付けばふたりは次どころか随分先の話をしている。
なんだよ、ずっとって。
「俺はテメーの下男でも何でもないぞ」
「え~雇ってあげますよ」
「テメーの金じゃねえだろ」
くだらないやり取りを続けているうちにあっという間にドラルクの家に着いた。
繋いでいた手はあっさり離れる。
「また明日、ロナルド君」
「ん、またな」
ドラルクが家に入るのを確認してロナルドはスラックスのポケットに手を突っ込んだ。
「どこをほっつき歩いてたんだバカ弟子!!」
「放課後くらい好きにさせろヒゲー!!」
扉の向こうからビックリするくらいの大声が聞こえる。
「全然大丈夫じゃねえじゃん」
苦笑してロナルドも帰路に就いた。
次、を明日にするのはこの分だと難しいかもしれない。
それでも次がある。その次の次も、ずっと。