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    Chu_hai87

    @Chu_hai87
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    Chu_hai87

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    モブ企画さんに間に合えば提出したかったやつ
    Kiks前提でとある呉服屋の亭主の後悔の話
    終わりが見えないので、供養

     お恥ずかしながら、私は今まで夢なんてものを見ずに生きてきた男でした。
     玉阪の古い着物問屋の息子として生まれた私は、なんの疑いもなく親から店を継ぎ、許嫁だった妻を愛して結婚し、息子を授かりました。私にとって、人生はとは与えられた役目を全うするだけのことだったのです。
     玉阪は芸事の街ですから、うちを贔屓にしてくれる客には役者の方も多い。だけど、私はそのような華やかな人々は自分とは違う世界の人と鼻から決めつけていました。

     だから、十五になった息子が「役者になりたい」と言い出した時は驚きました。あの華やかな舞台に立つのが夢なのだと必死に語る息子を、私は信じられないものを見るような目で見てしまいました。
     当然、私は反対しましたし、随分と酷いことも言いました。
    「お前に務まるような世界じゃない」
    「着物問屋の息子に、役者の才能があるはずがない」
     息子は私に何を言われても食い下がっていましたが、夢を見たことがない私にとって、息子の言葉は全て世迷い事にしか聞こえませんでした。
     そうして、延々の押し問答の末に私は「そんなに家を継ぎたくないのなら、出ていけ」と親子の縁を切り、息子は家を出ていきました。
     玉阪にはユニヴェールという演劇学校がありますが、ツテを使って聞いたところ息子はそこには入学しなかったようです。私がいる手前、玉阪では役者は出来ないと思ったのでしょう。
     どうせすぐに泣きついて帰ってくると思った私の予想を裏切り、息子は幾度の春を迎えても戻っては来ませんでした。その間にもどんどん老いていった私は「間違っていたのは私の方だったのかもしれない」とそう思うようになったのです。
     そんな時でした。妻から、ユニヴェール歌劇学校の公演を見に行かないかと誘われたのは。息子が出ていってから、私は私生活でとんと演劇に関わるものにはとんと触れなくなっていたので、最初は難色を示しましたが……あの大人しい妻が珍しく引き下がろうとしなかったのです。息子がいなくなってもう二十年近くたった事もあり、妻としてもなにか思うことがあったのでしょう。
     妻に折れるような形で、私が初めてユニヴェール劇場へ足を運んだのは七十六期の新人公演でした。そういえば、この町に住んで何十年も生まれ住んでいたというのに、こうして自分から演劇を見に足を運んだのは息子が子供だった頃に一度玉坂座の舞台を見に行った以来なので、酷く久しぶりでした。
     初めて見たユニヴェールの舞台はそれはもう、素晴らしいものでした。特にクォーツの主演のアルジャンヌの高科君の華やかさもそれを支える三年生の立花君の所作も、本当に美しいかった。しかし私は、華やかな二人の後ろで、名もない群衆として舞台に立っていた一人の子に気が付いた瞬間、言葉を失いました。それは妻も同じだったようで、舞台が終わってから私と妻はお互いに青い顔を見合わせました。

     彼は、出ていった息子の姿とうり二つだったのです。

     それからすぐに、私は彼の素性を調べました。
     クォーツ生の睦実介君。施設育ちの孤児で、両親は不明。その記述を見て、私は自分の背に冷や汗が滲むのを感じました。
     もしかしたら、彼は自分たちの孫かもしれない。そう思った私は、ユニヴェールの学舎を訪ね、とある人と面会をしました。創業からの御贔屓であり、現玉阪比女彦である中座校長。私は彼に今までのことを打ち明け、睦実君に会わせてほしいと頼みました。
     しかし、中座校長は首を横に振ってこう言ったのです。

    「あの子は、ようやく自分の夢を見れるようになったんだ。今は、邪魔してやらないでくれ」

     そこの言葉を聞いた瞬間、私はどんな顔をしていたのでしょうか。
     私は校長と、睦実くんとは卒業までは面会しないと約束をしたうえで、素性を隠してユニヴェールの公演に足を延ばし、その度に彼のファンとして手紙を送り続けました。群衆の一人である自分に手紙を送られ、kれは困惑していたようですがそれでも丁寧に返事をくれました。とても、礼儀正しく優しい子なのだと私は手紙を通して睦実君のことを知っていきました。
     一年の時は名前のある役を一度として貰えなかった彼が、二年の秋で初めて主役を貰った時、私は思わず泣いてしまいまいました。彼の努力がようやく報われたのだと。
    それと同時に、私に襲ってきたのは深い後悔でした。どうして、自分は……自分の息子のときに同じことをしてやれなかったのかと。
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