お恥ずかしながら、私は今まで夢なんてものを見ずに生きてきた男でした。
玉阪の古い着物問屋の息子として生まれた私は、なんの疑いもなく親から店を継ぎ、許嫁だった妻を愛して結婚し、息子を授かりました。私にとって、人生はとは与えられた役目を全うするだけのことだったのです。
玉阪は芸事の街ですから、うちを贔屓にしてくれる客には役者の方も多い。だけど、私はそのような華やかな人々は自分とは違う世界の人と鼻から決めつけていました。
だから、十五になった息子が「役者になりたい」と言い出した時は驚きました。あの華やかな舞台に立つのが夢なのだと必死に語る息子を、私は信じられないものを見るような目で見てしまいました。
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