水着と女子会「今度ドラ公と海に行くってなって、昨日水着を見せたら笑われたんですよ!? 酷くないですか!?」
「エット、アノ、ハイ……?」
少し世間話でもとお茶と菓子を出された瞬間にものすごい剣幕で捲し立てられ、クラージィはその勢いにポカンとした。さすがに本人も悪いと思ったらしく、すみませんと言って麦茶を口に含んだ。
退治終わりのロナルドと猫カフェ勤務後のクラージィは事務所から程近い所で偶然出会った。ロナルドから時間あるならうちに寄って行きませんかとクラージィは誘われ、特に断る理由もなく二つ返事で了承して事務所へと通されて現在に至る。
「ソウイエバ、ドラルクハ?」
「あぁ、アイツならクソゲー漁りに出掛けてます。だからアイツがいない内にこうして不満を言いたくて……」
そう言った声は怒っているように聞こえるが、表情は曇って見えた。彼女は憤りよりも不安を感じているのだろうとクラージィは察する。陰る青い瞳を助けてやりたいと思った。
「海、行クシマスカ?」
「はい……来週なんですけど、それまでに何かこう……いい水着を見つけてドラ公を見返してやりたくて……!」
「ナルホド。ロナルドサン、水着ハ何着ルシマシタ?」
「あっクラージィさんは馴染みがないですよね、すぐ持って来ます!」
すっくと立ち上がったロナルドはパタパタと隣の部屋に引っ込んで行った。が、二、三分して戻って来る。その手には黒のような紺色のような何かが握られていた。
クラージィとていにしえの外国人のままではなく、ぐんぐん日本の文化を吸収している。水着もつい最近どういうものか分かった。初めこそ下着との違いがよく分からなかったが、撥水性があると説明を受けて「そういう物なのか」と納得した。
そうして色々と学習しているクラージィではあったが、目の前に掲げられたのは初めて見るものだった。
「これなんですけど、高校の時に着てたやつで」
「……初メテ見ル形シテマス」
目の前に広げられたのは所謂スクール水着だった。しかし、クラージィは当然それがよく分かっていない。勿論これをドラルクが笑った理由も分からなかった。
「学校では大抵水泳の授業があるんですけど、その時にこういう水着を着るんです。最近は上下別々のセパレート型が主流らしいですけど。この水着まだ着られるのにドラ公のヤツ、何がダメなんだ……」
興味深くスクール水着を観察するクラージィにロナルドは親切に説明してくれる。クラージィはそれを聞きながらもこの小さな布に彼女の恵まれた身体が収まるのか疑問に思った。
「とりあえずこのままじゃ笑われっぱなしだから水着を買いに行きたいんです! でもどんなのがいいか分からなくて……」
「私デ良イデシタラ、オ手伝イシマス」
目の前で項垂れる美女はクラージィにとって迷える子羊の一人だった。それは自然と手を差し伸べたくなってしまうもの。
クラージィの言葉に曇っていた顔が晴れやかになった。青い瞳がキラキラと輝いてクラージィを見つめている。
「本当ですか! よろしくお願いします!! 急ですけど明日とかって――」
「代ワリニ、コレ着ルシテミタイデス」
「え!? これですか!? お礼ならもっとちゃんとしたのを……」
「私、水着マダ着ルシテナイデス。気ニナリマス」
今度はクラージィが目を輝かせた。知らないこと、体験したことないことはとことん気になる。知的好奇心に満ち満ちていた。
「まあ……クラージィさんがそう言うなら! 脱衣所まで案内しますよ」
二人してソファから立ち上がった瞬間、ガラッと窓の開く音がした。続けざまに事務所のドアがバタンと開く。
「そんなもの着るなクラージィ! それともう少し肌を出すことに抵抗を覚えろ!!」
「おい若造! 変なことを客人に教えるな!! あと君の水着は私が決めるからな!!」
二人の吸血鬼が事務所に同時に突撃し、スクール水着を挟んで彼女たちはそれぞれ自分の恋人をに振り返った。