英駐在の王と独駐在の蔵が仏でデートする話「週末の予定は?」
「空いているよ」
古くは国際電話だったんだろう。時代というのは便利なものだ。
ぼくたちはAirpeという通話アプリを通じてほとんど毎日のようにビデオ通話をしていた。これではまるでオンライン同棲だ。でもオンラインじゃ実体に触れられない。そこにクラウチの気配を感じているのに、触れられない、のはどうにももどかしさばかりを齎していた。
ロンドンの夏から秋にかけては、唯一爽やかな晴れ間が覗く季節である。王子はBBCプロムスをほぼ毎日のように立ち見で観るんだ、と意気込んでいたにも関わらず、プロムスの公演時間に間に合ったのはごく僅かだ。仕事というのは大概、無情なものだ。ぶつくさと文句をぶつける王子に、そこにWeTubeがあるから聴けるだろう、と何気なく言ったせいで、蔵内はカンカンのお冠になった王子を宥めるのにずいぶん苦労した。
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