「カーヴェ?」
夜中、部屋の明かりはついているのに物音がしない。不思議に思い声をかけるゼン。机に突っ伏すかべ。寝ているのかと思ったが、
「……ル、ハイゼン……」
「仕事をしているわけじゃないなら、早く寝るといい。休息も仕事のうえでは、」
「アルハイゼン」
「おい、カーヴェ」
フラフラと立ち上がり、ゼンを抱きしめるかべ。
「ずっと、考えていた」
「何を」
「あの時君に声をかけたのは、間違いだったって」
「そうか。ならばこの腕を離すことだな」
「嫌だ」
「おい、」
「苦しい」
「なに」
「君といるのも、君と離れるのも、君に軽蔑されるのも、君に助けられるのも、全部苦しい。君になんて、話しかけるんじゃなかった。君なんか……」
「……」
「なんでこんなやつ、僕は好きになってしまったんだ……」
腕に力が籠る。
「君さえいなければ、僕はこれほど惨めな思いをしないで済んだ。あの頃に戻れるなら、君に話しかけるなんて選択はもう絶対にしない。こんなに……全部、君のせいだ」
「そうか」
「……それでも、好きなんだ」
「前は、嫌いだと言われた気がするが」
「それはっ」
身体を起こすかべ。目が合う。顔を逸らすかべ
「それは、君の理念の話だ。君自身のことじゃない。だいたい、僕は嫌いな奴と酒は飲まない」
「そうだろうな」
「そうやって、何でもわかってるような顔が嫌いだ」
「そうか」
「いつだって冷静で、僕のことなんか眼中にないような態度が嫌いだ」
「そうか」
「それなのに、肝心なところで僕を助けようとする。君なんか……」
「俺は君のことを必要としている」
「……は?」
「前にも言わなかったか? 君はこのスメールにとっても必要な人材だ。君を失えば、教令院にとっての大きな損失になる」
「それはっ、組織の話だろ。別に僕がいなくたって、また別の誰かが」
「それだけ、君を認めていると言っているんだ」
「な、に」
「俺が何を言っても君は素直に受け取らない。だから、俺も君に感情を伝えることをやめた。ただ事実だけを述べることに決めた。だが、そうだな、これは事実として、伝えるべきだろう」
「アル、」
「カーヴェ、君がそうであるように、俺も君が好きだ。手放し難いと、思っている」
かべの背に腕を回すゼン。俄かに信じられず、棒立ちのかべ
「なんだ、応えてはくれないのか?」
「だ、って……こんな、あり得ない。君は本当にあのアルハイゼンなのか? アルハイゼンがこんな……こんなこと、」
「……」
かべの態度にイラつくゼン。胸ぐらを掴んでキスをする
「ん……っ⁉︎」
「これで、わかったか」
「……、っと」
「なに?」
「もっと、したい……アルハイゼン……」
かべからのキス。触れたと思えば舌が侵入してくる。予想外のキスに少し慌てるゼン
「ン、……ハァっ」
息が上がる。
「君、そんな可愛い顔もできるんだな」
殴ってやろうかと思いつつ、かべの髪を鷲掴みにする
「これでよくわかっただろう」
「……いたっ、わなった、わかったから! 髪を引っ張らないでくれ!」
「ああ、そうだ。ひとつ伝えておくことがある」
「な、なんだよ」
身構えるかべ
「知っての通り、俺はこういうことには慣れていない。だから、主導権は先輩である君に任せようと思うが構わないだろうか」
「……! き、君ってやつは……!」