旅人との会話
「ねえ、結局アルハイゼンは何でカーヴェを受け入れたの?」
「同居のことか?」
「うん。カーヴェはお互いに気に食わないって言っていたけど、俺にはそんな風には見えなかった。それに、アルハイゼンは一度もカーヴェを否定していないよね?」
「あいつにもそのくらいの理解力があれば、俺ももっと楽なんだがな」
「ふ、ははっ、なにそれっ」
「何かおかしなことを言っただろうか」
「だって、ははっ、アルハイゼン、前に言ってたよね? ただでさえ生きづらいのに、自ら悩みを増やすなんて馬鹿げてるって」
「ああ、よく覚えていたな」
「それなのに、自分から不可解な人間に関わって、理解されないことに悩んでるんだって思ったら、なんか面白くて」
「悩んでいる? 俺が?」
「自覚なかったの?」
「……ふむ、なるほど。確かにあいつのせいでする必要もない苦労を感じているというのは、一理あるように思うな」
「それを苦労だと思わないくらい、カーヴェのかとが大切なんだね」
「そうだな。前にも言ったが、一人の自己犠牲の上に成り立つハッピーエンドなど俺は認めていない。あいつ一人が全て背負い込んだところで、変えられる運命など幾ばくもない。それなのに、あいつは、」
「素直に心配だって言えばいいのに」
「言ったところでどうなる。あいつのほうこそ、もう少し物事を真摯に受け止めるべきだろう」
「……そっか。アルハイゼンは、カーヴェの分までカーヴェのことを受け止めているんだね」
「……、」
「野暮なことを聞いてごめん。でも、そっか。ちょっと安心したよ」
「君たちは、カーヴェにそれを伝えることができる」
「……アルハイゼンがカーヴェのことを大切な思ってる、って?」
「ああ」
「……伝えないよ」
「そうか」
「うん。だってこれは、アルハイゼンが、アルハイゼンの言葉で伝えないと意味がないんでしょ?」
「旅人」
「ん?」
「いや、ありがとう」
「どういたしまして」
からの、かべとの会話
「アルハイゼン! 君はまた僕を置いて砂漠へ行ったのか! どうして君ってやつはそう……もっと、自分の身を案じるべきだ!」
「問題ない。俺は自分の危機管理くらいできている。君と違ってな」
「っ、君ってやつは……!」
「君こそ、もっと自らを顧みたらどうなんだ」
「なに? おい、それはどういう意味だ」
「そのままの意味さ。君の理念は俺には理解できないし、俺の理念も君には理解できない。俺はそれで構わないと思っている。だが、そのせいで君が度々道を踏み外しそうになっていることに、君自身も気づいているだろう」
「……あのメモ、やっぱりそういう意味なのかよ」「何だ、気づいていたのか」
「僕ならあれを読むことができる。君にはそれがわかっていたからあんなことをしたんだろう」
「その通りだ。もし君があの頃をすべて忘れてあの文字が読めなかったなら、それはそれで仕方ないとも思っていたよ」
「……忘れるわけ、ないだろう……。なあ、アルハイゼン。少し、話をしないか」
「今しているが」
「そうじゃなくてっ!」
「早く話すといい」
「っ、……はぁ。僕は、僕の選択が正しいなんて思っちゃいないんだ。それは君も知っているだろ」
「ああ」
「それでも、僕はこういう選択しかできない。それが僕の性格であり運命だというなら……その通りなんだとも思う。結局僕は、何ひとつ達成できずにいる。でも、もし僕が利己主義に走ったとして、それはきっと今よりもっと僕を苦しめることになる。僕は、君が羨ましいんだよ……。能力も知識も、何ひとつ君には敵わない。君はきっと選択を間違えたなんて思うことは、ないんだろうね」
「そうでもないさ」
「え、」
「君といると、無駄に悩みが増える。これは選択ミスと言っていいだろう」
「な……、ああ、そうかよっ」
「待て、カーヴェ。それでも、俺も、この選択しかできなかった。君には一切共感できないが、ほれでも俺は、君の見ているものを知りたいと思っている」
「なに、」
「君の思考は俺とは全く異なる。君がどんな選択をし、どんな結果をもたらすのか、見てみたいと思っている」
「それはつまり、僕を被験者として観察したい、ってことか」
「その通りだ」
「はあ、君に一瞬でも期待した僕がバカだったよ」
「そうか、それは悪かった。……カーヴェ」
「な、なんだよ」
「もし君が選んだことで君自身が取り返しのつかないものを失うのだとしたら、俺は殴ってでも君にその間違いを認めさせる」
「は? いきなり何の話だ? 殴る、って……」
「だから、絶対に間違えてはいけない選択を、見誤るなよ」