まほずし 「ヒース、何食べる?」
向かいに座るシノが嬉しそうに注文用のタブレットを操作する。
ヒースクリフがテレビで見た回転寿司屋に衝撃を受けたのは数週間前のことである。レールの仕組みや寿司以外のサイドメニューに興味が出た彼は幼馴染であるシノを誘い、近所にオープンした回転寿司屋にやってきた。
「本当に寿司が回ってる……」
「当たり前だろ、回転寿司なんだから」
驚くヒースクリフに疑問を抱くシノ。ヒースクリフにとって寿司は回らないものであり、なんなら自宅に寿司職人がやってきて握ってもらうこともあるものであった。
「ヒースいくらがあるぞ。頼むか?」
「じゃあ、俺も食べようかな」
「わかった。お、ウニもある。ヒースもウニ食べるだろ」
慣れた手つきでタッチパネルを操作していくシノに注文を任せ、テーブルや店内の内装を眺めていると、テーブルの上のあるものが気になった。
「これは?手を洗うの?」
レーンの下にある黒いボタンの付いた蛇口を指差して尋ねる。
「いやそれは熱湯が出る」
「そうなんだ……」
羞恥で顔が赤くなるとタイミングよく頼んだ寿司がテーブルまで届いた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
シノがいろいろ食べたいだろうとマグロやサーモンなども注文していたため、テーブルの上には多数の寿司が並んでいる。まずはこれからだろうとヒースはマグロの寿司を口に入れる。
「どうだヒース、うまいだろ」
「……あ、美味しいよ」
普段食べている寿司と微妙に異なるが、これはこれで美味しい。
「だろ、ウニもあるぞ」
「ありがと、うっ………」
シノに勧められたウニを口にした瞬間固まるヒースクリフ。
「………シノ、ウニ食べない?」
「いいのか?」
せっかくのウニなのに、と不思議そうな顔をしてヒースクリフからウニの軍艦をもらう。
「うまいのに、いいのか?」
「うん、色々食べてみたいから」
そうか、とシノはさらに寿司を注文していく。
「シノ、さっきからイクラしか食べてない気がするんだけど……」
「だってうまいだろ、イクラ」
「まあそうだけど……」
いろいろと食べるヒースクリフと好きなネタを何度も頼むシノと、注文の仕方に個性が出る。
「あ、サイドメニュー」
寿司を頼みすぎて気になっていたサイドメニューに全然手をつけれていないことに気がつく。
「今から頼むか?」
「いや、もうお腹いっぱいで……」
育ち盛りではあるが食が細いため、すぐ満腹になってしまう。
「じゃあ、次来た時だな」
「次はさ、ファウストとかネロも誘おうよ」
「いいな、それ。」
次への楽しみを見つけ、2人は会計へと向かう。
会計を終え、外に出る2人。ちょうど目の前を先輩であるファウストとネロが歩いていた。
「あ」
思わず顔を見合う4人。
「なんだ、お前ら寿司食ってたの?」
「そうだ。羨ましいだろ」
ふふんと嬉しそうにシノが自慢する。
「よかったら次はみんなで行きませんか」
「いいの?俺らお邪魔して」
ヒースクリフの誘いによって4人が回転寿司屋に行くのはまた別な話。