南の国の優しいお医者さん魔法使い。そう自称するフィガロには最近悩み事があった。
「おじさん」
「お兄さん、でしょ」
「フィガロおじさん三十二歳なんでしょ? おじさんじゃん」
「こら。フィガロ先生に失礼だろう」
知り合いの子供がふてぶてしい。父親であるレノックスは何度も注意しているのに、この少女はフィガロのことを『おじさん』と呼び続けた。
「で、フィガロおじさん。お母さんは大丈夫なの?」
「お兄さんね。大丈夫、少し安静してもらってるけど問題はないと思うよ」
ここ、フィガロの診療所にレノックスと彼の娘が訪れていたのには理由があった。
最近、少女の母親――晶の体調が優れない。どうも常に気分が悪そうで、時々戻してしまう。何も食べたくない、と訴える彼女を心配した二人は慌ててフィガロの元にやってきたのだ。
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