角羽尻尾なディーノ君(竜父子+ポップ)序章
その手は、墨のように黒く澱んで、どこまでも広がる空間から、突如として腕だけ生えたように伸びてきた。指先は赤黒い血で濡れ汚れ、ひたりすたりと滴り落ちては、水面のように波打つ地面へと吸い込まれていく。びちゃん、と高い水音が、聴覚をつんざいて響き渡った。
絶対にこの手に捕まってはいけない。
本能的に悟り、ディーノは地を蹴って走り出した。走って、走って、全力でひた走った。
手が追って来る気配を感じて、ディーノは耐え切れずに肩越しに背後を振り返った。ひとつだったはずの手の数が、時間の経過とともにどんどんと増えていた。
その手のどれもがディーノへと伸びてくる。凝り固まった悪意を乗せて。
恐怖に滲んだ視界を振り払って、ディーノは駆け続けた。
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