【試し読み】ブランチにはフレンチトーストをそれはただの気まぐれだった。偶然自分の方が早く起きて、その寝顔を見てしまった。ただそれだけのことだった。普段あまり見せない、小さく開いた口から覗く舌先が無防備に誘っているように見えて、それに触れたいと思ってしまっただけなのだ。そっと唇を重ねて、舌で直接触れてしまえば後はもう勢いに任せて貪り続けるだけだった。虚言と悪態ばかりが出てくるくせにマホロアの小さな口の中は柔らかくて温かく、蜂蜜のようにとろけて甘く感じた。
「んっ……」
小さくくぐもった声をあげるが、マホロアは目を覚まさない。昨夜は散々魔力を貪ったせいで疲労の色が濃く、最後の方は気絶するように眠りについたことを思い出してマルクは苦笑する。マホロアは、いつもそうだ。素直にキモチイイと認めないから抵抗して余計に消耗している。実に、勿体無い。魔力を介さないこのやり取りですら、意識の奥では受け入れているというのに。角度を変えて、今度は深く口付ける。舌を絡め取って軽く喰み、口内を撫でるように蹂躙していくと流石に息苦しいのかうっすらと瞼が開いた。
「ん、……マルク?」
返事の代わりに再度口付け、頬の内側と上顎を舌で優しく撫でながら小さな舌を転がすように舐めてやると、押し返すように絡めてくるのに気付いてマルクは目を細めた。魔力を流し込むためではない、純粋に愉しむための行為にマホロアが乗ってきたのが意外で、しばらくその柔らかな舌の感触を堪能していた。敏感な粘膜同士で触れ合うだけで、こんなにも心地良く甘美だ。魔力のやり取りとはまた違った快感に、二人は静かに溺れていった。