椿の話(拳+修)ふとして目に入ったそれ。
鮮やかな赤がごっそりと落ちていく様を、まるで首斬りみたいだと思ってしまった。
「おい、修兵。…どうかしたのか」
「いや、なんでもないです」
「……椿か」
俺の視線の先を辿ったのであろう、隊長が目の前に落ちている椿を見遣る。
道を彩るように植えられた椿は何故か赤一色しかなく、地面の落椿はまるで血だまりのようにすら見えた。
「椿は縁起が悪いっていうらしいな」
「そう……なんですか」
「なんでも椿が落ちる様が首斬りに見えるらしい」
「は…」
隊長はこちらを見ることなく話す。こちらを見ていないはずなのに、心を見透かされているようで心地が悪かった。
赤、赤、落ちる、赤。
あのときの状況とどこか重なる。
落ちる、落ちる、落ちる、赤。
ーーいや、あの時は落ちなかった、。
結局、俺はいつだって怖いんだ。
自分が死ぬことも、剣を振るうことも、誰かを殺すことも。
思考の海へと潜っていたを引き上げたのは、隊長の一言だった。
「おまえみたいだな」
「…はい?」
「だから、おまえは椿みたいだって言ってんだよ」
「…縁起の悪い花になぞらえないでくださいよ」
「縁起が悪いってのは勝手に人が言ってるだけだ。気にすんなよ」
「そうだとしても俺なんかを花に例えるなんて」
「そうか?」
そう言ってにやりと笑う隊長に、納得できないながらも心が軽くなる感じがした。
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修兵がいつだって何かを怖がっているのを知っている。それはあいつの死であり、力であり、他者の死だということも、修行を重ねるうちに自然と知れた。
しかし、いざなればと冷静かつ合理的に任務を全う出来ることも俺は知っている。それが東仙の教えと、修兵の研鑽によるものだということも窺い知れた。
あの鎖と鎌で確実に敵を仕留めるその姿は、どこか冷たくて美しかった。
落椿にその姿が重なって映った