ちょっとだけ、背伸びさせて差が埋まらない。
年の差、実力の差、経験の差。
どれをとっても拳西さんには敵わない。それは俺がどう足掻いても一生埋まらないだろう、二人の差だ。
(身長差だけは俺の方が上だけど、それを言ったら拗ねるだろうから口にしたことはない)
この差を自覚するたびに、俺なんかが隊長の副官でいいのだろうかと思ったり、俺ではなくもっと素敵な人がいるのではないかと考えたりが止まらなくなる。
それでも横にいることを諦めきれないから、その差を少しだけでも埋められるように頑張るしかない。
「なに考えてるんだろうなコイツは……」
働き詰めになっていた修兵を捕まえて、隊舎の仮眠室に放り込んだのが数刻前。しかし、当然素直に修兵が寝るはずもない。
「ちょ、何するんですか」
「働きすぎだ。ちったぁ休め」
「俺なんか全然働きすぎじゃありません!!」
「お前、自分の顔鏡で見たか?死にそうな顔してるぞ」
「繁忙期だから仕方がないです!もうちょっとしたらゆっくりできますから」
「お前のもうちょっとは信用ならねぇ」
無理矢理布団に寝かしつけ、逃げ出さないように自分も横になってがっしりと抱きしめる。最初こそもがき暴れていた修兵も、俺がさらさら離す気がないのを察したのか次第に身体の力を抜いてため息をついた。
「……本当に、働きすぎじゃないんです」
「……おう」
いつもより幾分か小さく、低い呟きを聞き逃さないよう耳を傾ける。
「俺には足らないものが多すぎるんです……。早く、隊長の横に、堂々と立てるように、……もっと頑張らなきゃ……」
「……」
「ちょっとだけでも、背伸び、させ……」
身体の方がだいぶ限界が来ていたのだろう。眠気に勝てず、途切れ途切れにそう言って修兵は寝入ってしまった。
そして冒頭の言葉に戻るわけだが。
「お前は充分やってる」
芯の強い、それでいて柔らかな髪をそっと撫でる。
東仙が離反してから俺が復隊するまでの間、隊長代理として編集長までこなしてきたのに、まだ何かが足りないなんて。
「背伸びしすぎだ、馬鹿」
もとは泣き虫で怖がりだったはずなのに、それを押し殺しながら修兵は気丈に俺の隣に立っている。それが痛々しく見えるのに気づいていないのは本人だけだ。
「足りないとこは埋め合えばいいってことに気づけよ」