一時的に耳がちょっと聞こえなくなるライトさんのところにアキラくんがくる話
ホロウで爆発を連続で浴びたあとから音が聞こえづらい。医者の見立てではおそらく五日もたてば治ると言われる。徐々によくなるからずっとこうというわけでもないらしい。
それならなんとかなるだろと気楽に考えていたが、すこし楽観し過ぎたようだ。まずバーニスの高い音が一番聞き取れない。何か音がするとかろうじてわかる程度だ。対してパイパーやシーザーはまだ音が聞こえる。ルーシーも、冷静であればまぁわかる。
「……」
そう、"音"がわかるだけだ。"声"としてはききとれない。医者もその点は匙を投げた。郊外に住んでいるわりには腕のいい部類だと思うが、わからんと、ただ調べてみるとも言っていた。
まぁつまり、ライトの今の症状はなかなか面倒だった。
必要なやり取りはすべてチャットですることにしたが、日頃どれだけ耳を頼りにしていたのかがよくわかる。気配でひとの位置や動作は拾えても、圧倒的に情報が足りない。
そもそもこれは何の音だ。風の音なのか。砂が舞う音なのか。常に耳に何かが吹き付けられているようで不快だ。
顕著なのは夜だった。娯楽のない郊外の夜は、酔っ払いやならず者がいなければひどく静かだ。だから、よけいに、つきまとう音が響く。
まさかこれぐらいのことで、まったく眠れなくなるとは思わなかった。
2日目に、アキラがくる。
「………なんで」
聞こえないせいで自分も話すのをやめていたのについ声が出た。アキラはすこし心配そうな顔をして隣にくる。取り出したスマホに打ったメッセージを見せられた。
『別件で話してたらシーザーが教えてくれたんだ。本当は朝にはくる予定だったんだけれど、用事を済ませていたらこの時間になってしまった』
「…………、アキラ」
「うん なんだい ライトさん」
じっと見つめて、ほんの近くでなぞられた名前は、口の動きで聞こえなくともわかった。そのことに少しほっとする。
「あんた、…しごと、」
自分が話せているのかどうかがわからず顔を顰めてしまった。
『依頼なら心配いらない。ビデオ屋のほうはリンがいるから。一応、僕がいない間はニコ達にも様子を見てくれるよう頼んだ。だから、そうだな、7日は確実にここにいられる』
慣れた手つきで文字を打ち込むのを隣から眺めるのはやはり変な気分だ。
『心配いらん。五日もたてば治るってことだ』
しかたなく、自分もスマホを出して指を滑らせた。
『あんたは戻って、』
『ライトさん』
打っている最中に、ぽこ、と通知がきた。
顔を上げれば、アキラが困ったような顔をしている。
『僕がいるほうがあなたが休めないなら、帰るよ』
『…んなことは言ってない』
『なら、そばにいたいんだけれど…。だめかい?』
『…………』