9月の新刊の進捗①久しぶりに彼を見た。ただの男だった。
過ぎ去った過去は時間という波間に消え失せて、ただその鮮烈な香りを脳に植え付ける。
「服部さんが煙草を吸うときに何考えているんですか」と酔った勢いで絡んできた酔った部下が誰だったのか、「何も考えないため」と言い放った青い服部自身は何歳だったのか、そしてその言葉は真実だったのか。思い出せない。そんな会話が、言葉が、吐き出した息があった。たった、それだけなのにその事実はとても忘れられそうにもない。
でも。それは服部耀自身にとって、の話だ。
(この人も、そうだったのかもしれない)
風が吹いた。ゆるい立ち消えるタバコの煙ぐらいの、その程度の存在だったのかもしれない。
人影のない屋上。手の届かない距離。いつかのようにその人はタバコを吸っていた。
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