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    ふらはな

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    ふらはな

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    日苗:26
    パラレルでアンドロイドパロディ的な。未来機関の人をいいように捏造してます。苗木君しんでるし日向君は暗い雰囲気だし、なのでご注意ください。

    「おはよう。日向さん」
     日に日に近くなっていると感じるその声を聞くと、反射で肩が跳ねる。振り返って居たのは案の定、あいつによく似たアンドロイドだ。似ているな、と思うのはこいつが苗木を模すよう改良を重ねられているからなのか、俺の記憶が薄れているせいなのか分からない。どっちにしても気分が悪くなる。しかしそれを表に出したところでどうしようもないことが分かっているから、諍いを起こさないためにも押し込めるしかないのだ。
    「前にも言ったけど、さん、なんて付けなくてもいいんだぞ。呼び捨てでいい」
     敬称を付けられるより、ずっといい。苗木の姿で気を遣った態度を取られると、まるで自分が苗木を物として扱っている気持ちになるのだ。
    「うーん、あんまり機関の人を親しげに呼ぶのはよくないんだけど」
    「それでもだ」
    「分かったよ。じゃあ日向クン、だね」
     でも結局、気兼ねない態度をされても気分はよくならなかった。作り物らしいカタコトの話し方はまだ似ていないけど、少しずつ本物に近づいている。敬語じゃなくてもいい、と伝えた時も同じ気持ちになった。いっそ見下してくれたら踏ん切りもつくのだが、そこまでは無理だよ、とはっきり断られてしまっている。苗木はそんなことしない、と苗木を真似するな、がずっと心の中で渦巻いてその泥沼に沈んでいるみたいだ。
     会話も続かなくて困っていたところへ、通信機の受信音がした。俺が自分の物を取り出すより早く耳に当て二言三言話した後、呼ばれちゃった、と言って踵を返す。
    「行ってくるね」
    「任務か?頑張れよ」
    「もちろん!」
     笑顔で走り去っていく後ろ姿に、怪我はするなよ、と呟いて俺も自分の仕事へ戻ることにした。

    「キミが日向創さんですね、初めまして。これからどうぞよろしくお願いします」
     今まで横たわっていたベッド代わりの台から降りて頭を下げる。よろしく、と返す自分の表情が見られなくて本当に良かったと思う。
     任務で仲間を庇い半壊して修復作業が必要になるのはこれで何度目だ。答えを求めていない問い掛けに八回目だと返してしまう自分がいる。覚えていたくないのにしっかり数えているこの頭が嫌になった。
     修復されるたびに壊れた記憶はなくなり、残っているデータでまた新しいアンドロイドが作られる。戦闘や人格を形成する基本的な記録はすぐに研究員が保管するため、完全に消えるのはあまり重要じゃないと判断された私生活のデータ、人間関係に関するものなどだ。運良く消えなかったものもあるけど、俺との記憶が残っていたことはない。
    「あぁ、よろしく。それと敬語もいらないし呼び捨てでいい」
     これを言うのは八回以上だ。最初はあっさりと断られ、五回目くらいから迷いつつ承諾するような反応になっていった。
    「分かった!じゃあ日向クンだね!」
     前回は一度断られた呼び方も、今回は簡単に承諾される。呼び捨ては相変わらず駄目なようで、催促してもうーん、と言った後やんわり拒否された。
    「教育係の人の言うことはよく聞くようにって皆に言われたからね。まずは何をすればいいのかな?教えてよ、日向クン」
     どうして俺が精神的な疲労に悩まされつつも一緒にいるのか、どうして人の形を模した精密機械の近くに居るのを研究員が許しているのかというと、これが理由だ。人間らしい生活を覚えさせることと、苗木に近づけること。教育係の仕事は主にその二つ。
     皆というのは自分を作った研究員たちのことを言っているんだろう。まだいる絶望の残党を倒すために作られた、『希望』の戦闘用アンドロイドがこいつだ。見た目は人間そっくりと言っていいかもしれないが、戦闘用のくせに精神から寄せて作られているのは、はたから見て随分と歪に見えた。
    「だったら、まずは機関の中から案内するよ」
     毎度、最初にやるのは道案内からだ。消えやすい人間関係を覚えさせるのに便利だし、建物内を記憶させておけば色々な場面で有効に活用してくれる。地図くらい研究員が入れてそうなものだが、『希望』にしか興味のないあいつらはこうやって基礎的な知識を後回しにしてそのまま忘れるのだ。
    「今日は教えられてばっかりだなぁ」
     笑いながら言われた。
    「呼ばれてから到着するまで結構遅れたからな。時間もあったし、難しいことたくさん言われただろ」
    「うん!皆も優しく教えてくれたよ」
     日向クンと同じように。そう言われた瞬間、血の気が引いた。だけど同時に血が上り声を荒げる。
    「俺があいつらと同じだって言うのか…!」
     脳は熱いのに顔が冷えていく。
     一緒にしないでほしい。苗木のことを研究対象にしかしていないやつらと…要素としてしか人間の心を見ていないやつらと、苗木のことを『希望』と認識して無茶をさせたやつらと!
     お前にだけは、そう思われたくない。
    「…ねぇ、日向クン」
     色々と考え拳を震わせ俯いていたのを、我に返り目を見開く。俺は何を言ってるんだ。言っても仕方のないことを。悪い、と言って顔を上げたがそこに顔はない。
    「日向クンは、ボクのこと嫌い?」
     下から覗き込んで、首をかしげて、そんなことを訊いてきた。すぐに否定しようとしたが、今までされたことのない質問へどう答えればいいか分からず言葉が詰まる。よそよそしい態度に「教育係がそのような態度では困ります」と言われたことはある。怪我をしたときに傷薬を渡されたことはある。でも、何かあったのかとか、どうして怪我をしたのかとか。俺について尋ねることなんてなかったのだ。
    「な、ん」
    「何となく、そうかなって」
    「何となくって…」
     てっきり今のことを指摘されるかと思ったのに、悲しそうな、人間のような顔でそう言われる。
    「日向クンが何を考えてるかは分からないよ。ただ、ボクが寂しくなるんだ」
    「…は?」
     何言ってるんだ。お前は機械だろ。
    「キミに文句があるわけじゃないんだよ!ほんとだよ!ただ、話していると違和感があるっていうか…やっぱり寂しいって表現が正しいと思うけど、どう言ったらいいんだろう。こういうのは教えてもらってなくて」
    「あっ、でも色々教えてくれたのは嬉しかったなぁ。うん、嬉しかった。しっくりくるって言うのかな?キミの隣にいるとずっとこんな感じなんだよね。あはは、ロボットなのに『感じ』っていうのは変かな」
    「何ていいっていいかは分からないけどこれって、きっとボク、キミのことが、」

    「随分と荒れてるな」
     肩で息をしながら振り返ると、俺が走ってきた方向から十神が歩いてくる。
    「お前のせいで腕をまた直さないといけなくなったぞ」
     俺が突き飛ばしたせいで歪んだであろう、人の色をした金属破片を見せつけるように揺らしながらそう言った。
    「なんで、俺を毎回教育係に呼ぶんだ」
    「あいつがわざわざ名指しで指定するからだよ。それに、お前がやらないと俺がやるはめになるからな」
     自分と同じようにロボットを見る78期生の表情を思い出す。ついでに研究員のしつこさも。押し付けられているのに不満はあるが、性格上なんともないように振る舞うせいで折れるまで頼み込まれる心情を思うと強く言い返せはしなかった。
    「あいつって誰だよ」
    「あいつはあいつだ」
     頑なに名前を呼ぼうとしない。俺が知らない相手なのか、だから説明するのが面倒なのかとも思ったが、意味深に手元を見る視線で気づいてしまった。あいつだ。食いしばったせいで奥歯がこすれて嫌な音がした。
    「俺の記憶はないはずだろ!なんで俺が呼ばれなきゃいけないんだ!」
     思わず感情的になった俺に顔をしかめ耳を塞ぐ動作までしたものの、咎めることはしない。それどころか、目を逸らしているせいで気まずそうにまで見えた。
    「記憶は確かにない。覚えているのは名前だけだ。詳しく聞いても知らないと返ってくるしな」
    「研究員が入れたのか?」
     自分で尋ねておきながらそれはないだろうなという確信がある。あいつらが何に興味を持って何を気にしないのかはよく知っている。人間らしさを教えてやれと俺に言っているのは、あくまで苗木の土台を作るためと、自分たちが記録をうっかり忘れるからという理由だ。そういうやつらなんだ。
     俺の言葉に「はっ」と鼻で笑ってからまた目線を下げた。
    「元々入っているんだ。あいつらも触れないほどの奥底にな」
    「だからどういう…」
    「苗木だよ」
     十神の口からその名前を聞くのは久しぶりだ。吸い込んだ空気が喉に引っかかって詰まる。
    「ずっと前にあいつらが書かせたデータがあるらしくてな。本人は何に使われるか分かってなかっただろうが。それにお前の名前があったんだろうよ。安心しろ、書き換えることも見ることもしないらしい。変えないことにこだわっているからな、あいつらは」
     分かったらとっとと働け、そう言って俺の横を通り過ぎて行った。頭の中で思い出さないようにしていた苗木の顔が、もうぼやけて思い出せなかった苗木の顔が、今では鮮明に思い描ける。笑いかけてくれた顔も、心配そうにしている顔も、何か言いたそうにして止めてしまう赤い顔も、完全に、あいつになってしまった。なのにまだそれを思い出として大切にしようとする。
    「お前はどこにいるんだ」
     なあ、苗木。
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