村の広場には薪が高く組まれ、たいまつを持った数人が一斉に火をつける。大きなたき火となり、大きな歓声が上がる。
待ってましたとばかりに音楽が鳴り始め、たき火の周りに踊りの輪が出来上がる。
友達、家族、恋人同士で、見知らぬ人は大きな輪を作る、といったいろいろな組み合わせで踊りを楽しむ。
宿の主に祭りが始まるから行ってみるといいぞと勧められ、覗いてみることになった。屋台も出て、夕飯もそこで調達できそうだ。
広場の一角のベンチを確保する。
アンジェラは支度に手間取り、まだ広場にたどり着いていない。
彼女を待っている間に次の曲へと変わっていく。
「このメロディー知ってる。こっちだとこんなアレンジになるんだ」
へえ、とホークアイが広場の中心へと目を向ける。
誰もが知っている踊りの曲ではあるが、地域によっては速さやリズムが違うようで、踊り方もちょっとずつ違うらしい。オレは踊らないのでよく分からない。
ホークアイが踊りの輪に今にも入ろうとするのを引っ張って止める。
「うん? 何?」
腕をつかまれたことに対して、ホークアイは首をかしげる。
「何って……」
オレは言い淀む。咄嗟に腕をつかんでしまった。こいつがあの輪に入ったら、踊りが上手くて絶対にチヤホヤされるし、近くにいる女の子に言い寄られるだろうし、それに対してヘラヘラするだろうしと見ているこっちの気も考えて欲しい。
とはハッキリ言えない。これはオレが勝手に想像して悶々としているのだ。
何も言えず動けないでいると、
「ははーん。もしかして、デュランくんはオレが声をかけまくるのではないかと心配してるんだな?」
ホークアイはズバリと言葉にする。
オレはギクリと固まる。
「オレってそんなに信用されてない?」
たき火の明かりに照らされて、ニヤニヤした顔がはっきりと分かる。
「じゃ、一緒に踊ろう」
それなら文句ないだろうと自信満々で誘ってくるものだから、断りようがない。
「きっと足踏むぞ」
踊りなんて大嫌いで避けて通ってきたのだ。ステップなど踏むことは出来ない。
「誰だって最初はそうだろ。アンジェラもそこは気にしないと思う」
おーい! とホークアイが手を振れば、遠くから支度が完璧なアンジェラも手を振り返す。
二人きりにならなくてホッとした気持ちと、二人きりになり損ねた残念な気持ちで、チクリと胸の奥が痛い。
「これから踊るの? いいわね!」
たき火の近くまで二人に引っ張られる。
ホークアイには足さばきを、アンジェラには上半身の動きを仕込まれ、ぎこちない踊りが出来上がった。