お題「ひだまり」キムラスカのファブレ侯爵の十歳になるご子息がある日突如行方不明となり、奇跡的に無事の帰還を果たしたものの、まるで記憶を無くし赤ん坊に戻ってしまったかのようになってしまった。
その身体警護のため、またその様を余人の目に触れさせないため。侯爵邸にほぼ軟禁状態となったそんな悲劇の侯爵ご子息が、もう一度赤ん坊から始めて一年余り、なんとか会話と自力歩行ができるようになってしばらくしたほどの頃。
冬が過ぎて、日中の気温がはっきり暖かくなってきて、何はなくとも外に出たくなる空気の漂う春。お昼を過ぎてしばらくした時間帯。
庭師が屋敷の隅にある、芝生と植え込みの小広場のようなところの様子を久し振りに確認しに行っていた。背の低い木々の枝振りを確認していると、離れた場所の樹の根元に、遠目にも明るいたまご色のレジャーシートが見えた。何だろうかとある程度の距離を保ったままそーっと移動して覗く。
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