「いってきます!」
誰もいない部屋からは返事をするようにバンバンッと食器棚の戸が1人でに開閉する音が聞こえた。それを聞いてから鍵を閉める。これがオレの最近のルーティンだ。
徒歩3分のコンビニにスマートフォンだけを持って行く。財布はいらない。別に何かを買うわけじゃないから。むしろ売る方だ。外はもう真っ暗だった。昼間は暖かかったけどそのままの服だと少し肌寒い。でもまあ3分だし。やっぱり近いって最高。色々あったけどこの家に決めてよかったな。
オレ、春原百瀬は大学に進学するのを機に一人暮らしを始めた。家を探す上でなにを重要視するかは人それぞれだろう。大学からの近さと治安の良さ、家賃、間取り。それらを考えながらいくつもの物件を見ていたら1つの部屋が目に留まった。駅近で破格の家賃。どれだけ狭い部屋なのかと間取りを見たら居間が6畳。独立洗面台もあって窓も東。小さなアパートの2階の角部屋だった。え、良い部屋じゃん。オレはすぐにその部屋の内見を申し込んだ。
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