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    まりも

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    恭←ピエっぽい恭ピエな話
    映画を観る二人

    ##恭ピエ

    もしもボクがおとなだったなら 今日はとても晴れていて、青空が目に眩しいくらいだった。こんな日にどこかに出かけないのはもったいないと、いつもだったら思っていただろう。でも、今日は特別だ。恭二の家で二人で映画を観るからだ。DVDを再生機に差し込み、準備する横顔をちらりと盗み見る。同じBeitの仲間で、ボクの、好きな人。本人に伝えたことはないけれど。それでも、そう遠くない未来に伝えたいと思っている。
    「ピエール、準備できたぞ」
    「あ!恭二、ボク、ポップコーン買ってきた!」
    ポップコーンの袋を出せば、恭二は微笑んで「ちょっと待ってろ」とキッチンへお皿を取りに行った。恭二の笑顔だって仕事で見慣れているはずなのに、それがボクにだけ向けられたものだと思うと胸が弾む。
    「ほら」
    「ありがとう!恭二」
    袋の中身をお皿に空けて、テーブルの上、丁度二人の間の辺りに置く。それを目で確認して、恭二はスタートボタンを押した。

     映画はコメディで、絶え間なくおかしいシーンが続くものだから、ボクはくすくす笑ってばかりいた。恭二もたまに肩を震わせているのが触れた腕から伝わってきて、それがボクをもっと楽しい気分にさせた。
     ただ、二人の笑いが途絶えるシーンもいくつかあった。性的なジョークもあったからだ。少し、……うーん、結構。言っている意味はわかるけど、その面白さがわからないボクはそういったシーンで黙ってしまったし、隣の恭二も気まずそうにしている雰囲気が伝わってきた。この映画を選んだの、失敗だったかな……とちらと頭を過ったものの、他のシーンは面白かったから「止めよう」と言うこともなく、画面も時間も流れていった。
     映画のクライマックスが近づくと、ボクたちのポップコーンを食べる手も止まった。雨の中での感動的なシーンでは、ボクは思わず家族を思い出して涙が一粒、二粒零れたし、恭二も泣いてこそいなかったが、グスッと鼻をすする音が聞こえてきた。映画はそこから急展開で、一気に和やかなハッピーエンドに落ち着いた。ボクたちは黙ったまま、エンドロールを最後まで観た。画面がメニューに戻って、一気に現実に戻ったみたいに感じる。恭二は、機械からDVDを取り出しながら「ポップコーン、あと少しだから、食えるなら食ってくれ」と言った。外を見ると、いつの間にか空は夕焼けで赤く染まっていた。恭二は、てきぱきとディスクをケースにしまい、テレビのリモコンを操作した。ニュースが流れる。それは、芸能人の恋愛報道で、なんとなく眺めていたら、聞きたくて、でも聞けずにいたことがぽろっと口からこぼれた。
    「恭二は、……恋人、いるの?」
    恭二が一瞬固まる。
    「いない。……いたとしても、ピエールやみのりさんに隠せるほど、俺は器用じゃない」
    それなら、ボクにもチャンスがあると思っていいんだろうか。返答に真っ先に思ったのがそれで、正直な自分に呆れてちょっと笑った。恭二はそんなボクを不思議そうに見つめる。
    「……ピエールがこういう話題に興味あるとは思わなかった」
    恭二は、そう言いながら、テレビの電源を消す。部屋に静寂が訪れる。言おうか、言うまいか、悩んだのは一瞬だった。
    「恭二のことだけ、トクベツだよ」
    恭二が、オッドアイの目を見開く。いつもはきれいだと思って見つめているその瞳を、今はなんでか直視するのが難しい。
    「恭二のこと、……好きだから」
    言ってしまった。ドキドキと鳴る自分の鼓動がうるさい。顔も熱いし、自分ではわからないけど、きっと頬も赤い。
     でも、恭二の様子を窺うと、しばらく黙ったままだった。「……あのな、ピエール」と、言葉を選びながら話し始めたその声のトーンで、返事がわかってしまった。熱かった体が一気に冷めるのを感じる。
    「普段は、おまえのこと、対等な仲間だと思ってるし、子ども扱いなんてしてないけど」
    「……うん」
    「……恋愛なら、話は別だ」
    「…………うん」
    顔が見られずに、なんとか小さな声で返事だけする。俯いていたから、恭二が目の前に来るまで気がつかなかった。
    「ピエール……」
    心配そうな声が、今は逆につらい。その時、ふっと気がつく。恭二の口から出たのは年齢のことだけで、同性であることも仲間であることも、付き合えない理由としては挙げられなかったことを。
    「ボクが……もっと、大人だったら、違った?」
    顔を上げて、正面から恭二を見つめる。次に視線を逸らしたのは恭二だった。気まずそうな様子が肯定を告げる。でも、そんなの、どうにもできない。ボクがもっと大人だったら、きっと国を離れることは、よしとされなかっただろう。継承権争いに参加せざるをえなかったはずだ。……そうしたら、きっと恭二とも会えなかった。じゃあ、大人になるのを待つしかないのかな?いつ、国に帰らなきゃいけなくなるかもわからないのに。ねえ、恭二、ボク、さっきの映画のジョークだってわかるよ。……子どもじゃないよ、とよっぽど言おうかと思った。でもきっと、恭二がどう思っているかより、他の人がどう思うか、ってことなんだろう。
     じわじわと悲しみが広がってきて、瞼が熱くなる。自分の願い通りにならなかったから泣くなんて、子どもっぽいことはしたくなかった。今は、特に。それでも涙が溢れてきて、隠すために、目の前の恭二の胸へ頭を預ける。恭二が優しくボクの頭を撫でてくれたから、もっと泣けてきた。どのくらいそうしていただろうか。恭二から、ゆっくり離れる。その体温が名残惜しかった。
    「……ゴメンね。ボク、今日は、もう帰るね」
    もともと夕食は家で食べる予定だった。明日は仕事があるし、あまり遅くならない方がいい。
    「ピエール……また明日な」
    そう言って恭二は、ボクの上着を差し出して、申し訳なさそうに微笑んだ。……こういうところが好き。諦めるなんて、できそうにない。気持ちが高ぶってくるのを感じながら靴を履き、恭二に向き直る。
    「ボク、諦めないよ。ボクのこと、好きになって!恭二!」
    恭二の返事を聞くのはまだ少し怖くて、さっと後ろを向いてドアに手をかける。
    「またね!」
    きっと笑えたはず。手を振って、ドアをパタンと閉める。大丈夫。これで明日もきっと元気に会える。そう信じてその場を後にした。
     だから、ボクは知らなかった。閉じたドアの向こうで、恭二がしゃがみこんで「これ以上、どうやって好きになれって言うんだ……」と呟いたことも、その頬の赤さも。
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