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    まりも

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    恭ピエ

    ##恭ピエ

    夜の公園「恭二!またね!」
    そう言って、くるりと背を向けたピエールの手を、咄嗟に掴んでしまった。ピエールが振り返る。その不思議そうな顔を見て、何を言ったらいいのかわからないまま慌てて口を開こうとする。でも、ピエールは俺が何か言う前に、ニコッと笑った。ちょっと待ってて、と言って離れた手に寂しくなってしまう。俺は、寂しかったのか、とそこで初めて気づいた。ピエールは、SPに何か言うとまた俺のところに戻ってきて、俺の手を優しく握った。
    「恭二、行こう」
    「……どこに?」
    「恭二、行きたいところ、ある?」
    首を振る。そもそも何がしたいわけではなかった。ただ、離れがたかっただけで。ピエールが俺の手を引くから、慌てて俯いていた顔を上げる。
    「じゃあ、ボク、公園行きたい!」
    そう言ってぐいぐい俺の手を引っ張るから、俺はされるがまま歩いていく。多分、商店街のそばにある公園だろう。何も面白い場所ではないのに、と疑問に思ったけれど、きっとピエールなりに俺と別れる時間を引き延ばしてくれているのだと、わかっていたから何も聞かなかった。
     着いた公園は、やっぱり遊具もあまりなく、電灯も少なくて暗かった。ふと、こんな時間にピエールをこんなところに連れてくるのは安全上あまりよくなかったんじゃないか、と気づく。それなのに「帰ろう」とは言えない俺は、自分のことしか考えてない。なんだか情けなくなってきて、横を向く。そんな俺の頬に手が添えられた。その手に込められた力に抵抗しなければ、顔は少し下にあるピエールの方に向かされる。
    「恭二、よくないこと、考えてる」
    責めるような言葉とは逆に、ピエールは優しく微笑んでいたから、自分がもっと情けなくなってしまう。きっと顔にも出てた。ピエールの眉が下がる。
    「……こっち、来て」
    そう手を引かれた先は、コンクリートの滑り台で、滑るのか、と不思議に思ったけれど、お目当ては滑り台じゃなかったらしい。その滑り台はトンネル型になっていて、その中にピエールが入っていくから、慌てて追いかける。こんな遊具で遊んだことのなかった俺は、ドキドキと心臓が鳴るのを感じた。これは、興奮というより、不安だ。幼い頃の俺だったら、ワクワクもしたかもしれないけど。真っ暗な穴の中をどんどん進むピエールに、頭をぶつけないように気をつけながらついていく。丁度トンネルの真ん中まで来たところで、ピエールは止まって体育座りみたいな姿勢で、背中を壁に預ける。俺も、困惑しながらも、同じように座った。狭くて、足が大分きつい。
    「……どうしたんだ?」
    聞いたけれど、本当はわかっていた。二人きりになれる場所を用意してくれたんだと。他の人も、SPもいない場所を。実際には、入り口と出口に二人は立っていたけれど、きっとこの中にいる俺たちのことは見ないようにしてくれているのだろうし、囁くように話せば、声だって聞こえない。
    「ボクが、恭二と、一緒にいたかった」
    暗闇に慣れてきた俺の目には、そう言って微笑むピエールの顔も見えていた。好きだ、と思う。いつも思ってはいるけど、こうやって好意と優しさをピエールから受け取る度、昨日よりもっと、ピエールを好きになっていく。今だって、ピエールへの感情に戸惑うことも多いし、きれいな感情ばかり抱いているわけではなかったから、俺はピエールに相応しくないんじゃ、と考えることも少なくなかった。なのに、これ以上、もっとピエールを好きになるのは、怖くもあった。そんなことを考えていた俺の手に、ピエールの手が重なる。ピエールの方を向く。ふわ、っとピエールの髪が揺れるのを目で追っていたから、キスされたことに気づくのが遅れた。いつもは見せない、いたずらが成功したようなピエールの笑顔に、何も言えなくなってしまう。
    「元気、出た?」
    「……ああ」
    なんとか、それだけ返す。事実、さっきまでグルグル悩んでいたことは、どこかに飛んで行ってしまった。ピエールはまた壁の方を向いて座り、今度は俺の肩に頭を預ける。
    「ボク、そばにいるよ」
    小さな声に、目が熱くなる。それは、嬉しい気持ちもあったし、「ずっと」とは言わないピエールの誠実さに、悲しくなったのもあった。ピエールはいつも、いつか別れる日が来るのを覚悟しているみたいだった。きっと、今手を離した方が別れる時辛くない、そう思うのに、その手を離すことができず、今日まで来てしまった。俺から別れを告げることはできそうにない。だから、その日が来るまでは、ピエールが言う通りそばにいたい。滲んだ涙には、気づいてくれるな、と願った。ピエールには情けないところばかり見せているから、今更だけど。そう思ったのに、つい、鼻を啜ってしまったから、きっとピエールにも気づかれた。でも、ピエールは何も言わず、俺に寄り添ったままだった。その優しさに甘えて、気持ちが落ち着くまではこうしていたい、と思った。いつか離れる時が来るとしても、今だけは一番近くにいられたらいい。
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