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    kunsei_nuts

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    kunsei_nuts

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    仗露

    渋からサルベージ
    何書いたのかも覚えてないっす

    無題「またダメだったのかよ」
    薄くなったジントニックを舐めるように飲みながら露伴が問う。ええまあ、と言葉を濁しながら仗助は運ばれてきたばかりのビールに口をつけた。「ふうん」とたいして興味もなさそうな相槌をうつ露伴を横目で盗み見るが、機嫌が悪いわけではなさそうだ。
    「ぼくのイチオシだったんだけどなァ」
    言いながら小鉢の漬物に箸を伸ばす露伴に習い、仗助もからあげをつまみあげ口に放り込んだ。


    この知り合いの漫画家とこうして飲みに出るようになったのは、仗助たちが酒を飲める年齢になってからだ。この浮世離れした見た目の漫画家は雑多な雰囲気の居酒屋が案外気に入っているようで、新しい店舗ができたと知ると仗助たちに同行の誘いをかけてきた。康一や億泰たちと数人の時もあればふたりきりの時もある。
    そしていまから半年ほど前、今日と同じくふたりきりで別の居酒屋に居たときに「恋人は作らないのか?」という質問が投げられた。
    「まあ…居たらいいな〜、とは思うっスけど」
    仗助は曖昧に返事をしながら落花生の殻を剥くのに集中するふりをした。突き出しで殻付きの落花生が籠盛りにされて出てくる店だった。酒も入っていたのでこうでもしていないと余計なことを口走りそうだったのでありがたい。
    なぜなら仗助は目の前の漫画家にかれこれ4年間も片思いをし続けているので。
    駅前にある雑居ビルの3階にある居酒屋の、窓際に作られた半個室で露伴とふたりきりで酒を飲んでいるこの状況も、恋心を自覚した4年前の仗助からすれば夢のようなシチュエーションである。窓から見える向かいのビルはラブホではあるが。

    「ぼくの友人でよければ紹介してやるよ。会ってみるかい?」
    一応ぼくの友人だし、身元はしっかりしてるぜ。仗助の手により丁寧に薄皮まで剥かれ小皿に並べられた落花生をつまみながら露伴が言う。ちらりと顔を伺えば、いたずらを思いついた子供のように目が輝いている。
    「そうっスね…会うだけでもいいなら、おねがいしてみようかなあ」
    「ぼくは取り次いでやるだけだから、デートの場所とかは自分でセッティングしろよ。」
    露伴は鼻歌でも歌い出しそうな勢いで携帯のアドレス帳を呼び出しはじめた。もう25になる男の、新しいおもちゃをもらった子どものようなうきうきとした顔に「ああ、好きだなあ」と仗助は思う。
    紹介してくれるという露伴の友人に会おうと思ったのは、自分の知らない露伴の友人というものに興味が湧いたからである。

    それ以降、仗助は露伴の友人数名と会うことになった。


    「まさか、億泰とくっつくとはなァ〜。あの子、ああいうのが好みだったのか。まあ、カナちゃんも悪い子ではないし、億泰も悪いやつじゃあないし、お似合いじゃあないの。」
    美女と野獣とはこのことだな、と機嫌良さそうに露伴が言う。それについては仗助も同感である。

    先日、露伴に紹介された「カナ」と名乗る女の子は、仗助より2つ年上で自らがデザインするアパレルブランドのオーナーだった。後から知ったことだが、仗助の通う大学にもそのブランドアイテムを愛用する人物が数人いた。
    パステルカラーの似合う彼女は、仗助の目から見ても可愛いと思える女の子で喋り方もふわふわとして可愛らしかったがそこは露伴の友人らしく、一本筋の通った気の強い性格だった。
    ファッションにはそれなりのこだわりがある仗助とも会話が弾み、カナが気になっていると言うセレクトショップとカフェを数件まわり、仗助がセッティングしたディナーにむかう頃には友人として付き合うのなら楽しい相手になっていた。

    そのディナーで利用したトラサルディで事件は起きた。

    トラサルディで高校の頃からバイトを続け今は正社員として働いている億泰は、店で提供されるデザートを任されており、その日も仗助たちのテーブルへデザートをサーブし仕上げの飴がけや添えられた焼き菓子の説明などを流暢に披露してみせた。食べ物に関する億泰の語彙力は普段の5割増しになる。
    厨房に引っ込んでいった億泰を目で追っていたカナは少し興奮した様子で仗助にこう尋ねた。
    「いまの彼、すごくイケてるね。仗助くんのおともだち?」
    いかつい見た目と見た目通りの言葉遣いとは裏腹に繊細な作りと盛り付けのデザートを提供するギャップに惹かれたらしい。
    デザートを味わいながら億泰とは高校からの付き合いだということ、露伴との共通の友人であることなどを仗助は話した。にこにこと聞き手にまわってるカナをみて恋する瞳ってのはこういうのかな、などと考えた。自分も露伴のことを考えているときはこういう瞳をしているのだろうか。

    仗助は帰り際に億泰を呼び出しカナを紹介した。短時間の付き合いではあるがいい子だと思うし、なにより露伴の紹介である。妙なことにはならないだろう。
    可愛い女の子からの突然のアドレス交換というビッグイベントに硬直し照れる友人を眺めながら表情筋が緩むのがわかり、自分に女の子を紹介する露伴の気持ちが少しだけわかった。

    そんなふたりが正式にお付き合いをはじめた、と数日前に報告があり、今回の飲み会が開かれることになったのだった。
    億泰曰く、カナは複雑な虹村家の家庭環境もすんなり受け入れたという。それどころかパパの服を作りたいな、などと張り切った様子だと言う。
    カナからのメールに添付されてきた自撮りのツーショット写真を見せながら経緯を話すと、露伴はことのほか嬉しそうに写真を眺め「よかったじゃあないか」と溢したのだった。
    「お世辞や嘘でそういうことをを言うような子じゃあないから、安心しなよ。」
    言い終えてすっかり氷の溶け切ったジントニックを飲み干した露伴に、そうっスね、と仗助は相槌を返した。


    「ところで、おれに紹介してくれる女の子はどういう基準で選んでるんスか?」
    いままで露伴が仗助に紹介してきた女の子たちはどの子もタイプが違っていた。共通点があるとすれば、独立しており芯の通った性格をしているところくらいだ。
    カナのようなアパレルデザイナーもいれば、画家、モデル、カフェオーナー、キャリアウーマンと職業も様々だった。
    皆おなじサロンに出入りしている仲らしく女の子同士も繋がりがあるようで、「露伴ちゃんが紹介してくるイケメンのおともだち」の鑑賞会のようになっていると別の女の子から聞いたりもした。(彼女らは互いを「ちゃん付け」で呼び合っているらしく、露伴も例に漏れなかった。)
    紹介された女の子のなかには露伴と関係のあった子もいたりし、そういう人物を紹介してくるとは何を考えているのかわからないな、と仗助は思う。
    それでも仗助の知らない露伴の一面が知れて、それはそれで楽しくはあるのだが。
    そんな子たちには仗助もはじめから素直に恋愛相談をするようにしている。わずかな間であっても露伴が選んだ人物で、関係を解消した今も後腐れない友人付き合いがあるのだ。自分もそういった関係になれる何かしらのきっかけを掴みたいという藁にもすがる気持ちであった。
    彼女らは仗助が露伴の奇行についてぼやいても「あ〜、そういうとこあるよね〜」とカラカラ笑うのであった。

    「おまえと並んで絵になるような子を選んでんだよ」
    「…あ〜」
    投げられた疑問にメニューを眺めていた露伴はそう答え、店員を呼んでジントニックを追加する。仗助も露伴がメニューを畳む際に目に入っただし巻きを追加した。

    言われてみれば、どの子もタイプは違えど整った容姿で自分に似合う服をよく知った人たちだった。友人として付き合うには悪くないが、仗助にはその中の誰よりも露伴が輝いて見えるので。
    露伴が携帯を取り出し、アドレス帳を呼び出す。
    「そういえば、おまえの好みって聞いたことなかったよなァ。どんなのが好みなんだよ。」
    「そーっスね…」
    考えるフリをしながら隣に座る露伴にきちんと向き合う。
    「…年上で、気が強くて、自立してて、かわいい系より美人系で、…でも笑うとすげーかわいい人。」
    伝われ、伝われ、と念じながら露伴の目を覗き込む。居酒屋の薄暗い照明の中でもきらきらと輝く虹色の虹彩。携帯を見ていた姿勢のまま視線だけ寄越した露伴は上目遣いだ。かわいい。
    回りくどかっただろうか。露伴と関係のあった子たちは揃って「自分のマンガへの好意には敏感だが、自分自身への好意には鈍い」人物だと露伴を評する。しかし今の言葉で伝わらなくてもこの視線で気づいてほしい。
    「おまたせしましたぁ〜」
    仗助の思いは間延びした店員の声で遮られてしまった。

    解けた視線は戻らなかった。
    「ふーん。おまえ、朋子さんみたいなのがタイプなのか。」
    露伴は受け取ったジントニックに口をつけながら「そんな子、いるかなァ〜」と片手で携帯のアドレスをくるくると回している。
    確かにいま挙げた条件では仗助の母親に当てはまってしまう。笑うとかわいいかは不明だが。
    唐突に母親の名を挙げられ、浮かれた気分がやや現実に引き戻されてしまった。
    「こないだ、カメユーで会ったよ」
    「そういや朋子もそんなこと言ってたなァ」
    親戚への手土産を買いに行った際に会ったらしい。会った際にはそれなりに会話もしているようで、露伴の勧めだという洋菓子がおやつに出てきた記憶がある。
    ふたりが仲良くしているぶんには、仗助としても悪い気はしない。

    「なあ、年上っていくつくらいまでいけるんだ?」
    仗助の頼んだだし巻きに箸を入れながら露伴が問う。はふはふと湯気をたてるだし巻きを頬張る横顔に仗助の心はまたときめく。
    先人の言う通り、やはり自分への好意には鈍いようだ。
    なので、仗助はようやく覚悟を決めた。こんなムードもなにもない騒がしい居酒屋で言うことになるとは思わなかったが、今が最大のチャンスだろう。
    深呼吸代わりにジョッキに残ったビールを飲み干して、再度露伴に向き合った。
    「おれ、あんたがいいんですけど。」
    「ん?」
    自らを指差し、ぼくか?と問う動きに、ややぎこちない動きで頷いた仗助に「ふうん」と気の抜けた返事が返ってくる。露伴の口はだし巻きで埋まっているのでまともな返事が返ってくる訳はなかったのだ。
    「いまの、ぼくのことだったんだ?」
    「はい」
    「ふうん」
    咀嚼し終えた露伴はこれうまいぜ、とだし巻きを勧めてくる。
    想定した返事が返ってくるとは思ってはいなかったが、なんの喜怒哀楽もない反応に戸惑いつつだし巻きを口に運ぶ。露伴の言う通り、たっぷりの出汁とともに焼かれた卵は居酒屋のメニューにしては上等な味だった。
    「付き合ってみるかい?」
    「はひ…?」
    2切れ目を口に入れたところで爆弾を落としてきた露伴を振り返る。熱いだし巻きに言葉を奪われふかふかと音にならない声を発する仗助を露伴は面白そうに眺めている。
    「おまえ、顔は悪くないし、みんなから聞く評判も悪くないしさァ。なんかおもしろそうだし。」

    「…恋人にしてくれるってことで、いいんスか?」
    ようやくだし巻きを嚥下した仗助は恐る恐る訊ねる。まさかこんなにあっさりと受け入れてもらえるとは思わなかった。怯えたような仗助の様子に面白いものを眺める顔だった露伴の笑顔がスッと慈しむような笑顔に変わる。
    「いいよ。いまからきみとぼくは恋人同士、ってことで」
    言いながら箸で切り分けただし巻きを冷ますようにふう、と息を吹きかけたあと仗助に差し出してきた。


    そうして口にしただし巻きは、仗助がいままで食べたものの中で一番幸せの味がした。
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