無題「またダメだったのかよ」
薄くなったジントニックを舐めるように飲みながら露伴が問う。ええまあ、と言葉を濁しながら仗助は運ばれてきたばかりのビールに口をつけた。「ふうん」とたいして興味もなさそうな相槌をうつ露伴を横目で盗み見るが、機嫌が悪いわけではなさそうだ。
「ぼくのイチオシだったんだけどなァ」
言いながら小鉢の漬物に箸を伸ばす露伴に習い、仗助もからあげをつまみあげ口に放り込んだ。
この知り合いの漫画家とこうして飲みに出るようになったのは、仗助たちが酒を飲める年齢になってからだ。この浮世離れした見た目の漫画家は雑多な雰囲気の居酒屋が案外気に入っているようで、新しい店舗ができたと知ると仗助たちに同行の誘いをかけてきた。康一や億泰たちと数人の時もあればふたりきりの時もある。
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