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    Roll_sno

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    Roll_sno

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    便利モブ三人衆がとても健全にラブホに泊まる話を書こうとしたので供養というか放流します。

    しくったな、これは。

    薄暗い照明の中、三木カナエは悔やんだ。ちらりと隣に視線を寄越せば同じく現状をどうするべきか今にも頭を抱えそうな男と目があったので、どうやら同じ心境であるらしいと察せられた。予算の範囲内で演出しようとされたラグジュアリー、無人の受付にはタッチパネル、どうせ各部屋に備え付けてあるだろうに選んでと並べられたシャンプーにコンディショナー。ここはラブホテル。男女が時に金銭を絡ませたり絡ませなかったりケースバイケースで愛を囁く、つまりはセックスする為の施設である。そんな場所に男三人で突っ立っている現状は何とも言いがたい。けれどもそのうちの人間二人には、三木と吉田には男三人だとかそんなことはこの際どうでも良いといえた。

    「コレ、何デス?トテモ塩アリマス。ナゼ??」
    「あー……それは塩じゃなくて入浴剤です」
    「ニューヨクザイ……」

    今ここで最も重要なのは、好奇心の赴くままにロビーを探索してはバスソルトを口に含みはしないだろうがじっと眺めて、初めて来た場所への興味を隠しもしない吸血鬼、クラージィの存在である。外は既に日が昇り、彼を外に出すことは日光の耐性がどの程度あるか知らない人間二人には選びたくない選択肢、であると同時に。

    「こう……お風呂に入れて香りをつけたりするんですよ」
    「オ風呂!好キデス!入リマス!」

    キラキラと目を輝かせる彼をこの先に連れて行く選択肢もまた、選びたくはなかった。何故って、百九十年少々を凍ってだか眠ってだかして過ごしていた元聖職者の吸血鬼クラージィを、ポルノに触れされることは許されないからだ。誰にってそりゃあ、自分の良心的な何かに。この建物が何の為のものか、理解していないであろう相手を連れ込む行いには酷い罪悪感が付き纏う。けれどもここで朝まで過ごせる筈もなく、もう一度視線を合わせて頷き合う男達は真剣だ。

    行こう、この先へ。腹は括ったと、クラージィの話し相手を三木が担当している間に吉田がタッチパネルを操作して部屋を選ぶ。迅速に、それでいて間違ってもSMプレイルームなどを選ばないように。いつの間に受付を済ませたのかと驚いて興味津々なクラージィをあしらいながら、目的の部屋は三階。彼らとてここまでくれば足取りを重くなんぞしてはいられないので、初めてエレベーターに乗った時のクラージィの反応だとかこの宿の料金は後払いであるとか、そんな会話で出来うる限り自然に場を繋いで無人の廊下を歩いていく。


    そうして、着いた。或いは着いてしまったのかもしれないが、蒸し返したって仕方がない。二足しかないスリッパなど無視だ無視。どうせ家でだってそんなもの使っちゃあいないんですからと、不思議そうにするクラージィを三木が部屋に押し込んでひと段落、する為にも。上着を脱ごう、とガチャガチャ探して開いたクローゼットの真下に如何わしいアレとかソレとかの自動販売機を見つけて、吉田は戦慄した。

    「上着、ハンガーにかけますよ」
    「イエ。ソノグライハ、自分デ……」

    かけます。かけさせてください。我々はあなたをこの場所に立たせたくないのだとの焦燥を、クラージィは知るよしもなく。この緊急事態に気付いた三木の援護により吉田はクラージィの上着を受け取ってラックに吊るすことに成功するが、こんなトラップがこの空間には幾つも仕掛けられているに違いない。三木と吉田は仮にも宿泊施設でより一層に気を引き締めて、探索に取り掛かることとした。

    さあ、まず向かうべきは風呂だろうか。少なくともクラージィは入浴する気満々でバスソルトを手に上機嫌だ。しかし、先陣を切ってドアを開けた三木が用途を尋ねられると困るタイプのマットやらローションやらが存在しないことを確認した浴室は、残念ながら湯も浴槽に無く。バスソルトはそっと洗面台に置いておくしかなかった。眉間で癖になって取れない皺がしょんぼりとした彼の表情に過剰な悲壮を纏わせていても、こればかりは仕方がない。湯が溜まるまで、湯が溜まるまで何をすればいいんだ。ひとまず寝室に、というかラブホなんて間取りの殆どが寝室だがそこにクラージィを連れた三木は引き返す他に出来ることもなかった。残して来た吉田がどの程度のトラップを除去してくれているだろうかという懸念もあるが。

    「あ、ここネトフリ使えますよクラさん。この間話してたアニメ観ましょう」
    「!!見マス!」

    これはお見事。確かにこの短時間に部屋中を探して回ることは難しく、或いは慌ただしさを訝しんだクラージィが様子を見に来てしまう恐れもあったことだろう。それを踏まえると下手に全部を除去するのではなく、戻ってきた時に興味を惹きつける準備をしておくというのは正しい判断と言えた。この人を誘導するスキルは流石、万年慌ただしくバイト戦士をやっている三木とは一味違うと言えるだろう。


    「ジャック……ナゼ、アナタハ…………!」

    何話かぶっ通しで観た、ここらがちょうど良いところだろうか。度し難い悪と描写されていた男の悲しき過去にクラージィの情緒が揺さぶられている今、一息ついてはどうかと気を遣ったかのように連携して二人、彼を脱衣所に押し込んだ。これから吉田と三木にはやらねばならないことがある。クラージィが服を脱いで風呂場の扉を開いて、閉じたと見るや二人はテレビ側を向いていた身体を反転させて内線の受話器を取った。さながらビーチフラッグ。それほど急ぐ必要はないのだが、クラージィが風呂から出るまでに全てのミッションを熟さなければいけないからにはのんびりもしてはいられない。先ずするべきことといえば、彼らにはフロントに通すべき要求があった。

    「バスローブとタオルもう一人分ください!」
    「あと歯ブラシセットも!この際、もう一室分の料金取られても構いませんので!!」
    「……少々お待ち下さい」

    この、どうしたって二人分の物しか用意されていない部屋を誤魔化すまではいかずとも、問題の無いかのようにしなければならない。風呂から上がったクラージィが二人分しか用意が無いからと、濡れた身体のまま服を着てしまうのでは困るのだ。彼とてそこまでワイルドではないだろうと三木も吉田も思ってはいるが、全裸で過ごすぐらいはしかねないしそもそも友人を困らせるべきではない。

    「……持って来てくれるそうです」
    「そっちはどうにかなりそうですね」
    「あとはここから、ですか」
    「すいません。全然片付けられてなくて……」
    「いやぁ、あれは英断ミキよ」

    室内にはまだ幾つものトラップが仕掛けられている。あんまりにあからさま過ぎるメイクラブと書かれた薄々何ミリのそれは既にゴミ箱にシュートされているものの、テーブルの上に配置されたコスプレのカタログやら本来のこの場所の使用用途を仄めかす書類やらはいかがわしい自販機の上に隠したものの。ヘッドボードの上の細長い箱、の中に収まった淫猥な映像御用達のこの機械はどうしたものか。

    「い、やぁ……ラブホってこういうの置いてあるんですね……」
    「いやどうしますかこの電マ、有線で隠しようが無いですよ」
    「この箱も、絶対にクラさん開けちゃいますよね」
    「開けるでしょうね……」

    ベッドの上で男二人、電マを眺めて腕を組む異様な時間はチャイムの音で一時中断となった。草臥れたバイトの青年がビニールの袋に入れて、要望通りの品々を持って来てくれたのだ。料金はそれらの分が少々上乗せとなるが、三木にしろ吉田にしろ二部屋分の料金も視野に入れて覚悟していた身であるので、良心的なこととさえ思える。青年に、三人でラブホを使用する少々アブノーマルな性癖の集団と思われたかもしれないことはまあこの際は仕方がないとして、もしかしたら今後に何かしらのバイトでご一緒するかもしれない場合の気まずさを考えないものとして、ビニールを手に未だ悩む三木を出迎えた吉田はその頃には答えを出していた。

    「三木さん、電マって電気マッサージ機じゃないですか」
    「はぁ、そうですね……」
    「僕たちがそういう……イメージを持っているだけで、電気マッサージ機じゃないですか」
    「そう……ですね?」

    じゃあクラさんにもマッサージ機って伝えちゃえば良いじゃないですか。先入観を放り投げることで何とか平和な答えが絞り出せた、ちょうどその頃にクラージィも風呂から上がって来たようだったので、ついでに案の定ちまっこいタオルで身体を拭くだけしたフルチンで、バスローブが二着しか用意の無いことを伝えて来たので。ちゃんとバスタオルを使ってもバスローブを着ても、ここにもう一人分あるのだとこちらも伝えて事なきを得た。それはそれとして後日、新横浜在住漫画家の神在月シンジは親友の口から本当に外国人のブツは大きいという下ネタを聞くことになる。

    「ちゃんと温まってくるんですよー」
    「バスソルト、イイニオイスル!デシタ!」

    そんな後日談の元凶は、暖かな言葉で見送られて脱衣所へと向かって行った。特に日頃の疲れだとかそういったものは意識してはいないし、あったとして一回の入浴でどうこうなるものにも思えてはいないが、だからといって鴉の行水じゃ優しい隣人達は納得してはくれないだろうということも三木には理解できている。そうであるからにはしっかりと身体を洗ってゆっくりと湯に浸かって、スイッチを押して無駄に浴槽を光らせてみたら逆に落ち着かなくて結局すぐに消して。そこそこに時間を潰してから、風呂を上がった。

    「ジャック、ハ……モウ大丈夫デス……安心シマス」
    「クラさんはそこで納得するんですね」
    「ハイ。ジャック、間違エルシマセン」

    バスローブに身を包んだ三木が寝室に戻る頃には再開していたアニメの方も一区切りついたようで、三木と吉田はスムーズにバトンタッチ出来た代わりに三木はこの後の時間の潰し方に思い悩んだ。見たいアニメも特に今は無いしと、三木はとりあえずクラージィの好きなようにさせてみたが、案の定に彼はベッドボードの箱に目をつけてその中身の電源を躊躇いなく入れた。途端、振動する機械にビックリしたのかすっかり硬直して、けれど手離しはしないのだから胆力があるのか何なのか。

    「ワ!!……ミキサン、コレハ何ニ使ウデスカ?」
    「それはマッサージ機です」
    「マッサージキ……?」
    「身体の疲れを取るのに使うんですよ」

    用意していた答えであったが、三木はそう口にしてから失策を悟った。確かにそれはマッサージ機で間違いはないので、クラージィにそう伝えるのは正しい。ただし、彼は心優しい男であるのでそれを使って疲れを取れると聞けば、仕事に忙しく疲れの溜まっているだろう友に使ってやろうと当然に考える。


    結果。風呂から上がった吉田が目にしたのは、ひどく澄んだ顔で三木の腰に電マを押し付けるクラージィと、邪な用途の印象がどうしても頭から離れずに遠い目をしてそれを受け入れる三木の姿であった。

    「吉田サンモ、マッサージシマス?」
    「いやぁ……僕は大丈夫です。それよりクラさん、眠くないですか?」
    「ジツハ少シ……ネムイ、デス……」
    「そうですよね。むしろ今回はその為に来たわけですし、さっさと寝ちゃいましょう」
    「ハイ。ミキサン、吉田サン……オヤスミナサイ……」
    「はいちょっと待つミキよー」
    「……??」

    ソファにごろり、寝そべろうとして三木に待ったをかけられたクラージィが怪訝と首を傾げる。横向きに腰掛けた時点で既にしっかりと脚がはみ出した、明らかに快適とは程遠いであろう睡眠環境で寝かせるつもりは三木には無かったのだが、クラージィにはいまいち通じていないらしい。男三人で転がるには少々狭いベッドを譲ってくれたのだろうが、さっきも言った通りに今回はクラージィの為の宿泊なのだ。

    「俺は特に今は眠くないんで、ベッドは二人で使って下さい」
    「ミキサン、イツモ忙シイデス。イッパイ寝ル、シタ方ガイイ」
    「そうですよ……僕ぐらいの歳になるとどうせそんなに寝れませんし、ベッドはお二人で使って下さい」
    「横ニナル。カラダ休メル。大事デス!」
    「それでもほら、僕ならそんなに大きくないんですしそれこそソファで……」
    「そう言って明日、バッキバキの体で過ごす気ですか?」

    三者睨み合い譲り合いの攻防は、このままだと長くなるだろうことは誰の目にも明らかだった。衣食住に求める最低ラインが人間時代終盤から陽当たりぐらいしか変化の無いクラージィ、懐に入れた人間に対しては献身的かつガバガバに甘くなりがちな三木、若人には身体を大事にしてほしい吉田。自分以外の誰かがソファで寝ることを認めない膠着状態は、思い付いてそれはちょっと楽しいかもしれないという好奇心が滲んだ声色の、クラージィの妥協案によりお終いとなった。

    「ナラバ、川ノ字シマショウ!」

    いや全画でかいわ、とは実際に寝転がってみての三木の感想である。想定内ではあるが、男三人でラブホのベッドに身を寄せ合う構図は大変に居た堪れない。この歳になって想定外にもど真ん中の二画目に割り当てられてしまった体感最年長の吉田に至っては、デカい男二人に挟まれてさぞや圧迫感を与えられていることだろう。とはいえ、きっと本来なら男女二人があんな体位こんな体位で組んず解れつするであろうベッドの面積は思っていたよりかは広く、男三人で並んで余裕があるとは言えないが密着しなければならない状況は免れているのが救いだろうか。

    ありがとう、ラブホのベッド。君の大きさに感謝。もう二度とこの感謝を抱かずに済むように、クラージィほど信心深くもない三木と吉田は祈った。
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