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    2023年9月10日(日)に開催する「やさしい嘘は最後まで4」で頒布する、新刊のサンプルです。
    二冊目「甘い躾」pixiv再録+書き下ろしの王最小説本です。
    サンプルの内容は、書き下ろし(甘い生活)の方のみになります。サンプルには成人向けの描写はありません。

    甘い躾+甘い生活「甘い躾」 R18
    A6(文庫サイズ)・316P ・1100円ぐらいの予定
    Dom/Subユニバース設定
    pixiv再録「甘い躾」164P+書き下ろし「甘い生活」146P+あとがき・奥付け・表紙等6P

    イベント後、通販(BOOTH)でも販売をします。
    通販での値段は送料が追加される関係で、+200〜400円ほど値段が上がる可能性があります。ご了承ください。

    【あらすじ】
    pixiv再録「甘い躾」https://www.pixiv.net/novel/show.phpid=19552294
    こちらを、同人誌用に修正をしたものです。

    書き下ろし「甘い生活」
    「甘い躾」の後日談です。王馬くんのDom性に焦点を当てたお話。

    以下はサンプルです。



     甘い生活

     検診の結果を、王馬は無感情に飲み込んだ。
     ふぅん、なるほどね。それっぽい。
     他人事のように、これからの人生を縛ることになる自身の獣の存在を容認した。Domと印刷された紙面にはもう彼の興味を引くものはなく、机の上に落とすように置いた。支配する。庇護する。──誰を? オレが?
     周りの同級生を見渡す。騒ぐもの、真っ青になって沈黙するもの、つまらなさそうなもの。一喜一憂をその身で表すかのような様子にも、王馬の興味を引くものはなかった。
     獣は沈黙している。本当にいるのか、と怪訝に思いながら、話しかけてみる。
     ねぇ、誰がいいの。誰なら満足?
     当然返事はない。周りの騒ぎと悲哀はまだ止むことがなさそうで、担任の教師も諦めたように椅子に座り込んでいる。検診結果を渡した後は、毎年こうなのだろう。
     理解はできるが、騒いで焦ったところで何も変わらない。受け入れるだけだ。これから先面倒なことが起き始めるかもしれないが、仕方がない。
     頬杖をついて目を伏せる。心底つまんねーなと思った。もう寝てしまおうと、思考を放棄する。喧騒を入眠の刺激に変えつつ、ふと思い出した知識について考え始める。
     第二性をもつ人間には、パートナーが必要になるのだという。オレのSub。どこかにいるらしい、王馬だけの犬。そんなものが本当にいるのならば、早く見てみたい。どんな瞳をしていて、どんな表情で跪くのだろう。自分はその姿に満足するのだろうか。そんな興味と疑問が王馬の胸に浮かび上がり、ほどなくして沈んでいった。
     担任の声が再び聞こえ始める。少しだけ穏やかになる喧騒に身を委ねながら、王馬は目を閉じ続けていた。未だ興味を引くものは現れない。眠気も訪れず、放課後に仲間達と何の計画を立てようか考えているうちに、王馬は自身の第二性について忘れ去ってしまっていた。「そう言えば、総統の第二性の検診結果ってどうだったんです?」と部下に言われるまで、その緩やかな忘却は続いた。
     王馬の第二性との出会いは、そんな風に忘れ去られてしまうぐらいの、些末な出来事だった。
     
     ◆ ◆ ◆
     
     部屋に戻ると、シーツの下に潜り込んでいた薄茶色の瞳と目が合った。起きていたことに王馬は少し驚きつつ、微笑を浮かべた。
    「おっはよー、最原ちゃん! つっても、まだ深夜だけど! 放っておいたらマジで夜まで寝てる最原ちゃんが、こんな時間に起きてくるとか、天変地異の前触れじゃん! ウチの防災備蓄って十分だったっけ? プァンタ箱買いしとかないと、マジで飲むもんないじゃん! やっぱり普段からの備えって大切だよね!」
    「……流石に、災害時は水を飲もうよ」
     王馬の耳にいつも柔らかく響く声が、掠れている。そのことに満足して、王馬は笑みを深めた。照明を落とした部屋は暗く、薄闇に染められた最原の表情はぼんやりとしかわからない。その瞳を縁取る睫毛の長さや、透き通った白い肌がわかるぐらいまで近付くと、最原の顔はすぐそこだった。
     王馬を見て、眉を下げて微かに笑う。思わず手を伸ばした。王馬の手が彼に拒まれたことなんて、今までに一度だってない。セーフワードだって、一度も言われたことはない。王馬のSubは従順で、そしてとても頑固だった。
     拒んだら死ぬとでも思っているのだろうか。もしかしたら、王馬が離れていくと思っているのかもしれない。頑固の上に馬鹿なんじゃないのかと思いつつ、王馬は最原を抱き締めた。
    「まだ寝てたらー? 体、しんどいでしょ」
     ぐっと喉が詰まるような音がする。王馬は喉を鳴らして笑った。最原はつまらなくない。唇を耳元に移動させると、甘い香りがした。最原の匂いはどこか落ち着く。家に帰ってきたなと思う。
     視線を感じて顔を離すと、眉を下げた最原が此方を控えめに見つめていた。王馬の好きな顔で、もっとなかしてやりたいと思う顔でもある。
    「どこかに行ってたの?」
     シャワーに行っていたにしては髪が濡れていないから、不思議に思ったのだろう。それとも、服にこびりついてしまった雨の匂いに気がついたのかもしれない。王馬が外にいたのは三十分もない短い時間だったが、外の世界は霧雨が降りしきっていて、空気は水の粒子でしっとりと濡れていた。
    「ちょっと外にねー。水が無かったから買いに」
     途端に申し訳なさそうな顔をする最原の下唇を柔らかく喰むと、表情を緩めて微笑んだ。言いたいことは伝わったらしい。お互い様だ。この家に寝に帰ってくるだけの生活リズムになっているのも、冷蔵庫のストックに気にかける余裕がなかったのも。
     一週間ぶりに目が合った瞬間、もうだめだった。気がついたらキスをしていた。荷物をあまり持たない自分と違い、何やら色々と詰め込んでいる最原の鞄が派手な音を立てて床に落ちたが、几帳面な彼がそれに構わないのを見て、王馬は思い知った。堪えが効かなくなってきている。お互いがお互いの存在に慣れ、弛んだ心身は、パートナーの少しの不在も我慢がならなくなっていた。
     パートナーになる以前は二週間、ひどい時は一ヶ月ほど、プレイをしないこともあった。体は寝不足や食欲不振でふらふらになっていくが、それはDomであること、そして抑制剤の効きが悪い身体であることがわかってからというもの、当たり前の日常ではあった。
     鬱陶しいが仕方ないと諦めていた王馬を心配して、部下達はたまに進言をしてきた。ノーマルが多数を占めるとはいえ、仲間の中にはDomもSubもいた。体調管理の一環と考えて、部下のSubとプレイをしてみては、という意見だ。
     少し回りくどい言い方になるのは、世間一般的にプレイをするのはパートナー、つまりは恋仲である人間とするもの、という認識が根強い故だ。もちろんパートナーとしかプレイをしないDomやSubばかりではないし、専用の店で欲だけ満たし、ノーマルの配偶者が待つ家庭に帰る人だっている。どこで欲を満たすのかは個人の自由でしかないことだと王馬も思うし、好きにすればいいと思う。
     部下達の進言を、王馬はいつも断った。別にいーし、とどうでも良さそうに言う王馬に、彼らは困った表情を浮かべた。それが何となく気が乗らないからだという理由であることも理解した上で、気分屋の上司が第二性にじわじわと疲弊させられていく様を、ただ見ているだけの年月が過ぎていった。
     王馬がDICEの仲間達にパートナーができたと伝えたのは、何かの作戦会議か雑談をしている最中の、ふと思い出した瞬間だった。
     そーいやさ、オレ、パートナーができたんだよね。そんな言葉を別の話のついでに言った後、側近のような役割をしている彼は、両手で顔を覆った。よく見たら泣いていたので、ちょっと引いてしまった。彼は王馬のパートナーが最原であることを確認すると、もう一度安心したように男泣きをした。
     じゃあもう、総統は寝不足にならなくてもいいし、ご飯だって好きなだけ食べることができるんですね。
     ようやく王馬は気付かされた。長い間、部下には歯痒い思いをさせ続けていたらしい。家族のように思っているのは自分だけではなく、彼らも王馬のことをずっと案じていた。体調不良に陥りながらも、頑なに一人としかプレイをしない王馬のことを、心配しながらもずっと見守ってくれていたらしい。
     それ以来、最原はDICEのメンバーに恩人扱いされている。折に触れて、サイハラチャンに菓子折りを贈っていいですかと聞かれるが、おそらく困惑するだろうからやめといたらと答えている。洗剤とかだったら良いんですか、と縋るように言い重ねてくるが、それはもうお中元やお歳暮だ。
     最原と強制的に同居を始め、数ヶ月が経つ。最初の頃は部下の言う通りだった。体調不良もなく、夜は眠ろうと思えば眠れるし、手を伸ばせばそこには自分のSubがいた。朝食も胃もたれ無く食べることができるし、眠そうな最原がパン屑を落としつつ、ぼんやりのんびり咀嚼していく様子も、呆れつつ観察することができる。
     軽いコマンドを言うだけで、顔を綻ばせるパートナーが王馬の言う通りにする。アフターケアのコマンドに蕩けていく顔も、躊躇いがちに触れる指の感触も、以前とはどこか違うように感じられた。
     パートナーという言葉で縛ってやったのに、結果として、最原は何だか嬉しそうにしている。白いシャツの隙間からは黒いブレスレットが覗く。丁寧な手つきでなぞるように触れる様子を、時折見かける。ずっと付けていてと言った言葉を、まるでコマンドであるかのように、最原は従順に守り続けていた。
     普通の人間の、普通の生活。知らないうちに無くして、取り戻すまで忘れていた穏やかさだった。部下達はこんな世界に王馬を入り込ませたかったらしい。隈が薄くなり前よりも食べるようになった王馬を、彼らは嬉しそうに眺めてくる。
     しかし、それは奇跡的に王馬と最原の暇な時期が重なっていたからこそ訪れた、束の間の平穏だった。悪の総統と探偵。職種においても正反対であるが、しかし特異な仕事であることは共通している二人の生活リズムは、致命的な程に合わなかった。
     ある意味では、王馬の方がましな生活をしているとも言える。繁忙期も出勤時間も、王馬の思いのままにできるのだ。しかし最原はそうではないし、彼の仕事はかなりブラックだった。
     浮気調査の張り込みなんてしていたら、帰ってくるのは日を跨いでからが当たり前だ。「全然ホテルから出てこなかった。目がチカチカする」と疲労困憊の様子で呟いて、倒れるようにソファーで寝てしまった自分より大きい男を、何故王馬がベッドに運ばないといけないのか。
     持てる。最原なんて王馬には簡単に持ててしまうのだが、釈然としない。ベッドに倒れ込んでくれたらそれで済むのに、どうしていつもソファーで寝てしまうのだろう。神経質のようで変なところで大雑把なのが、最原という男の謎だ。
     第二性をもつ人間は、定期的にプレイをしないと体調を崩す。その頻度には個人差があり、毎日しないといけないような燃費の悪い人間もいれば、一ヶ月に一回でいいような省エネルギーな人間もいる。
     その時の体調や精神状態にも影響されるため、プレイの頻度は正確にはわからない。王馬はおそらく三日から五日、最原は二日から四日に一回プレイをしないと、寝つきが悪くなり食欲が落ち、軽い頭痛を感じ始める。「三日に一回って感じ?」という王馬の言葉に、最原はこくんと首肯いた。
     簡単なやり取りの末決まったプレイの頻度は、実際のところ、その通りにできる方が稀だった。仕事が終われば家に帰ってきて、その時パートナーがいればプレイをする。ただそれだけのことだったが、不規則な生活リズムの王馬と最原には、そんなことすら難しかった。
     一週間に一回だったり、二週間に一回だったり。そうかと思えば三日連続でプレイをしたり、それから十日間会えない日が続いたり。
     最初は喜んでいた部下達も、王馬が以前とあまり変わらない顔色をし始めたのを見て、こそこそと話し合った。数日後に「サイハラチャンに王馬家に永久就職してもらうのはどうでしょうか?」という進言をしてきたので、思わず笑ってしまった。
     あの男から探偵という要素を剥ぎ取ったら、きっと死んでしまうだろう。面白くなさそうだから、王馬はそんなことは望まない。
     最原はとんでもなく鈍感だ。情緒をどこに取り落としてきたんだろうと思うような言動を、たまにする。王馬のそれは意図的だが、最原は素でやっているので、たまに拍手をしたい気持ちになる。このクオリティが本物か、真似しなくてはと、王馬に思わせるほどの朴念仁っぷりだ。
     しかし最原は賢い男でもあり、人をよく見ている人間でもあった。踏み込んでほしくない境界線を、彼はよく見て見極めている。
     王馬に関しては、総統という仕事についてだ。聞かれても調べられても煙に巻く自信はある。しかし、嫌がるだろうと思っているらしく、最原は王馬の仕事についてあまり尋ねてこない。ただ一度だけ「捕まったり、怪我したりするのはやめてね」と呟いたことがあった。それが今の最原が踏み込める限界なのだろう。
     そのスタンスは、王馬も理解できた。王馬も最原の仕事については色々と思うところがあるが、基本的には好きにすればいいと思っている。しかし、以前彼に思い知らせたように「危ないことをしたらお仕置き」という前提は忘れていない。優秀な頭をもっているくせに、たまにとんでもなく迂闊でバカなことをしでかすのが、最原という男だ。
     つまりは、三日に一回会ってプレイする、という約束は、二人が互いの仕事を尊重し合う限り、驚くほどに難しいことだった。せっかくパートナーができたのに、未だに隈があったり食事を抜いたりする日があるのは、周りから見たら理解できない光景らしい。しかし、お互いが自分らしく過ごすためには諦めないといけないこともあるのだと、二人は納得していた。
     納得していた、はずだった。
    「ありがとう」
     買ってきた水は、露点に達した大気にさらされ、汗をかいたように濡れていた。渡したペットボトルを受け取った最原は、開けることに苦戦していた。まだ指先に力が入らないらしい。それぐらい、抱き潰してしまった。
     開けてあげると言って返してもらう。プラスチックの割れる軽やかな音が、部屋の中に響いた。最原を見る。寝起きらしいぼんやりとした表情の中に、先ほどまで王馬の下で見せていた媚態が垣間見えた。この人、これで誘ってないって言うんだもんなと真顔で思いながら、王馬は口に水を含む。
     最原の頭に手を回し、引き寄せる。驚く瞳に微笑みかけながら、王馬は唇を合わせた。強張る唇を舌でこじ開けて、水と一緒に入っていく。こくんと喉が上下するまで、最原の口内を好きなように触れた。
     肌が白いせいで、すぐに色づいてしまう頬を撫でる。羞恥に歪むのは表情ばかりで、最原の手や足は王馬を拒もうとはしなかった。たまには抵抗すればいいのにと、王馬は思う。嫌がられるのだって嫌いじゃない。どうすれば陥落するのか、考えるのも面白い。
    「もっと飲みたい?」
    「……自分で飲む」
    「遠慮してるの? 健気だねー、最原ちゃん! でもオレって懐の広い彼氏なんで、遠慮しなくても大丈夫だよ! もっとドバドバ飲んどこっか!」
    「うわっ、がぶ飲みした! ちょ、ちょっと! もういいからっ、うッ、ふぁ!」
     頬を押さえつけてもう一度キスをしたら、唇から水が溢れていった。最原のシャツとシーツに染みができていく。最原は恨みがましい視線を向けてくるものの、先ほどまでの行為のせいで、シーツは元々洗濯必須の状態だ。今更少し濡れようが、王馬はもうどうとも思わない。
     唇に残った水滴を舐めとる。此方が犬になったみたいだと思いながら見上げる。気恥ずかしそうに瞳を震わせる最原は、未だにこういったことに慣れないままだ。
    「にしし、ごめんね?」
    「う……ううん」
     含めた意味に最原も気付いたらしく、より恥ずかしそうにしながら目を伏せた。水のことだけではない。一週間ぶりに会った数時間前からつい先程まで、二人で夢中で触れ合い続けたことについて、最原も流石にやり過ぎたと思っていたらしい。
     もう無理と泣く最原を笑顔で黙殺しながら、たくさん抱いた。王馬の腰に縋り付いてくる媚態を揶揄って、赤くなった頬と耳に「もっとして」と命令して、涙を溢しながら感じる最原を揺さぶった。
     スペースに入って力の抜けた最原が、ろくに回っていない頭で掻き抱くように王馬に手を回す。王馬の言った命令が、今後は最原の要望に変わって、もっとして、もっときて、と切羽詰まった声色で囁いた。
     だからきっと王馬だけのせいではないし、最原だってそれがわかっている。体がひどく重く腰が痛いだろう最原が、恨みがましい視線を王馬に向けてこない理由だ。
     パートナーになり、二人でする行為にはプレイ以外の意味が伴い始めた。少しずつ最原は変わっていく。恐る恐る、怯えるように王馬に触れていた最原はもういない。どこまで許されているのか躊躇いがちだった指先が、当然のように王馬の肌の上を動いていく。それがひどく心地よくて、唇が歪む。
    「一週間でこれかぁ。やっばいねぇー、最原ちゃん」
     ニヤニヤ笑う王馬に、最原は嫌そうな顔をして横を向いた。
    「本格的に、オレ無しじゃ死んじゃう身体になっちゃってるじゃん。どーすんの、オレが地方に転勤を命じられたり左遷されたりして、単身赴任になっちゃったら。そのえっろい体を慰めるために、若い宅配員を自宅に招き入れちゃったり誘惑しちゃったりするわけー? どこのありきたりで安っぽいAVだよ! これだから童貞は! しょーもない妄想しないでよね、最原ちゃん!」
    「……どこから突っ込めばいいかわかんないから、スルーでもいいかな」
    「ひっど! 愛がない!」
    「なかったら、蹴り飛ばしてでも途中でやめてるよ。……さっきみたいなこと」
     最原が王馬を見つめる。少し尖った唇に、彼の羞恥と少しの不満が表れているようだったが、逆効果なのでやめた方がいい。
     自分の顔面とか、たまに見せてくる所作の破壊力といったものに、最原は疎すぎるのでたまに話が通じない。いっそ鏡を見せながら説明した方が早いのかもしれない。しかし、最原は自分の顔になど少しの興味も関心もないので、きっと伝わらないだろうなとも思う。
    「それはさー、オレが可愛くて大好きで仕方ないから、蹴り飛ばせないんでしょ?」
    「じゃあもう、そういうことでいいや……」
    「投げやりすぎんですけどー。オレら久しぶりに会ったんだよ? もっと優しく……なんかこう、可愛い犬畜生を愛でるみたいに大事にしてよね!」
    「キミがそうさせてくれないんじゃないか……」
     ベッドに顎を乗せて話を続ける。ぺらぺらと話し続ける王馬に呆れたように、最原は困った時とは違う風に眉を下げた。仕方ないなぁというように、しかし実際は受容でしかない様子を見せつつ、最原はシーツを捲って王馬を中に誘った。
    「早く寝ようよ、王馬くん」
    「そこ水でビシャビシャなんですけど」
    「……我慢して」
    「雑な扱いしてくんじゃん! オレ最原ちゃんの可愛い可愛いDom様なんだよ! オレがいないと死んじゃうくせにそんな扱いするとか、ひどいよおおおッ!」
    「深夜の号泣ってしんどくないの? ……僕の話をするなら、この時間の号泣は聞く側もとてもきつい。近所にも迷惑だし」
    「時間とか世間体とかより大切なもんがあるじゃん! オレじゃん!」
    「自分で言う⁉︎ そういうことって⁉︎」
     ぎゃあぎゃあ言い合いつつ、二人でシーツを交換した。ベッドに入った頃には、カーテンから白い光が溢れ始めていた。絶望に染まった瞳でそれを見つめている様子から察するに、最原の今日の勤務はいつも通り、朝から始まるようだった。昼から適当にアジトに行こうかと考えていた自分とは、心持ちが違う。
     最原は行為の最中、王馬を抱き締めて離さなかった。次の日が仕事であるとわかっていたのに、あんな風に必死にもっとと強請ってきたのだなと思うと、王馬の胸には薄暗い満足感が広がっていく。やっぱり最原はつまらなくない。
     時計を見る。シャワーや朝食を最短でこなせば、きっと二時間程度は眠れるはずだ。仕方がない、ご奉仕してやるかと思いつつ、王馬は最原を抱きしめて囁いた。
    「もう寝よーよ。オレってスパダリなんで、しょうがねーから八時には起こしてあげるし、シャワーの後髪の毛も乾かしてあげるし、美味しい朝ごはんも作ってあげる! 超良妻! 感動しつつ今すぐ寝て! はい、どうぞ!」
    「夫側なのか妻側なのか……。はいどうぞって言われても、すぐ眠れるわけ無いし……。いや、でも……ありがとう」
     文句を言いつつも、実際は眠くて仕方なかったらしい。素直に目を閉じる最原を確認してから、王馬は目を閉じた。水と一緒にコンビニで買ってきた食材を思い出しつつ、髪を乾かす間に最原の口に突っ込める朝食メニューを思案した。食べるようになってきたとはいえ、最原は朝、一段と食が細い。パンか米かと考えているうちに、王馬にも眠気が訪れ始めた。
     人の気配があると眠れなかった王馬は、もうとっくに、最原の気配に慣れ切ってしまっている。最原とプレイをした後はよく眠れると、以前口を滑らしてしまったことは、未だに少し悔しく思う時がある。弱みを見せてしまったような感覚だ。とはいえそれは事実で、抱き込んだ体温を肌に感じながら、王馬も仮眠をとることにした。
     しばらくしてから、眠ってしまう直前のふわふわした口調で、最原が呟いた。
    「さっきの話、なんだけど」
    「ん? ……何?」
    「とっくに、そうだよ。キミがいないと、ダメな体なのは、もうずっと……そうだ」
     そんなことを、好きなタイミングで好きなように言った最原は、すぐに小さく寝息を立て始める。こいつ、と思いながら、王馬は眉を顰めながら目を開けた。自分の方がマイペースだろ、と表情を歪めながらも、ため息をついてからもう一度目を閉じる。
     せっかくすぐ眠れそうだったのに。少し腹立たしくなりながらも、聞こえ始める先ほどの最原の言葉を、頭の中でもう一度再生した。
     最原は王馬のSubだ。長い年月をかけて手に入れた、自分だけの生き物。王馬を拒むことをしない手のひらを見つめて、握り締める。低い体温の手のひらは、いつだって王馬の熱を奪っていく。
     最原はどんな王馬だって受け入れる。困ったような顔をしたり、時には歯を食いしばるぐらい必死になりながらも、王馬に応えようとする。それは数年間分の経験により出来上がった、王馬への信頼と最原の献身の表れだった。
     王馬は目を閉じて、じっと耳を澄ます。
     自身に眠る獣の声は、嘲るように囁いてくる。どこまで見せるつもりなんだよ、と。

     





    書き下ろしは全体で7万3千字ぐらいです。よろしくお願いします。
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