例の苗木 戦いが終わった後の高揚もおさまらない夜。パプニカ城に引き上げた勇者一行は休息をとっていた。
マトリフは全身を包帯でぐるぐる巻きにされてベッドに横になっていた。窓からは夜空が見える。先ほどまではパプニカの神官たちがいたが、今はマトリフ一人だった。
すると部屋にノックの音が響いた。そして返事を待たずにドアが小さく開く。顔を覗かせたのはロカだった。
「よ」
ロカはマトリフが一人だとわかると部屋に入ってきた。ロカは後ろ手にして何かを隠している。
「なに持ってるんだ」
マトリフは体が動かせないから目だけをロカに向ける。ロカは誰もいない部屋をさらに見渡してから、声をひそめて言った。
「これなんだと思う?」
ロカが背から見せたのは植木鉢だった。小さな苗木が植っている。まさか見舞いに鉢植えを持ってきたわけではあるまい。
2030