静かな昼下がりだった。空は晴れ、草木は枝を伸ばし、風に葉を揺らしていた。そこに、動物の気配はない。陽光の差し込むこの森には、今日、殺気が充満していた。生き物たちは皆、息を潜め、姿を隠していた。
一人、息を切らした女が、そんな森の中を頼りない足取りでさ迷っている。乱れた金の長髪が、一歩踏み出すごとに大きく揺れる。衣服は所々が焦げ、破れ、憐れなものになっていた。血の気の薄い皮膚を晒し赤い目を震わせるその女の腕には、一人の少年が抱えられていた。少年もまた、土埃にまみれた衣服を纏い、体には傷を負っていた。足を引き摺りながら、点々と赤を草の上に印す女の歩みに合わせ、少年の手足もまた揺れる。色の白い、まだ顔にあどけなさを残す少年の瞼は閉じられ、その胸には深々と矢が突き刺さっていた。
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