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    Batch1022

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    Batch1022

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    2023年10月19日修正
    創作キャラについての話です。
    誤字脱字勘弁。

    正測速値発明家でサポートアイテム企業を立ち上げている速値の父は少年漫画オタクだった。そんな父を持った正測速値は影響されて、趣味・好きなものが父親そっくりに育った。沢山努力して目標に向かって突き進んでいく少年漫画の主人公に憧れを抱いた速値は、いつしか自身もそんな主人公のような存在になりたいと夢を持つ。そして、その主人公への憧れは、自然と誰かを助ける強いヒーローに投影されるようになった。
     
    2歳のころ、速値の個性が初めて発現した。瞳に数字が出ていることに気づき、自分の個性を自覚した。そして、速値は初めての個性に実験を繰り返し、個性の反動である頭痛と高熱を克服する。

    速値の両親は愛情深い人だった。しかし、会社を営む両親は毎日忙しく俺に構ってくれることは少なかったように感じられる。少ない時間の合間で、母は愛を父は夢を追う素晴らしさを説いた。その成果もあり速値は人を慈しむ心と希望を持ちすくすくと育っていった。

    ______________________ 
    幼稚園生のとある休日、父さんも休みで、久しぶりに一日一緒に過ごした。どうやら、この日父さんは俺のワガママに応えるために休みをもぎ取ったらしい。父さんが有名人であるために俺の友達を家に招くことが許されないことに罪悪感を抱いていたのかもしれない。「今日は父さんにできることは何でもかなえてあげるからな!」と意気込む父さんに、心が躍った。これでもかというくらいに口角が上がる。脳裏にFLOWのGOが聞こえそうだ。

    「せっかくだから父さんがいつもやっている仕事のこと教えてくれ!」

    俺の返答に目を瞬いた父さんは満面の笑みで俺にサポートアイテムについて語ってくれた。初めて触れた父さんの技術とアイデアの膨大さに、心臓の音が逸る。引き付けられる気持ちのまま俺は父さんにモノを一から創造してみたいと訴えた。そして出来上がったロボ人形を前に、俺は自分が父譲りのものづくりオタクになることを感じ取ったのである。

     翌日、自慢のロボ人形を片手に幼稚園内を走り回り、すれ違う子たちに見せびらかした。初めて作った人形は自信作であったために、みんなからも褒めてもらえると期待していたのである。しかし、他の子たちからの反応は期待していたものとはかけ離れたものだった。

    「おはよう!見てくれよ!これ昨日作ったんだ!かっこいいだろう!?父さんと一緒に作ったんだ!」
    「なにこれ?」
    「速値パパと?動いたり、ビーム出たりするの?」
    「動かないし、ビームもでないな!」
    「えー」
    「なーんだ、つまんないの」
    「速値パパと一緒に作ったのに動かないの?」
    「ロボなんだからビームだしてよ!」
     
    自信作だったのと、初めて作ったものに期待していた反応が来なかったこともあって、みんなの言葉がひどく心に突き刺さった。喉の奥が詰まったようにグッと苦しくなった。傷む心を誤魔化すかのように、俺は唇を噛んだ。

    「なんだよ、かっこいいだろ!ビームが出るやつはいつか絶対作ってやるからな!見てろよ!」
    「あ!速値!どこ行くんだよ!今日はヒーローごっこしないの?」
    「今日はいい!」

    その場を逃げるように去った俺は、人が近づかない外の物置裏まで一直線で向かう。思うような反応が来なくていじけていた俺は、まずはどうにかして人形を動かせないかと少ない知識で人形を弄って試行錯誤していた。

    「あっ」
    「ん?」

    柔らかいソプラノ調の声が聞こえて視線を向けると、同じくらいの少年がこちらを見ていた。この場所に用でもあったのだろうかとその子に場所を譲るために立ち上がる。

    「あ、待って」
    「え?ここに用があったんだろ?」
    「あそこで遊んでたら誰もいないのに倉庫の方にいく君が見えたから、何しに行ったんだろうって思って…」
    「心配してくれたのか?」

    俺の様子を見に来てくれたのか。優しいやつだなあ。
    少年は、俺の隣にしゃがみ込むと手元にあったロボ人形を指さした。

    「それ、なぁに?」

    指さされた先を見ると俺が作った人形が力なく自分の手に握られていた。
    こいつ、俺の人形のこと聞いてるのか!

    「これはな!昨日父さんと作ったんだ!ロボ!!かっこいいだろ!俺がこの顔描いたんだ!この腕も俺が付けたんだぜ!!」
    「すごいね!かっこいい!ロボ!!僕にも見せてよ」
    「!」

    褒めてくれた!
    少年の言葉ににやける顔を隠さずに鼻高々に自分の人形をずいっと少年の手に押し付ける。あまりに胸がいっぱいで、俺は先生が呼びに来るまで延々と人形のこだわりを説明していた。少年はそんな俺に嫌な顔一つせずに、ニコニコと木陰に差す太陽の優しい光のような笑顔で楽しそうに話を聞いていた。そんな少年の表情はキラキラと輝いていて、胸の奥を軽く握られるようなそんな不思議な心地を俺に抱かせたのである。

    それ以来少年に会うこともなく、数か月がたった。その日もクラスのみんなと遊ぼうと話していたが、ふと、そういえばあの子は今どうしているのだろうか、と思い出して園内を探してみることにしたのである。

    「……グスン…」

    いろんなクラスを歩き回っていると、誰かがすすり泣く声が聞こえた。俺は、声のした方へ歩を進めた。

    「う…っ…ひっく」

    声を押し殺して泣いているような、苦しそうに泣く声。近づいて物陰に縮こまっている人影に声をかけた。

    「なぁ」

    うずくまった子を覗き込むと、零れ落ちそうな大きな目がこちらを見上げた。涙にぬれてアメジストのようにキラキラと輝く紫の瞳に意識が持っていかれる。センター分けの黒髪に長いアホ毛がピョコンと生えている少年。見覚えがあった。つい先ほどまで自分が探していた人物だ。あの時の俺の初めて作った人形を褒めてくれたあの子。その子が一人で泣いていた…

    「…なに」
    「大丈夫か?こすったら目痛くなるぞ?」
    「ほうっておいてよ。僕は“人殺し”だからね」
    「人殺し??何言ってんだ?お前はそんなことしないだろう?そんなことより、俺、正測速値。一緒に遊ぼ!」
    「でも僕、危ない個性で…」

    少年はめちゃめちゃ強い個性を持っていた。「寿命操作」と呼ばれる、生き物の命を自由に操ることができるすごい個性。俺の個性「測定眼」で数値を図ってもその強さは突出していた。その強さ故、あっくんは周りの人たちに恐れられ、虐められていたようだ。

    「個性がなんだって言うんだよ!俺はお前と遊びたい!」
    「っ僕でいいの?」
    「ああ!行こうぜ!!俺の大発明見せてやる!お前名前なんていうんだ?」
    「操命握津」
    「握津っていうのか!“あっくん”って呼んでもいいか?」
    「いいよ!」

    花が咲くような明るい笑顔だった。それから俺はあっくんと一緒にいることが多くなった。優しいこの子が悲しむ姿を見たくなかった。何よりも、笑っていてほしかった。個性のことであっくんに突っかかる奴が後を絶えなかったこともあり、あっくんの側を離れたくなかったのだ。

    _________________
    季節は巡り小学生になった。夏休みの宿題を一緒にやる約束をしたあっくんが家にやってきた。宿題の自由研究で考えていたことを伝えたら、あっくんは「僕にはちょっと難しいや」って笑っていた。自由研究なんだから全力でやろうぜ!とあっくんに機械の原理を説明しようとしたら、「そういえば」とあっくんが別の話題を切り出した。

    「速値はもう作文描いたの?」
    「作文って将来の夢のやつか?」
    「そう。僕こんな個性だからなりたいものって言われてもなれる気がしないし、何も思いつかないんだよね」
    「!あっくん、個性がどうかじゃない。自分がどうしたいかが大事だってこと忘れるなよ」
    「ありがとう、速値。でも、僕怖いんだ、将来この個性で誰かの人生を奪ってしまうことになったらって考えると…」

    堅く結んだ拳が白くなってみえる。
    そんなに固く握りしめたら傷つくだろ。
    俺はそっとあっくんの手を取り、開かせた。掌に爪の後が点線上に残っている。

    「あっくのこの手は人を傷つけるものじゃない。あっくんは人のことを考えられる人間じゃないか。そうだ!!俺と一緒にヒーローになろう!」
    「え、でも僕の個性で人を助けるなんてできっこないよ…」
    「ヒーローは個性だけじゃない!もちろん個性を使って戦うことが前提条件とされている感じはあるけど、それだけがヒーローじゃないだろう?それに、その個性も使い方によっては人を助けることもできるはず、俺の発明もかけ合わせたら無敵だ!!あっくんはあっくんみたいに自分の個性で苦しんでいる人を助けられるヒーローになればいい!」
    「そうだね!僕も誰かを助けられるヒーローになる!」

    先ほどよりも明るくなった声色にほっと息をついた。将来を見据えられるようになれば、きっと日々が楽しくなるだろう。この日から夢をかなえるため、あっくんは定期的に家で一緒にトレーニングをするようになった。

    「あっくん、今日の敵は5人だ!後ろは任せた!」
    「了解、速値!」
    「それじゃあ、行くぜ!!イチ・ニ」
    「「Go」」


    あっくんの笑顔が増え、平和な日々が続いたと思われた。

    しかし、しばらくして、あっくんが何か追い詰めたような顔をするようになった。

    ある日の放課後、あっくんに会いに教室を訪れた。夕焼けが教室を照らして赤く染まっていた。紅の背景に人影が写る。人影はハサミを持って右手を振りかぶったあっくんだった。

    「こんな個性のせいでっ!!」
    「あっくん!!!」

    無我夢中でハサミを持つ右手を掴み拘束した。心臓がバクバクと脈打つ音が頭の中で響いて聞こえた。驚きすぎて息切れも少しする。
    あっくんはいま、何をしようとしていた?右手にはハサミを握りしめていて、それを振り上げてて、視線はあっくんの左手に向かっていた。まさか、自分の手を切り落とそうとしていたのか? 俺の知らないところで、ここまで思い詰められる出来事があったのか?
    あっくんの瞳からポタポタと大粒の雫が零れ落ちる。

    「速値。僕、こんな個性いらないよ…こんなもののせいで僕、みんなに酷いことされるんだ。手離してよ。もう苦しい思いしたくないんだ。離せよ!!」

    悲痛な叫び声は俺を酷く動揺させた。悲しいことを叫ぶあっくんに息が詰まる。まるで深海に沈んでいるかのように苦しくて、寂しかった。

    「俺が!!俺が、あっくんのこと守るから!!!あっくんが苦しい時は俺が助けるから!!」

    これは俺の誓いの言葉だった。目の前に苦しんでいる友達がいるのに助けられなかった自分への戒めと、今度こそ守って見せるという誓い。肩を震わせてしゃくりあげるあっくんの背にそっと腕を回した。
    ああ、あったかい。大丈夫、ちゃんとここにいるんだ。

    「それじゃあ、ずっと一緒にいなきゃだね」

    落ち着きを取り戻したあっくんがはにかみながらつぶやく。

    「ああ」
    「「やくそくだ」」

    夏になった。蝉の鳴く音が暑さをより際立たせる。じっとりと汗でシャツが張り付いて気持ち悪い。タオルで汗を拭きとって、水筒を煽いだ。氷がぶつかる音がカランと鳴り、冷たい麦茶が喉を通っていく。内側から体が冷えていくのを感じ、「ふぅ」と一息ついた。
    滴る汗を眺めていると、人影が落ちた。見上げてみると、中川さんが俺を見降ろしていた。

    「??何か用か?」
    「あ、あのね、私、速値くんに大事な話があって」
    「俺に?」
    「その、私、速値くんのこと好きなの!付き合ってください!」

    告白された。クラスのマドンナ中川さんに。これは予想外だ。え、好きってあれだよな。あの、映画とかでキスしたりするやつ。告白とかきっとすごい勇気のいることだろう。
    突然のことで、一瞬思考が止まった。

    「ありがとう。でも俺そういうのよくわからないからさ。」
    「わ、わからないならさ、絶対好きになってもらうから!お試しでいいの!」
    「いや、でも」
    「お願い!付き合ってるふりでもいいの!」
    「ふり!!!!???」

    中川さんは思っていたよりも押しが強かった。「ふり」でいいとグイグイ迫ってくる彼女に腰が仰け反って、バランスを崩しそうになる。
    好きなら本気で付き合いたいと思うものだと思うのだが、「ふり」でもいいとはどういうことなのか。

    「な、中川さん、“ふり”ってどういうことだ??」
    「ごめんね!ちょっと隣のクラスの子がしつこくて困ってたの、速値くんと付き合ってるってことになったら諦めてくれるかなって!人助けだと思って付き合ってくれたらうれしいな」
    「……」

    そう言った中川さんは困った顔をしていて、手助けをしたくなった。

    「じゃあ、その子が諦めたってわかるまでだぞ?」
    「!ほんと!!ありがとう!!」

    こうして俺に、彼女(ふり)ができた。
    翌日、学校に行くと、俺と中川さんが付き合っているという噂が既に広まっていた。中川さんがいろんな人に言って回ったらしい。事が解決するまでだ、と気を引き締めて彼氏を演じた。

    中川さんと付き合ったふりをしてから一週間くらいがたったころ、突然、中川さんと彼女と仲の良かった数名が死亡したと先生に伝えられた。
    驚きで声が出なかった。つい昨日までは明るく笑っていたという記憶がその事実を受け入れることを一瞬拒んだ。少し時間をおいて、身近な人が亡くなったということを理解した。複数名死亡していることから病死ではないことは明らかだ。故意的な死である。
    きっと殺されたんだ。まさか、中川さんが目をつけられていたという隣のクラスの誰か?仮にも彼氏だった俺がちゃんと中川さんのことを守れなかったからこんなことになったのではないか。
    ぐるぐると事件のことが頭の中で巡り、自責で心が重く沈んだ。

    気持ちが晴れることがないまま、学校で一日が過ぎた。思考がはっきりしないまま、家に着くと母さんの話声が聞こえてきた。

    「いえ、うちには来てません。はーちゃんにも聞いておきますね。」
    「母さん?」

    眉尻を下げ、困惑した様子で電話をしている。俺を見た母さんは瞳を揺らして、しかし、まっすぐに俺を見つめた。

    「はーちゃん、落ち着いて聞いてね。操命さんの家にあっくんが昨日から帰ってきていないって。はーちゃん、何か知らない?」

    頭が真っ白になった。信じられなかった。息が上がる。ハッハッと小刻みに息を吸う音がどこか遠くに聞こえた。視界がぼやけて思考がまとまらない。
    中川さんが死んだのは昨日、あっくんも昨日から帰ってきていない。もしかして、あっくんも事件に巻き込まれたのでは?ああ、どうしよう、約束したのに、俺のせいだ。守るって言ったのに…

    「はーちゃん!はーちゃん!落ち着いて!」
    「っ母さん、あっくんは」
    「はーちゃん、あっくんはきっと生きているわ。あなたのクラスメイトが亡くなってしまった現場にあっくんの遺体はなかったのよ。大丈夫よ、いっしょにあっくん捜しましょう」

    過呼吸になりかけていた俺を母さんが落ち着かせてくれた。
    そうだ、あっくんは絶対生きている。だって約束したんだ、ずっと一緒だって。その日、俺は日課だったトレーニングをやめて、捜索の準備をした。

    俺は毎日あっくんの目撃情報を集めた。有力な情報はなかなか出てこない。警察も捜索を続けている。何らかの事件に巻き込まれているとしたらもう亡くなっている可能性も高いと言われたが、死んでしまっているかもしれないなんて考えたくもなかった。
    学校でも飽きることもなく聞き込みを行う。
    毎日毎日、情報を集めて、それらしき目撃情報があったらすぐにそこに向かうがあっくんにあうことは叶わなかった。家に帰ったら情報をまとめて、あっくんがいる可能性がある場所の特定を試みる。何の成果も得られず、明日はきっと見つかると眠りについて、翌朝また学校に行って授業を受ける。あっくんがいない。それだけで、心に穴が開いたようなそんな喪失感で世界がモノクロに見えた。

    中学に上がってからも、捜索は続いた。日常は変わらずに過ぎる。世界はあっくんがいなくても毎日が同じように動く。

    『続いてのニュースです。東京都A区B町にて殺人事件が……連続殺人と思われ……』

    物騒なニュースが流れる。これはきっとヒーローが何とかしてくれる。あっくんが無事なことを祈りながら、写真と地図とメモ帳を手に取った。

    『連続殺人犯は13歳の少年と思われ、2年前に行方不明となった…』
    「…え?」

    ニュースでは名前が伏せられていた。しかし、殺害に使われたとされる個性の特徴、二年前に行方不明になった現在13歳の少年という情報から、あっくんが連続殺人犯とされている可能性が浮上してきた。
    警察はあっくんが殺人犯だと判断したのか?そんなはずはない。あっくんは優しいやつだ。誰よりも人を傷つけることを怖がっていた。きっと何かの間違いだ。俺があっくんをみつけだして、証明してみせる。
    壁にかかっているコートを羽織って外に飛び出した。

    外の空気が冷たくて耳が痛んだ。目撃情報をもとに、今日の捜索ポイントに向かう。少し治安が悪い街。大通りを歩きながら裏道を覗いて回る。
    ざっと見て回ったらちゃんと裏道にも入って調べてみよう。いない、ここにもいない、そうやってしらみつぶしに探していくと、突然悲鳴が聞こえた。
    一本先の裏道。まさか、連続殺人犯がここにいるとかはないよな。と思いながらゆっくり裏道を進んだ。

    「っ!!」

    赤く染まった地面、むせかえるような鉄のにおい。目の前にはフードを被った少年の後ろ姿。少年の足元には生気を感じられない横たわった人の影。

    「だ、大丈夫ですか!聞こえますか!っ!??」

    身体の向きを変えると無残に切り刻まれた人の姿だった。切られ過ぎて内臓や骨が露出している部分もあった。
    思わず嘔吐くように口元を抑えた。
    なんて惨い…これじゃあ、誰なのかもわからないじゃないか。俺がもう少し早く来ていたら…
    フードの少年の足先がこちらを向く。
    ああ、そうだ。この少年が犯人。連続殺人犯のやり方とは違った。連続殺人犯の個性は人の命を奪えるものだが、血が出るものではなかったはず。どんなことがあろうと殺人を犯したんだ、俺が出頭させてやらなければ。

    「これお前がやったのか?」
    「…」
    「救急車よんで、警察いこうぜ。何があったか知らないけどきっとこの人たちは助かるし、お前もちゃんとしたとこで反省しなきゃいけないだろ」

    動こうとしない少年の手を取って大通りに出ようとする。引っ張った表紙に少年のフードが外れた。月明かりに照らされた少年の髪型は見覚えのある特徴的なアホ毛にセンター分けの借り上げショート、紫の大きな瞳を細めてうっとりと俺を見つめていた。信じられない。そんなはず…

    「は…あっくん…?」
    「速値だぁ…うれしいなぁ速値に会えた…」

    名前を呼ばれて、嫌でも目の前の少年があっくんであるという信じたくない事実を突きつけられる。この惨状はあっくんの仕業なのか。どう見てもそうとしか言えない。それでも、俺は信じたくなかった。そうだ。まだ、あっくんがやったとは限らないじゃないか。俺がここに来たときにはもうこの人たちは血だらけで倒れていて、あっくんはたまたまその場に居合わせてしまっただけかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。今は、あっくんが見つかったという事実を受け入れなければ。

    「あ、あっくん…!今までどこにいたんだよ!!急にいなくなって!!俺心配したんだからな!?」
    「知ってるよ、速値が僕のこと探してくれてたの。すごくうれしいや…でもごめんね、僕やることがあったんだ」
    「やること?」
    「ああ、害虫駆除だよ。殺しても殺してもいなくならなくて」
    「害虫??」

    そういってチラッと地面に横たわる人に視線をやるあっくんを見て、俺は息をのんだ。
    ああ、これで否定できなくなってしまった。この状況はあっくんが作り出したんだ。もう取り返しがつかない。口調からもこれが初犯ではないことも読み取れる。ここ最近の連続殺人犯があっくんであるということが俺の中で導き出されてしまった。警察に追われているのも何かの間違いなんかじゃなかった。

    「…っなんてことしたんだ!!あっくん!!人殺しは絶対にしちゃいけないことなんだぞ!!あっくん、警察に行こう。しばらく会えなくなるだろうけど、ちゃんと反省して、やり直すんだ」

    あっくんが連続殺人犯であったことを理解して、殺人をやめるように説得する。必死に、教え込むように、ちゃんと伝わるように、まっすぐに目を見て訴える。しかし、俺を見つめているはずのあっくんの目はどこか澱んでいて、どこを見ているのかわからなかった。

    「うぉっ」

    口角をグッとあげたあっくんが突然俺の目の前にスプレーを吹きかけてきた。グラッと視界が歪んで、瞼が重くなる。急激な睡魔に襲われて、催眠スプレーを吹きかけられたことに気づく。逃げられる。逃がさない。これ以上罪を負わせてはいけない。強烈な眠気に抗って、自分の力が抜けたからだを支えているあっくんの袖を力なく握る。

    「ぜ、ったい…止めて、やるから…な……」
    「…————」

    翌朝、目覚めたら自室のベッドの上だった。

    「クソッやられた!!」

    この事件以降、俺のあっくん捜索が苛烈になった。警察やヒーローに見つかる前に俺が捕まえなければならない。彼に自首させて、これ以上罪が重くならないように。なにより、幼馴染として、親友として、俺が正しい道に連れ戻したかった。

    連続殺人犯の情報を集めて、場所を特定して走り回る。毎晩毎晩これを繰り返しているが、一向に捕まえられない。あと一歩のところで逃げられてしまうのだ。助けることのできなかった命と俺から逃げ続けるあっくんに焦りが募る。

    「あっくん!!やめろ!!」

    急いで現場に向かって止めにかかる。被害者はあっくんに頭を掴まれていて、個性で弱っていっているのがわかった。あっくんは俺を視界に入れるとサッと距離をとって微笑みかけてきた。そして、そのままその場から立ち去っていく。

    「待て!!」

    追いかけて手を伸ばすもその手が届くことはなく、被害者を放置することもできずに、足音もなく身軽に跳んでいくあっくんの背中を見ている事しかできなかった。ひとまず、眼の前の人を助けなければと、視線を落とすとそこには小さいころからよく知っている顔。近所の山崎さんがいた。小さいころに会ってからずっと関わりがあって、とても良くしてくれたおじさん。よく知った優しい人がだんだん冷たくなっていくのに背筋が凍った。

    「しっかりしてくれ!おい!おじさん!!」

    個性補発動して心拍数や体温などの情報から残された時間を算出するが専門家じゃないから正確な時間なんかわからない。ただどんどん弱っていく体になすすべなくただ声をかけることしかできなかった。

    「おじさん!!死ぬんじゃねぇぞ!!」
    「あ…速値く…」

    伸ばされた手は俺にたどり着くことなく力が抜けて地面に垂れ下がった。

    「あああああ、おじさっダメだ!まだ、やることあるんだろ!!」

    もう、声をかけても返事が返ってくることはなかった。あっくんは、俺の親しい人にまで手を出すようになってしまった。あっくんが一体何をしたいのかさっぱりわからない。でも、俺が絶対に止めなければという意思が強くなった。

    後日、おじさんの遺品整理で俺の写真が大量に発見されたそうだ。

    中3になって、学校が受験受験と生徒を焦らすようになった。俺は変わらず雄英のヒーロー科志望。模試はA判定。受験勉強を怠ることもなく、あっくん捜索も並行して続けていた。
    そして、ついにあっくんに追いつくことに成功したのである。

    「あっくん!!今日こそ止めてやるからな!!」
    「速値!」

    素早くあっくんの両手を掴んで倒れこむ。催眠スプレーをかけられたときのことを思い出して両手を使えないように地面に押さえつけた。

    「捕まえたぞ!!両手使えなきゃ前みたいに逃げられないからな!!」

    恍惚とした表情をするあっくんが理解できない。逃げれないように拘束する力を強める。

    「なぁ、なんでこんなことしてんだよ!!あっくんは人傷つけるなんてこと嫌いだったじゃないか!どうしちゃったんだよ!!」
    「僕と速値のためだよ」
    「は?何言って」

    突然いなくなって見つけたと思ったら犯罪者になっていたあっくんにずっと抱いていた疑問をぶつけると、とんでもない答えが返ってきた。

    「速値知らなかったでしょ、速値はずっと周りの人たちに陥れられそうになってたんだよ。僕は速値のこと守ろうとしてたんだ。」
    「え…俺…?」

    理解が追い付かなかった。つまり、あっくんは俺に害がある人達を殺めていたというのだろうか。

    「それに、僕ずっと嫌だったんだ、みんなに蔑まれて虐められて。知ってると思うけど僕何もしていないのに、辛い思いしてた。速値だけが希望だったんだ。僕はもう取り返しのつかないことをした。速値は優しいからずっと一緒にいてくれるんでしょ?一緒に逝こ?」
    「どういう…」
    「僕と速値だけの世界を作るんだ!!」

    高らかに言い放つあっくんにたじろいだ。あっくんは俺を守るために人を殺していて、あっくんも学校でいつも嫌な思いしてて…それで社会を変えようとして…あっくんはあっくんなりに戦ってたんだ…いっぱい悩んで、何とかしようとして…誰かに狙われていたらしい俺には相談できずに…守るって約束したのに、俺はあっくんが苦しんでいることにすら気づかずに…

    ぐるぐると思考と感情が渦巻いていくのを感じた。ぐちゃぐちゃになった頭の中で導き出したのは、何度も誓ってきたことが自分には何一つできていなかったということである。

    「俺…俺のせい…?俺、あっくんのこと守れなかった…?だから、あっくんがヴィランになっちゃって…」
    「速値のせいじゃない。全部全部この世界が悪いんだ。」

    何も考えられなかった。ただ、何もできなかったことが悔しくて、あっくんが一人で抱えこんでいたのが悲しくて、いろんな感情が複雑に絡まり合って視界がぼやけた。

    「僕と一緒に二人だけの世界に」

    優しく涙が拭われ、手を握られた。あっくんは俺に一緒に死のうと誘っている。悔しい。許せない、あっくんにこんなことを考えさせてしまった社会が、俺が。あっくんはこの社会の被害者だ。あっくんの意思に従って、消えてしまうのも一つの手なのかもしれない。でも、だけど、それでも、俺は、

    「あっくん、ダメだよ。生きよう。俺たちは償わなきゃいけないんだ。それに、あっくんみたいに苦しんでる人を助けようって約束しただろ。」

    俺は、あっくんと生きたいと思うんだ。

    あっくんにとって理不尽で残酷なこの世界で、俺とあっくんの二人で幸せを見つけ出せたらどれだけ素敵なことだろうか。
    二人だけの世界とあっくんは言う。二人だけの世界より、もっとたくさんの人と楽しく手を取り合えたらきっと、もっと楽しいんじゃないか。その中で、二人の特別を見つければもっと幸せになると思うんだ。

    あっくんが握っていた手を離して、俺から距離をとった。そして、ポケットにかけられた銃をとりだして、銃口を自分の喉元にあてる。

    「…なにしてんだよ」

    頭が真っ白になった。

    「じゃあね、はやち」
    「あっくん!!!!!!」

    乾いた銃声が響き渡る。引き金を引く前に飛びついた。銃口はずらせたが、動脈を傷つけてしまったようで、首元から血が噴き出る。急いで学ランを脱いで首に押し付ける。止まらない。血が。血が止まらない。腕の中にいるあっくんがどんどん冷たくなる。死んでしまう。あっくんが、死んでしまう…

    ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ

    「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

    涙があふれて止まらない。俺じゃあ何もできない!俺じゃあ、ダメなんだ!誰か!誰か!!誰か!!!

    「大丈夫ですか!!!」

    後ろから人が駆け寄ってくる。ヒーローだ!ヒーローが来た!ああ、これできっと助かる!!


    あのあと、俺は意識を失ったようで気が付いたら病院のベッドで眠っていた。あっくんは、一命をとりとめたようで、個室のベッドで眠っているとのことだ。しかし、お医者様の話によると意識がいつ戻るのかわからないらしい。

    特に体に異常がなかった俺は、すぐに退院することになり、爺やの迎えで家に帰宅した。
    家に入って久しぶりにトレーニングルームに入った。あっくんと一緒に訓練をしたときのことが脳裏にはっきりと思い起こされる。手元には郵便受けに入っていたという学校の欠席中の資料がある。「進路希望調査」と書かれた紙を見て俺は深いため息をついた。
    なんでこんなことになってしまったのだろうか。何がいけなかったのか。全部俺が原因だった。俺を中心として起こった事件だった。あっくんは俺を助けたくて事件を起こした。苦しんでいるあっくんを助けられなかった。守るって約束したのに。しかも、あっくんが本当に危なくなったときに俺は何もできなかった。あっくんが殺めてきた人たちを助けることもできなかった。俺は無力だ。こんなんでヒーローになんかなれるわけがない。親友一人救えずにヒーローなんて。
    グシャっと進路希望調査の紙を握りしめた。
    あっくんがいつ起きるかはわからない。いつまでも、落ち込んでいたらみんなに心配されてしまう。いつだって主人公は壁を乗り越えてきたんだ。俺だって、俺だって…
    そう思うが一向に気持ちが晴れることはなかった。

    ___________
    ピッピッピッ
    規則的な電子音が病室に響き渡る病室。数日後、俺はあっくんのお見舞いに行った。

    「あっくん、なんて馬鹿な事したんだよ。」

    花瓶の花を入れ替え、ベッドの横の椅子に腰をかける。

    「今日も天気めっちゃいいぞ。早く起きろよ。遊びに行けねぇだろ」

    あっくんはベットの上でたくさんの管に繋がれて静かに眠っていた。

    「なあ、あっくん。俺、どうすればよかったんだろうな。あっくんがいないと寂しいんだ。あっくんママから預かったあっくんのピアスも気休めにしかならねぇよ」

    窓からそよ風が入ってカーテンが小さく揺れる。
    返事なんか来ない。わかっている。それでも、あっくんが目覚めることを祈って声をかけ続けることしかできなかった。

    「そういえば、学校で進路希望調査出せってせかされたよ。俺、ヒーロー目指すのやめようと思うんだ。」

    語りかけながら、あっくんの手を握る。中指に機械が付けられて少し邪魔だった。

    「俺ヒーローあんま向いてないと思ったんだ。でも人を助ける仕事をしたい。なぁ、あっくんだったら、俺何に向いていると思う?」

    瞳は固く閉じられていて、俺の話も届いていないということをありありと見せつけられているようだ。それでも、俺は俺が満足するまであっくんに話しかけ続けた。
    ベッドで静かに眠るあっくんは穏やかで、どこか幸せそうに見えた。

    「あっくんは、今夢の中で幸せなのか?俺、あっくんが目覚めても大丈夫なように、もうあっくんが苦しむことがないような世界を作るから…だから、早く戻ってきてくれよ」

    柔らかい日差しが速値の耳元のピアスを照らした。

    (完)
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