はちみついりのこうちゃをどうぞ 扉が閉まる音が聞こえて、意識が浮上した。まだ目が開ける気分にはならなくて、さらさらした手触りの掛布が気持ちよくて、ベッドから出たくなかった。でもお日様の光がもう早朝という時間ではなくてどちらかといえば昼に近づいているのを伝えている。
「んん……」
掛布を引きずり上げて少しでも光を遮ろうとして気が付いた。私の家はベッドのそばに窓なんてない。でも自分の家をもってからは宿屋に行くことは減っている。つまりここは私の家でも通い慣れたリムサ・ロミンサの宿屋でもなくて。
「起きた?」
「っ! ひああああ!」
微睡からようやく抜け出して、状況把握を始めようとしたところで自分以外の人の声が聞こえて驚いた。声の主は知らない人ではないし、なんなら一か月程前にエターナルバンドをした相手だ。実際に式を挙げる前から相手の家に泊めてもらうことは時々あったし、今更驚くことではないのだけれど。
今日は違う。だって服を着てない。掛布のさらさらが気持ちいいなあと思った時に気付いて私。
「メルさん?」
私が掛布を頭からすっぽり被ってしまったものだから、心配させてしまった。でも察してほしい。
今窓からは燦々とお日様の光が入っているのだ。眩しいくらいに。そんな中ベッドから出られるわけがない。寝巻きどころか下着だって身につけていないのだ。いや、そもそもどこにあるのか。
昨夜どういう流れでこうなったのだったか。思い出さなくてはならないけれど思い出したくない。
「メルさん、顔見せて?」
大好きな声でそう請われたら仕方がない。肩も出ないように顔だけひょこりと布団から出したら破顔した旦那様がいた。ああ、もう私の顔なんか見てこんな風に笑ってくれる人はこの世界にこの人だけだろう。エタバンの申し込みした過去の私の偉業を褒め称えよう。えらい。
「お、おはようございます……」
もうおはようなんて時間じゃないかもしれないけれど。挨拶は大事だし。なにより今起きたばかりで「こんにちは」というのも変な感じがするし、おはようでいいだろう。
「おはよう、喉乾いてない? お茶淹れたけれど飲む?」
言われてやっといい匂いがしていると気が付いた。気付いた途端お腹がごはんを求めているのだから困ったものだ。そのまま忘れていてくれていいのに。
「飲みたい、けどあの……」
空腹を訴え始めたお腹のことは取り敢えず無視をして、折角用意してくれたお茶を飲もう。言われた通り、喉は確かに乾いているというか、ちょっと痛いというか。とにかく潤したい。ただそれにはベッドから起き上がらないといけないのが問題だ。
「あぁ。ちょっと待って」
どうやら私の状況がどんな状況なのか察して貰えたようで。いや、そもそも何も着ていないのは私が脱ぎ捨てたとかそんなのではなかった筈なので。目の前の彼がこの状況を作り上げた張本人なのだけれど。
でもまあ、それならば私の服の行方も当然知っているだろうから、もうおとなしくここで待っていようか。出来ればこの場を離れてくれるといいのだけれど。わがままを言うならば上階に行ってほしいのだけれど。多分服はベッドのすぐそばか、隣の部屋の椅子のところ辺りに落ちているのだろうから。ちょっと行って取りにいきたい。今すぐに。だから上にいてほしい。
ああ、それなのに。
「取り敢えずこれでいいかな」
差し出されたのは今の今まで彼が着ていたアラミガンガウンで。私には相当大きいのだけれど。むしろ大きいからそれ一枚で全身隠れるからいいのかもしれないけれど。でもでも。
色々言いたいことはあったけれど。笑顔で服を差し出す彼の親切を無下に出来るわけもなく。でもせめて。ガウンを着る瞬間は見ないでほしい。
「ルカくん……うしろむいて」
掛布から精一杯手を伸ばしてガウンを受け取って、そうお願いした。