「集中して、もう一度やってみなさい。」
若き友は再び杖を天に向け、その杖先を睨み付けた。力は入れなくて良いと言っているのに、やはり眉間に皺が寄ってしまっている。一生懸命なその姿がなんだか愛らしくて、つい笑ってしまった。
ようやく杖先から真っ直ぐに白い光の筋が伸びる。わあっと喜んだのも束の間、筋の先にはごくごく小さな傘がポンっと開いただけで終わった。
「まぁ、形にはなってきたな。実に惜しいじゃないか。」
「でもこれじゃピクシーの雨宿りくらいにしかなりませんよ。」
多くの魔法使いは雨の日は杖の傘を差すものだと教えてからしばらく経つ。決して難しい魔法ではないはずだが、才能に恵まれたこの若き友はなぜだかこの魔法だけが上手く出来ないようだ。
「それにしても、これよりもっと高度な魔法はあれだけ早く吸収したというのに、これだけが出来ないとは不思議なものだな。」
「向き不向きあるんじゃないですか?すみませんが、今日は先生の傘に入れてください。ほら、時間も勿体無いですし。」
そう言って身体を寄せる友に、私の傘杖を傾けて歓迎する。
これから一緒にホグズミードに行くからだろうか、友人がいつもより浮かれているように見えるのは。
「そうだな。君がこの魔法を習得するまでは、私の傘の中に入っていれば良い。」
君のことだから心配はしていないよ。実を言うとだな、君が他の友人と雨の中を歩いているのを見かけたことがある。見事なものだったよ。私といる時だけ、なぜか、使えないのは全くもって不思議なものだな?
──もちろん、こうは言わなかった。