厳選した木の中心に杖の核となる芯を通す。ここからはもう趣味の領域だ。粗削りされた表面を細心の注意を払ってヤスリがけし、滑らかな手触りに仕上げる。美しい光沢を纏った杖は、きっと誇りを持って主人に遣えることだろう。自然体のままを好む杖、荒々しい見た目を好む杖も多いが、この杖はどうも気品ある美しさを求めているようだ。仕上げに持ち手の辺りにささやかな金メッキを施すと、杖は納得いったかのようにぶるっと震えた。おやおや、これは興味深い。
ふと我に返ると、店の入り口の方からベルが鳴っていることに気が付いた。なんとまぁ申し訳ないことに、私は杖作りに没頭するあまり来客を待たせてしまっていたらしい。
見るとカウンターの向こうには新品のローブに身を包んだホグワーツの新一年生──ではなく、そこには頭髪の7割ほどを白髪に占領された初老の男が立っていた。随分と待たせてしまっていたらしく、苛立たしげに腕を組み足を鳴らしている。男は私の顔を見るなり足を鳴らすのをやめ、酷く焦った様子でカウンターに上半身を乗り出した。
1776