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    リンゼル前提のインパ→姫さま(敬愛)&インパ→リンク(羨慕)
    託すことしかできずに生きて100年を待ち続けた人たちの苦しみを書きたかったんですが、ティアキンのインパを見てばあちゃん元気じゃねーか!!と嬉しくなってしまい、完成しなさそうなので供養します……

    あなたには分からない厄災復活の予言を受けてハイラル王の求めた和解を受け入れたのは、私の父だった。
    遠い昔に王家から受けた裏切りを知らない者はいない。分裂した一族のように恨みを持ち続けていたわけではないが、やすやすと和解したことは子供ながらに意外だった。
    ハイラル王には、私のふたつ下の一人娘がいた。王国の慣例に従い、名をゼルダという。私は族長の一族として、姫君のお友達になるようにと命じられた。そのころハイラル王は奥方、姫君にとっては母ーーを亡くしたばかりだった。母君を亡くされた孤独な姫に寄り添い、支えることで信頼を得よということだ。

    そんな腹案は一体いつまで続いたのか、気付けば、私にとってゼルダ様は何にも代えがたい大切な主人になっていた。姉のプルアやロベリーが研究所に迎えられる頃、私は忠心を買われてゼルダ様の護衛に任命された。
    ゼルダ様は、聡明で、懇篤で、ひたむきな方だった。母君を亡くされた悲しみも癒えぬうちから、封印の力を得るための修行に懸命に取り組まれていた。それはひとえに、このハイラルを、住まう人を、生物を、文化を、国土を、あらゆるものを守りたいと心から願っているからだ。そこにはもちろん、一族の利益のためにゼルダ様に近づいた私たちも含まれている。

    修行を始めたゼルダ様は、力が目覚めないことに強い焦りと不安を感じているようだった。騎士見習いのゼルダ様と同い年の少年が、迷いの森で退魔の剣を抜いたことも、重荷になっているように見えた。

    けれど、それがなんだというのだろう。ゼルダ様の国を思う心を、一体誰に理解できるというのだろう。厄災からこの国を守る女神ハイリアの生まれ変わりは、このゼルダ様以外にはあり得ない。かつて私たちが失ったのは、王国内での立場ではなく、仕えるべき女神だ。私はこの方のためならなんでもできると思う。
    比喩ではなく、本当に。



    天気にも恵まれたその日は、王の御前でガーディアンの実用試験を行っていた。
    かつてのハイラル王が恐れ、厄災をも討ち果たしたというだけあって、その精度と威力は恐ろしい。目標として設定された標的をとらえてから、ほんの数秒のうちにレーザーを射出して破壊する。太刀や槍のようにリーチに左右されることもなく、弓のように距離によって射角を調整する必要もない。ひとたびその赤い光線を照射してしまえば、確実な破壊をもたらす。
    「インパ、見てください!」
    今しがた射抜かれて粉々に燃え上がった木片が青空に散るのを見て、ゼルダ様が黄色い声をあげる。この可憐な姫君は、武骨で恐ろしい古代技術への関心が高い。そのおかげで私たちの一族は、とくにプルアとロベリーは、十分な支援を受けて研究に取り組めている。
    「姫様、あまり近づいてはなりませんよ」
    「分かってます。でも、本当にすごい……」
    今にも興奮で駆けだしそうなお姿に、思わず牽制の声をかける。ゼルダ様が、一族の技術に期待をかけてくださるのは有難いことだ。けれどその期待には、ゼルダ様の自分自身への不信が含まれていることを知っているだけに、手放しで喜びにくい複雑さもある。
    ガーディアンは用意された的のすべてを見る見るうちに破壊しつくしてしまったようだった。王の御前で行われた実験が上首尾に終わったことに胸を撫で下ろす。これで実用試験は終了し、今後は実際の運用に向けた調整に移ることになるだろう。
    ゼルダ様を連れて実験場を後にしようとした時、背後がにわかにざわめいた。それはすぐに悲鳴に変わり、振り返って見た光景に、我が目を疑った。
    ガーディアンがその目に青い光を灯している。安全のために静止させた状態で実験を行っていたはずが、無数の足が蜘蛛のようにバラバラに蠢き、その巨体が不気味に揺れた。混乱のうちに兵士たちが動き出すよりも早く、ガーディアンは標的を設定してしまった。赤いレーザーが真っ直ぐに向けられたのは、王に同行していた侍女たちだった。ゼルダ様やハイラル王が標的にならずに済んだ安堵。一瞬遅れて、引き裂くような悲鳴。逃げ惑う背中をとらえたままのレーザー。ここから飛び出しても、彼女たちの元に辿り着くよりも先にそのレーダーが彼女たちを貫くだろう。ガーディアンがその目を青く明滅させる。先ほど見たばかりの、粉々になった標的たちが脳裏をよぎったとき、視界の端に飛び込む影があった。そして今まさに彼女たちを貫こうという斜線上に転がり込むと、左手で薙ぎ払うようにしてレーザーを受けた。はじけるような閃光とともに跳ね返されたレーザーは、それを放ったガーディアン 自身を貫き破壊した。
    時間の切れ目に落ちてしまったような、不気味な静寂が訪れた。
    その場にいた全員の視線は、今やガーディアンでも侍女でもなく、元凶である小柄な近衛騎士に注がれている。
    それをやぶったのはハイラル王だった。
    「お主、今なにをしたのだ」
    騎士は膝をついて跪く。王と直接口を利いてもよいものかと逡巡しているのだろう、戸惑う姿に、側近の男が王に耳打ちをする。
    「良い、話せ」
    「はっ、レーザーを弾き返しました」
    「……鍋の蓋でか?」
    その場にいた誰もが、王の発言に耳を疑っただろう。見れば、確かに騎士の手には盾ではなく木製の鍋蓋が携えられていた。
    「……近衛の盾には向きませんので」
    この騎士の意図は分からないが、この返答はその場にいる大半の人間への挑発とも取られかねない発言だった。
    まず一つは、実験のために集まっていたシーカー族に対して。近衛の装備にはシーカー族の技術が適用されており、高い攻撃力と美しい装飾を誇る。一方で、耐久性の低さという欠点があった。
    そして、その装備はハイラル王国内での近衛騎士の立ち位置をそのまま示している。王族のそばに控えて警護にあたり、騎士の中でも花形といえるが、その大半が貴族の子息で実戦には向かない。実際、このハイラル王国において、王族に手出ししようとするものなど分裂したかつての一族くらいだ。あまりにも戦力差がありすぎれば取れる手段は暗殺に限られ、防止のための対策は官吏が担う。よって、近衛騎士が実践のために剣を振るう機会はほとんどない。
    厄災という共通の脅威と、代々王族の女性に宿るそれを封じる女神の力。聖なる力は畏怖となり、この広大な国土とそこに住まう民を強固な国として縒り上げている。
    「面白いことを言う。これからも励めよ」
    圧倒的な剣術の才を持ち、退魔の剣を抜いたことで、異例の速さで階級を上り詰めた少年。残された者たちは、彼を同心円状に囲んで遠巻きに観察しながら、王が立ち去った後の居心地の悪い沈黙を共有していた。
    彼が生まれながらに持ち、日々薄く研ぎ澄ますその混じり気のない強さが、彼自身を際立って異質にさせていた。

    その後の彼は王の覚えめでたく、ゼルダ様の護衛に取り立てられた。あの日、帯剣したまま立ち尽くしていた上席の騎士たちと彼の関係を、王が慮ったというわけではないようだ。
    彼の功績によって、あの実験で一人の死者も怪我人も出さなかったことは、私たちの一族にとっては幸いだった。かつての一族のような憂き目に合うこともなく、ガーディアンをはじめとする古代技術の研究については、「より安全に配慮し慎重に行うこと」と、実質、制限の無い継続が認められた。
    そして私はゼルダ様の護衛の任を解かれ、執政補佐官としての業務に専念することになった。
    「インパがいなくなってしまうのは不安です」
    「いなくなるわけではありませんよ。それに、彼は私よりも強いですし、姫様をきっと守ってくれます」
    ゼルダ様の不安が、御身を害されることに対して向けられているのではないと理解していながら、あの日、立ち尽くす側にいた私はそう返すしかなかった。この国の誰よりも強い彼は、今後どんな困難に直面し苦境に立たされようとも、確実にゼルダ様を守り抜くだろう。
    けれど、同時にそれがなんだというのだろうと思う。彼にはきっと分らない。ゼルダ様の歩まれてきた道の険しさを。強さでは守り切れないものがあることを。私がどれだけ心を尽くしてきたのかを。
    「でも、淋しくなります……。これからも私とお話してくださいね」
    「姫様、そんな……もちろんですよ」
    自分の内心を焼き切りそうな感情が、嫉妬なのか羨望なのか、それとも別のものなのか分からなかった。
    私はただ、ゼルダ様のそばにいて、お支えしたかった。

    :::

    その日はゼルダ様のお誕生日だった。私がゼルダ様に仕えてからは十回目で、初めて離れ離れで過ごす誕生日になった。
    十七歳になられたゼルダ様は彼を含む英傑たちと、ラネール山への修行へと赴かれている。本来なら成人を迎えられたことを盛大にお祝いしたいところだが、近づく厄災の気配はそれを許さなかった。
    今日の日に雪山の冷たい泉へ一人身を浸すゼルダ様を思うと、底が抜けたような悲しみで胸が重くなる。ゼルダ様のお力は目覚めるだろうか。ゼルダ様にとっても、私たちにとっても、知恵の泉での修業が最後のよすがだった。
    なかなか仕事に身が入らず、予算案や王の公文書、それを証明する印章が、机上に広げられたままになっている。

    そしてそれは、突然起こった。
    いつか来ると思っていたものが訪れたとき、それが今来るものだと思っていた人は誰もいない。
    禍々しい怨念が、空を切り裂くように地下から吹き上がり、ハイラル城を取り囲む。
    それは誰から見ても、残酷なくらい明確な、厄災の復活だった。
    そそり立った古代柱から何体ものガーディアンが姿を現す。そしてそれらは全てが殺戮の意思を持っていた。兵士たちが、城下町の住民が、次々に死体に変わっていくのが遠目にも分かった。
    ここに、ゼルダ様がいないことだけが救いだった。

    人の焼けるにおいを鼻腔に感じながら、降り始めた雨の中を無我夢中で走る。
    ハイラル城を奪われた軍は、刻下の脅威であるガーディアンと交戦しながら、アッカレ砦へと後退していき、そこを最後の抵抗の場所として定めたようだった。
    私は一族の者たちと森に紛れてカカリコ村に移動した。厄災に奪われ、ハイラル王国を裏切ったガーディアン、古代技術たちに対して、何ができるのか分からなくても、何かしなけれなならなかった。多くのガーディアンが兵士たちに向かっていったことと、双子山が山塞となったことで、仲間の多くが無事に村までたどり着いていた。
    「怪我人には手当を!動けるものは何人いるの?!」
    誰にも何も分からない状況で、族長の一族として、駆り立てられるように、ひとたび止まれば二度と動けなくなるのを怖がるように、夢中で動き回った。アッカレ砦に向かった兵士たちは、王は、英傑は、彼は、ゼルダ様は、どうなっただろう。
    「姫様を探して!!」
    命じた声は、ほとんど叫ぶようだった。ゼルダ様を探しに飛び出そうと震える身体を抑え込んで、全身を支配する恐怖に抗った。
    一瞬のようにも、気が狂いそうなくらい長くも感じられる時間を過ごして、ゼルダ様発見の一報が入った時、ようやくまともに呼吸ができた。
    生きている。
    ゼルダ様が、彼が、生きて無事さえでいれば、まだなんとかなる。
    そうして待ちわびたゼルダ様のお姿を見たとき、溢れかえる安堵と同時に、強烈な違和感と不安に貫かれた。
    「お一人ですか……?リンクは……っ?!」
    動揺に揺れる視界で、ようやくゼルダ様の抱えた物ーーぼろぼろに朽ちた、退魔の剣を捉える。
    リンク、リンク、どうして、あなたがいないの。
    姫様をお一人にして、剣を手放して、何をしているの。
    まるで私のものではないような、声にならない悲鳴が喉の奥から無限に湧き出て止められない。走り続けた身体は粉粉に崩れてしまいそうだった。
    「インパ、落ち着いてよく聞いてください……。ここに来るまでのガーディアンは、リンクが破壊しています。残ったものも、もう人を襲うことはありません。」
    私は滔滔と紡がれるゼルダ様の声に、じっと耳を傾けた。けれども語られる内容は意味をもって私の中には染み渡らず、与えられた分だけ溢してしまう。
    「その最中にリンクは……リンクは、倒れました。ですが、まだ生きています。インパ、あなたが私を探してくれていたおかげで、リンクと、シーカーストーンを彼らに託せました。プルアとロベリーにも協力してもらって……リンクはこれから、回生の祠で眠りにつきます」
    鼓膜に触れる音が言葉として形をなし、現実感がやっと一体になってくる。そうしてそのあまりの質量と冷たさに、受け入れるのを拒みたくなる。
    「私はこれから、コログの森に向かいます。マスターソードを、デクの樹さまに託すためです」
    眼前のゼルダ様は、頬も髪も泥にまみれ、全身に擦り切れたような傷を負っている。それでも滲み出すような神々しさが輝きを与え、一目で目覚められたのだと分かるお姿は、人外じみて美しかった。
    「リンクは目覚めます。……どれくらいかかるかは分かりませんが、必ず目覚めます」
    「ひめさま、」
    「それまで厄災は、私が封じます。だからインパ……リンクが目覚めるまで、ここで待っていてほしいの」
    いや、やめて、行かないで、ひめさま、
    私のすべてが現実を拒絶しながら、同じ頭で、何を言っても引き止められないのを理解する。
    どうして私は、何もできないのだろう。
    そばにいてお支えしたいだけなのに、どうして、どうして、見送ることしかできないのだろう。
    「インパ、あなたにしかお願いできません。リンクが目覚めて、ハイラルを救ってくれたら……また、私とお話してくださいね」
    ゼルダ様の両腕が私の身体を包み込み、きつく抱きしめられる。それ以上の強さで、ゼルダ様にしがみついた。簡単に両腕が回るその背中に、この国の全てを背負わせるためにこの手を解かなければならない。
    離れたくない。
    そばにいたい。
    あなたが救うこの国を見たい。
    無力感で空っぽの身体に小さな火が灯される。
    その火があなたさえも燃やすのに、私は向き合えるだろうか。

    :::

    一年は十年になり、十年は二十年になった。
    その間に私は夫を持ち、厄災を知らない子供たちが生まれ、育っていった。厄災からともに逃れた仲間が老いさらばえて、その死を弔った。
    村の北にある高台からは、遠くにハイラル城が見えた。絶えず回り続ける生活の中で、その城だけが時を止めてしまったようだった。
    ゼルダ様を置き去りにしたまま季節は変わり続け、私に灯された火はしぶとく燃え尽きない。
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