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    torimune2_9_

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    torimune2_9_

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    非常事態の中で共依存じみた関係を築いていた炎ホが全て終わった後すれ違って後悔してまたくっつく話……にしたい。ホ視点だと炎が割と酷いかも。一応この後事件を絡めつつなんやかんや起こる予定。相変わらずホが可哀想な目にあう

    愛の在処「エンデヴァーさーん。入れてくださーい」
    分厚い防弾ガラス越しに、書類を眺めるエンデヴァーに向けて声を掛ける。きっとこれが敵や敵の攻撃だったら、少なくとも数秒前には立ち上がり迎撃姿勢に入るだろう。だが、ホークスに対してはそうではない。呆れたようにこちらを見て、それから仕方ないといった様子で窓を開けてくれるのだ。
    「玄関から来いと何度言ったら分かる」
    「だってこっちの方が速いんですもん。それに、そんなこと言いながらちゃんと開けてくれるじゃないですか」
    「貴様が懲りずに来るからだろう!」
    エンデヴァー事務所の窓から入る人間なんて最初から最後まできっとホークスだけだ。敵はそもそも立ち入る前にエンデヴァーが撃ち落とすだろうし、他の飛行系ヒーローは思いつきもしないだろう。そんなちょっとした、きっとホークス以外にとってはくだらないオンリーワンのために態々空から飛んできていると知ったらエンデヴァーはどんな顔をするだろうか。
    「お邪魔しまーす」
    窓枠をくぐり、羽根を折りたたむ。そのまますぐ横に降り立てば、エンデヴァーは一瞬不思議そうな顔をして首を傾げた。
    「……香水か?甘い匂いがするな」
    「あー、すみません。糖分補給で飴舐めてるんでそれですかね」
    ころりと口の中で飴玉を転がして苦笑する。いちごみるく味と言うだけあって甘ったるく、匂いも同じくらいに甘いものだ。以前事故現場で救助した子供からお礼にと貰ったもので、まだいくつかポケットの中に入っている。
    「いつもは手っ取り早くブドウ糖のタブレット持ち歩いてるんですけど、丁度立ち寄ったコンビニで売り切れてたんですよねぇ。で、ポケットに入ってたのがこれくらいで」
    エンデヴァーさんも要ります?と同じいちごみるく味の飴玉を手のひらに乗せれば、エンデヴァーはため息を吐いてそれを受け取った。ただでさえ小さな飴玉が、エンデヴァーの手に乗るとさらに小さく見える。以前なら、例えば最初に出会った頃ならまず受け取ってはもらえなかっただろう。きっとくだらんと一蹴されて終わりだった。その頃に比べれば、随分な進展だろう。
    「補給が必要なのは分かるが、飛びながらはやめろ。喉に詰まらせても知らんぞ」
    「あはは。そしたら思いっきり背中叩いてくださいね」
    けらけらと笑いながら、奥歯で飴玉を噛み砕く。挨拶はおしまいだとばかりに笑みを消せば、それを合図とするように、僅かに空気が張り詰めるのが分かった。
    「――それで……例の件、進展はどうですか?」
    例の件、というのはこの数か月都内で発生している通り魔事件のことだ。被害者は既に四名。
    凶器は不明だが、被害者は全員鋭利な刃物で切り裂かれたような傷を全身に負っている。死者こそ出ていないものの、見つかるのがあと少し遅ければ失血死の可能性すらあったという。巨悪が打倒されたとはいえ、未だ市民の心に不安が残る中での無差別事件。事態を深刻に見た公安から直々にホークスへエンデヴァー事務所の補助に入るよう要請があったのは、つい先日のことだった。
    「どうせ貴様の耳にも入っているだろう」
    「まあ、ある程度は」
    一人目は二十代のフリーター。男性。帰宅途中に襲われたのか、コンビニの袋を持ったまま倒れているところを通行人が発見。傷は多いものの所持品を奪われたような形跡はなく、この時点では被害者個人を狙った怨恨の可能性を疑われていた。
    二人目は二十代の会社員。女性。朝方自宅近くの公園で倒れているところを近所の住民が発見。一件目と同じ状況であったことから同一犯と思われたが、被害者同士に接点は見つからず捜査は難航。
    三人目は三十代の警察官。男性。先に起きた二件の事件を受けパトロールしていたところ、交代の時間になっても連絡が取れないことを不審に思った同僚が捜索し、発見。警棒や拳銃を取り出そうとした形跡がないことから、不意を突かれたか、それとも、油断するような何かがあったのか。
    そして四人目の被害者は――
    「――ついにプロヒーローが被害にあったとか」
    声を低くして言えば、エンデヴァーもまた眉間に皺を寄せて頷いた。
    「やはり知っていたか」
    「ええ。といっても知っているのはそれだけです。襲われたのはこの辺りのヒーローですか?」
    「そうだ」
    肯定の言葉とともに資料が手渡される。中身を捲れば、襲われたヒーローについての情報と捜査状況について記されていた。ともに仕事をしたことはないが、名前は知っている程度の中堅ヒーロー。個性は「衝撃波」で、恐らく近・中距離戦に向いたもの。個性もそうだが、今までの経歴を見ても、素人に後れを取るようなヒーローとは思えなかった。
    「管轄は違ったが、隣接していることもあって一連の事件についての情報も共有していた。少なくとも平時より警戒していたはずだ」
    「なのに襲われた。これまで同様、抵抗した痕跡もない……」
    例えば死柄木の「崩壊」のような、触れて即発動するような個性であれば抵抗する間もなくというのも理解できる。せめて個性が予測出来ればそこから被疑者を絞り込むこともできただろう。ただ被害者を切り裂いただけなら、風を操る個性や身体を刃物にする個性など候補も対策も浮かぶ。だが、今回の事件で切り裂かれたのは被害者の肉体のみ。身に着けていた衣服も、被害者の周辺も、肉体以外何一つ傷が残っていない。そのためこれだけ被害者が出た今も犯人の個性は未知数のままだ。
    そしてなにより、捜査を難航させている要因がもう一つ。
    「被害者、まだ誰も目を覚ましていないそうですね」
    一連の事件の被害者は全員セントラルに入院中だ。なのに未だ誰一人として目を覚まさない。最高峰の医療技術を保持するセントラルにおいて、それは明らかに異常なことだった。
    「……ああ。医者の見立てによれば、昏睡状態の原因は外傷によるものではない可能性が高いらしい。実際、一件目の被害者の治療は殆ど終わっている」
    「薬物反応も白なんですよね?それなのに目覚めないとなると……傷の他に個性を受けている、とか?複数犯による犯行であればそれも不可能ではありませんが、だとしても個性の絞り込みは難しいですね。それに、随分と派手に動いている割に手がかりが異様に少ない。本当に無差別なんでしょうか」
    目撃情報もなければ、犯行現場はどれも監視カメラのない場所。単独犯だろうと複数犯だろうと、衝動的な犯行とはとても思えない。
    エンデヴァーも同意見なのだろう。頷きながら、険しい表情で資料に視線を落とす。
    「……塚内たちもそれは疑問視しているようだ。だが、被害者たちの意識が戻らん以上それを突き止めるのは難しいだろう」
    「まぁ最近はネットの繋がりもありますからねぇ。家族や友人、同僚も把握してない人間関係なんていくらでもあるでしょうし」
    そんな中から被害者たちの接点を見つけようと、きっと塚内たちも奔走しているはずだ。ならばこちらも出来ることをやっていくしかない。
    「今までの傾向から見て、間隔はおおよそ二週間。前回から既に十日が経過している。一、二日の誤差を加味しても、これまで通りなら早くても二日後には次の犯行が行われるというのが警察の推測だ」
    「個性の発動に条件があるのか、別の理由か……。被害者の共通点も犯人の目星もついていない以上、この期間に全力で張り込むしかないってことですね。巡回ルートの共有、もう塚内さんに依頼してます?」
    「ああ。それも含めて明日事務所に顔を出すと言っていた」
    「なるほど。ま、俺はいつも通りルート外と防犯カメラのない路地を中心に羽根を飛ばすことになるでしょうけど……」
    現時点で犯人の行動範囲はそう広くない。これなら全体に飛ばしたとしても羽根は足りるはずだ。ただ警察官やヒーローまで被害にあったことを考えると捜査員にも羽根を渡しておいた方がいいだろうか。そうすれば、悲鳴一つ上げずに倒れたとしてもその音を羽根が拾う。犯人の個性が羽根からホークスへ伝播するようなものでないという保証はどこにもないが、多少のリスクを飲んででも保険はかけておくべきだろう。
    と、そこまで思案して、先ほどからエンデヴァーが黙り込んでいることに気付いた。眉間に皺をよせ、固く閉じた唇は怒りに震えているというよりも何かを言い淀んでいるように見える。
    「エンデヴァーさん、何かお悩みですか?」
    「……いや、恐らく事件に直接関係するようなものではない」
    軽い調子で聞いてみれば、どこか気まずそうに視線を逸らされる。嘘を吐いているような素振りには見えない。だが、エンデヴァーの中で何かが引っ掛かったのは確かだろう。
    「恐らく、ってことはもしかしたらくらいの可能性はあるんでしょう?教えてくださいよ」
    逸らされた視線に入るようくるりと周り込めば、エンデヴァーは一瞬眉間の皺を深くして、やがて諦めたようにため息を吐いた。口勝負では分が悪いと悟ったのだろう。手に持っていた書類を机に置き、引き出しから袋に入った何かを取り出す。まるで証拠品のように保管されたそれは、数枚の手紙のようだった。
    「先日、事務所宛てに届いたものだ」
    内容を読もうと覗き込んで息を飲む。「ヒーローを辞めろ」「相応しくない」「死ね」等々、そこには、エンデヴァーへの罵詈雑言がこれでもかと記されていた。その文字を脳が認識した途端表情が凍り付いたのが自分でも分かる。保管方法からして普通の手紙でないだろうことは予想がついていたが、反射的に羽根で裂かなかっただけ褒めてほしいくらいだ。
    「なんですか、これ。こんなの立派な誹謗中傷です。警察に相談は?」
    「塚内には話をしてある。だが、事務所宛てに届いたもので差出人もない。特定することは難しいだろう」
    こちらは声を震わせないだけで精一杯なのに。エンデヴァーの、どこか他人事のような淡々とした返答に気持ちがささくれ立つのを感じた。
    「そんなん本気で探せばどうとでもなるでしょ。警察だって、貴方のSKだって、貴方が一声上げればその程度追えるはずです。エンデヴァーさん、もしかしてこれが当然のことだと、正当性のある非難だと思ってます?」
    エンデヴァーを責めるべきではない。悪いのはこんな手紙を送りつけてきた人物だ。分かっているのに、反論もせず受け入れてしまうエンデヴァーにどうしてと叫びたくなる。悪意を向けられることが仕方ないなんて、そんなことはないのに。
    「それで?今回の犯人が貴方の管轄内で事件を繰り返してるのも貴方への当てつけだと?」
    「……証拠も何もない。ただ、そう思う者も出てくるだろうと思ったまでだ」
    恐らく、まだ犯行は続く。最初は民間人から始まり、ついにヒーローまで被害に遭った。例え個性の連続発動が困難なのだとしても、間隔をあけて捜査を惑わすこともできる。それをしないのは、どれだけ警戒しようと防がれることはないという確信があるからだ。ただ己の力を過信しているだけならいい。だがもし、犯人の狙う先にエンデヴァーがいたとしたら。
    渡された手紙を指でなぞりながら、ぎり、と唇を噛む。エンデヴァー本人を狙いに来るのか、それともエンデヴァーへの批判を煽りたいのか。ようやくバッシングも収まって来たというのに、エンデヴァーの管轄内でこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。
    「……すまない。貴様には負担をかける」
    「えっ?」
    いつになく沈んだ声色に、思わず目を丸くする。
    「今回の件で、俺個人で出来ることは少ない。貴様の個性に随分と頼ることになる」
    先ほどの情報には驚いたし怒りもするが、だからと言って捜査に携わることを負担とは思っていない。起きた事件に対して、個性の向いたヒーローが招集されるのはよくあることだ。特にホークスの剛翼は戦闘から諜報まで幅広く活用できる分自然とこなせる役割も多くなる。
    エンデヴァーとてそんなことは百も承知だろうが、とはいえ、既に複数人の被害者が出ている事件だ。自分のせいかもしれないのに出来ることは少ないとなれば、歯がゆさを感じていてもおかしくはないだろう。
    「やだなぁ。そんなしおらしい顔しないでくださいよ。なんでも一人で背負いこもうとするの、貴方の悪い癖ですよ」
    ヒーローの、エンデヴァーの助けになるのならいくらでも好きに使ってくれて構わないのに。なんて個人的な思いは心の中に留め、険しくなっていた目尻を緩める。。
    「たとえ貴方への当てつけだとしても、悪いのは貴方じゃない。そこに怒りや憎しみがあろうと、それを無関係の人間に向ける選択をしたのは犯人です。そこを間違えないでください」
    「ホークス……」
    丸くなった、というよりは柔くなったのだろう。戦闘時には変わらない苛烈さを見せつけるが、今のように、ふとした瞬間傷ついた心が露呈する。それが決して悪いことだとは思わないが、過度な自罰は自傷行為と変わらない。
    「そうだ。今晩空いてますか?うまい焼き鳥屋を見つけたんです」
    沈んでしまった空気を壊すように明るく笑って見せる。作戦開始までまだ時間はあるのだ。折角久しぶりに会えたというのに、重い空気のままでは勿体ない。そんな意図を察したのか、エンデヴァーは驚いたように目を見開いてからふっと口元を緩めた。
    「……奢ってやる」
    「ふふふ。ごちになりまーす」
    苛烈であれとは思わない。
    占有したいとも、思わない。
    ただ平穏であれと、それだけがホークスの願いだった。



    エンデヴァーとの食事は和やかに終わった。互いの近況をぽつぽつと話し、そのうちに次世代――エンデヴァーはインターンで面倒を見ている緑谷たちの、ホークスは常闇の、それぞれの成長や今後の育成方針について語り合った。傍から見れば仕事の話に変わりはないだろうが、こんな風に気を抜いて話せる相手は多くない。それはきっとエンデヴァーも似たようなものだろう。久しぶりの会合ということもあってか、互いにアルコールは飲んでいないはずなのに、時間はあっという間に過ぎていった。
    「どうでした?俺のおすすめ」
    「悪くなかったな。好みの味付けだった」
    「でしょう?んふふ、最初に食べたときから、貴方が好きそうだなって思ってたんです」
    くるくると回りながら、鼻歌交じりに笑う。飲み屋特有の陽気な空気に当てられ火照った身体には夜の冷気が心地いい。このまま飛んでいったら爽快だろうなと思いながら、突き刺さる熱視線にくくすりと笑みが漏れた。
    「もうすぐ今日が終わっちゃうんだなぁ」
    小さく漏らした言葉が空気に溶ける。
    これは釣り針だ。もしくは呼び水。
    そうしてホークスが予想した通り、空気に晒され冷め始めていた指先が、熱い手のひらに捕まった。
    「宿は取ってあるのか」
    「……ええ。すぐそこのホテルを」
    今回の案件は日帰りで終わるようなものではない。明日の夜から厳戒態勢を敷いて、場合によっては数日間その状態が続く。今までの犯行からして夜に行われる可能性が高いとはいえ、いつ何が起こるか分からない。そんな時、文字通り飛んで行けるようにと街の中心部にあるホテルの最上階を取ったのだ。
    「……来ますか?」
    そのホテルは、ここから徒歩で数分の距離にある。そして、それをエンデヴァーも知っている。
    「お前が許してくれるのなら」
    「俺が貴方のこと拒むわけがないでしょう?」
    その言葉にエンデヴァーはホッと安堵の色を見せた。毎回毎回、エンデヴァーはホークスに選択を委ねる。火傷しそうなくらい熱の籠った目で名残惜しそうな視線を向けておきながら、こちらが釣り針を出さなければ手を伸ばすこともしない。エンデヴァーに望まれていると察してしまった時点で、ホークスの中に断るなんて選択肢は存在しないのに。
    「じゃあ、行きましょうか」
    掴まれた手をそのままに、一歩踏み出す。夜の街はネオンに着飾られ、より濃くなった影がホークスとエンデヴァーを隠すようだった。互いに会話は無く、視線も合うことはない。けれど繋いだ手から伝わる熱が、足を止めるなと告げている。
    (エンデヴァーさんの手、あっつ)
    その熱に感化されるように、身体の奥から燻ぶるように熱が生まれるのが分かった。夜の静けさなんてものからは程遠い街なのに、不思議と自分たちの周りだけが切り取られているような錯覚を起こす。周りの音が遠い。自分の鼓動と、手のひらから伝わる熱だけが世界の全てに思えてしまう。
    (余裕、なか、って顔しとう)
    大股で歩くエンデヴァーに合わせたからか、ホテルにはすぐ着いた。頭を下げるフロントスタッフに朝食は不要だと告げ、腕を引かれるままエレベーターへと乗り込む。立ち止まっても、まだエンデヴァーはこちらを見ない。だが、正面を見据えるアイスブルーで渦巻く熱が、静まるどころかその温度を増していることだけは分かった。
    エレベーターを降り、取り出したカードで扉を開く。シンプルだが豪華な内装も、カーテンを開ければ見えるだろう美しい夜景も、今は視界に入らない。ガチャリ、とオートロックの鍵が締まる音が響いて、そこで、ようやく繋がれていた手が離された。
    「……シャワー、先に使いますね」
    「ああ」

    ――これから、エンデヴァーとセックスをする。だがホークスとエンデヴァーの間に同僚以上の肩書は存在しない。

    始めて身体を重ねたのは、ヒーローとしての信頼が地に落ち、ジーニストと三人で活動している頃だった。あの頃のエンデヴァーは苛烈という言葉からは程遠く、砕けた心を無理矢理元の形に組み立て辛うじて立っているようなものだった。本来であれば、休ませてやるべきだったのだろう。けれど日々悪化する治安が、目前に迫る戦いがそれを許さない。
    身体に溜まる熱を、行き場のない怒りを、抱えきれない絶望を。ほんのひとかけらでも受け止められるなら。そう思って、ジーニストのいない夜、声を掛けた。
    『俺に全部ぶつけてください』
    眠らなければいけないのに眠れない。頭の中では絶えず後悔と怨嗟の声が響く。そんな状況で、きっとエンデヴァーは判断力が鈍っていた。それに付け込んだのはこちらだ。傷ついた心に寄り添って、快楽でひと時の夢を見させる。貴方を助けたいなんて甘い言葉で、眠れないんでしょう?と言い訳を用意して。決して許されない行為だと囁く倫理観に非常事態という言葉で蓋をした。
    あの時のエンデヴァーはまだ離婚もしておらず、夫婦仲がどうあれ書類上は妻帯者だった。並べ立てた言い訳がハリボテだとエンデヴァーも気付いていたはずだ。けれど、差し伸べた手は重ねられた。求めた通り全てをぶつけるような酷いセックス。快楽など無いに等しく、ただ痛みだけが残るような行為。それを望んだのは他でもないホークスで、穏やかな寝顔を前に後悔なぞ少しも浮かばなかった。
    それが、一回目。一度で終わらなかったのは、エンデヴァーが二度目を望んだからだった。そうなればいいと微塵も思っていなかったかと言われれば答えは否だろう。ただ、それ以外に方法が浮かばなかったのも本当だ。気軽に食事にも行けない。基地としていた部屋以外、全てがエンデヴァーに敵意を向け傷つける。そんな状況で、使えるのはこの身体だけだった。それで少しでも気が楽になるのなら、せめて明日立ち上がるための休息を得られるのなら、それでよかった。
    痛みばかりのセックスが快楽を伴うようになって、行為の最中ホークスの名前を呼ぶようになって。けれど、どこまで行こうと、それは巨悪の消失とともに終わるはずの夢だった。
    それなのに。
    (……)
    きゅ、とコックを捻りシャワーを止める。備え付けのバスローブを羽織ってベッドへと向かえば、相変わらず視線は合わないままエンデヴァーが立ち上がった。
    「次、どうぞ」
    「……ああ」
    バスルームへと消える背中を見送り、タオルドライもそこそこに先ほどまでエンデヴァーがいたベッドへと寝転がる。
    ヒーロー御用達とあってセキュリティは万全だと信じているが、念には念を、だ。飛ばした羽根でカメラや盗聴器の有無を確認し、クリアリングを終えた羽根は部屋の隅にまとめてしまう。エンデヴァーが上がるまであと数分もないだろう。ベッドの上で面白くもないバラエティー番組を見ていると、予想よりも早くキィと扉の開く音がした。音のした方を見れば、バスローブを羽織ったエンデヴァーが静かにこちらへ足を進めている。個性を使えばすぐに乾かせるだろうに、それだけの余裕もないのか、臙脂色の髪から雫が落ちた。ぺたり、と一歩踏み出す度に柔らかなカーペットが濡れ、散った雫が肌を伝う。何の演出もない、ただの照明に照らされているだけのはずなのに、思わず息を飲むほどの色香を放っていた。
    「水も滴る良い男、ですね」
    軽い物言いへの返事はない。無言のまま、大きな手がホークスの肩を押す。ベッドに押し倒されたホークスはされるがままそれを受け入れ、開けたバスローブに掛かる手をそのままに、エンデヴァーの頬をそっと撫でる。
    「エンデヴァーさん」
    名前を呼んで、ようやくアイスブルーと目が合った。普段とは違い、静かなのに苛烈で、熱を孕み、そして僅かに淀んで見える。その目はホークスだけを映していて、ヒーローではない、剥き出しの轟炎司がそこにいた。
    「ホークス」
    鼻先が掠めるほどの距離で、エンデヴァーが低く唸る。
    「いいですよ。俺の全部は貴方のものです」
    「……ホークス」
    軽く触れた唇は、熱い。さらに喰らおうと、唇の隙間から分厚い舌が捻じ込まれる。迎えるように伸ばした舌はあっさりと絡めとられ、吐き出す二酸化炭素すら逃さないとばかりに隙間を塞がれる。重力に従って注がれる唾液に溺れそうになりながら必死に鼻で呼吸をすれば、ペースを乱すように舌先を柔く噛まれた。
    「ッ、ふ……ぁ、えん、……ぇ、あ、さん」
    酸欠で頭の芯がぼうっと形を無くしていく。酸素を求めるのに精いっぱいで、閉じることを忘れた口の端からは飲み込みきれなかった唾液が伝う。それなのに、まだ足りないとばかりに肌と肌が触れ合い、さらに口づけが深くなっていく。
    「んぅ、んん、んんっ、ぅ……~~ぷはっ」
    唇が解放されたのは、視界がひっくり返る直前のことだった。
    まだキスしかしていないのに、は、はっ、と全力疾走した後のように呼吸が整わない。そんなホークスを見下ろしながら、エンデヴァーは力の入らない両足を容赦なく割り開いた。
    「っひ、ぅ」
    エンデヴァーの手で温められたローションがゆっくりと孔のふちを濡らす。最初は指先で引っ掛けるように、次に指の腹がふちを広げ、ぐちゅりとナカへ押し進んでいく。一本から二本、そして三本へ。胎の奥でばらばらに動く指先が下拵えとばかりにふちを広げ、時折悪戯に前立腺を掠めてはあと一歩というところで引いていく。行き場のない熱は高まっていくばかりで、全身の毛穴からぶわりと汗が噴き出すのが分かる。
    「っ、も、あんま、虐めんで、ッ」
    露になった後孔がエンデヴァーからどう見えているのかは分からない。だが、エンデヴァーによって雄を受け入れる場所へと作り変えられた後孔が、この先の快楽を求めてひくひくと震えているのが嫌でも分かる。息を飲む音がして、指とは比べ物にならない質量が押し当てられた。
    「力を抜け」
    「は、――――ッ、ぐ、ぅ」
    返事をするだけの間は与えられなかった。ずぶり、と。限界まで押し広げられた後孔がエンデヴァーの肉欲を飲み込んでいく。何度経験しても最初の圧迫感にはどうしたって慣れない。内臓が押し上げられ、肺に残った酸素が全て押し出される。だがその苦痛を塗りつぶすほどの歓喜と快楽があるのも確かだった。
    「え、っん、でばぁ、さ」
    「ホークス、ッ……」
    ずぶずぶと飲み込まれた肉欲が最奥へと当たり、互いの身体がこれ以上ないほどに密着する。末端まで支配する熱が内側から生まれたものなのかエンデヴァーの体温なのか判断が付かない。伸びた足先がシーツを掻けば逃がさないと腰を捕まれ、揺さぶられる度に汗が散る。広い空間には自身のあられもない嬌声が響き、背中で押しつぶされた小雨覆が藻掻くように舞っては床に落ちていく。
    「ホークス、ホー、クス……ッ」
    余裕のない低い声が何度も何度もホークスの名前を呼ぶ。熱くて、気持ちよくて、幸せで。逆上せそうなほどの温度に包まれている。今この時だけは、アイスブルーにホークスしか映らない。淀みは消え、こちらを食らい尽くそうとする熱だけが爛々と光を灯している。
    「んッ、ぁ、えん、ればぁ、さ、……、ッ、は、……」
    理性が溶かされる。
    頭を回す余裕もなく、口が勝手に動き始める。
    嬌声の隙間。開いた口が「  」の二文字を紡ごうとして――
    (――だめだ)
    封じ込めるように、咄嗟に唇を噛んだ。まるでスイッチが切り替わるように、熱に浮かされた頭の奥が凍り付くように冷えていく。
    (それを、言う資格はない)
    エンデヴァーがホークスを求めるのは決まってその心が傷ついた時だ。そして、行為の時エンデヴァーは身体を密着させたがる。自分のものではない体温に少なからず安心感があるのだろうか。確かにあの頃、行為の後は魘されず眠れているようだった。
    だが、大戦は終わったのだ。エンデヴァーは離婚したが、かといってホークスと交際しているわけでもない。人肌が落ち着くのだとしても、こうして身体を重ねる相手がホークスでなければならない理由はもうなくなった。
    (それを言ったら、終わってしまう)
    今はまだ、魔法が切れていないだけなのだ。あの非常時に刷り込まれた安心感が忘れられないだけ。それもいつか時間が経てば、こんな関係は間違いだと切り捨てられる日が来る。もう何度も自問自答して、分かり切っているのに。それでも自分から切り出すことが出来ないのは、エンデヴァーを好いているからだ。誰よりも好いているから、間違いだと分かっている関係を壊せない。
    (エンデヴァーさん、好きです)
    決して口に出来ない思いを秘めたまま、いつか来る断罪に怯えながら、それでも。
    (どうか魔法が解ける日までは――)




    溺れている自覚はあった。
    きめ細かく滑らかな首筋に唇を寄せ、跡にならない程度に柔く歯を立てる。たったそれだけの刺激で肩を震わせ、ざわざわと小雨覆が揺れる。僅かに赤らんだ頬と潤んだ瞳が酷く煽情的で、ずくりと身体の奥で熱が膨れ上がるのが分かった。
    「っ、ふ」
    無防備にさらけ出された喉に舌を這わせれば、鼻から抜けるような甘ったるい声が漏れ出る。エンデヴァーしか知らないだろう雌の声だ。抱かれたいヒーローランキングなんてものの上位にいるくせに、その鳥は、たった今エンデヴァーに組み敷かれ犯されている。ああ、はやく喰らってしまいたい。ひっきりなしに甘い声を響かせるその濡れた薄桃色の唇を塞いで、この美しい身体を犯し尽くしたい。
    「えん、でば……さ、」
    「ホークス」
    熱で蕩けた蜂蜜色がエンデヴァーを映す。
    初めてこの身体を抱いた日のことは今でも鮮烈に記憶している。自分だって傷だらけで、決して余裕のある状態とは言えなかったはずなのに。お前だって休むべきだと言わなければいけなかったのに、差し出された手を拒むことは出来なかった。
    何もかも投げ出してしまいたくなるような破壊衝動にも似た痛みの中で、見えた唯一の光。まるで懺悔するように、食らうように、目の前の身体に縋りつくしかなかった。
    『大丈夫ですよ、エンデヴァーさん』
    ホークスの目はいつだって柔らかい光を灯している。年長者としての威厳も、ナンバーワンの誇りも無いような弱りきった姿を見てもなお、その瞳は少しも陰りはしなかった。だからだろうか。その瞳に見つめられている間は不思議と心が凪いだ。その肌に触れている間は、鼓動に耳を傾けている間だけは、心の痛みを忘れることができた。束の間の静寂と安堵。夢も見ないほどの深い眠り。それは砕けた心にはあまりも甘美なひとときで、麻薬のようにエンデヴァーの記憶にこびりついた。だから、

    二人だけの夜。簡素な食事を済ませ、翌日の作戦を練り――気付けば、ホークスの手を引いていた。

    一度だけなら、気の迷いで誤魔化せたかもしれないのに。二度目を乞うた時、確かに自分の中には欲が芽生えていた。そうして二度三度とその身体を抱いて、ある時、その目に映る柔らかな光の奥に別の色を見つけてしまった。己に向けられる視線が他の誰を見る目とも違うことに気付いてしまった。憐憫でも同情でもない。この男は、エンデヴァーに恋慕していたのだ。
    こんなどうしようもない男のために、身体を差し出してしまうほどに。
    (終わりにしなければ)。
    非日常は終わった。それでもエンデヴァーが求めているうちは、ホークスは喜んでその身体を差し出すのだろう。そんな関係が正しいとは思えなかった。
    それに、ホークスはまだ若い。老いていくばかりの自分とは違いこれから先は長いのだ。エンデヴァーへ抱く恋慕だってきっと異常な状況の中で生まれたバグのようなもので、「エンデヴァー」というヒーローへの憧憬や情が混ざってそう錯覚しているに違いない。
    だから。だから、そのうちホークスの目が覚めるような、相応しい女性が現れる。
    (お前を縛りたくはない)
    幸せになってほしいのだ。家族に思うのと同じくらい、ホークスには幸せになってほしい。今までの努力が報われてほしい。けれど自分では、同じものを返してやることはできない。これ以上を求めれば、きっといつかこの手でまた大切な人を傷つける。ならそうなる前に手放してやるのが正しい判断のはずだから。
    今なら、まだ引き返すことが出来る。
    普通の同僚に。
    普通の、友人に。
    「ホークス」
    (俺は、お前を)
    零れかけた言葉を飲み込んで、必死に酸素を取り込もうとするホークスの唇に食らいつく。本当は手放したくなどない。傍に居てほしい。熱で赤らんだ頬も、潤んだ琥珀色も自分だけが知っていればいい。そして叶うことなら、曝け出した欲望のすべてを受け入れてほしい。
    (どこまでも傲慢で、強欲で……自分が嫌になる)
    いつもなら解放しているだろう地点すらも通り越し、もっと、もっと、と口内を犯す。こちらが呼吸するタイミングで最奥を突き上げ、ホークスが残り少ない酸素を吐き出したところでまた口をふさぐ。驚愕に見開かれた琥珀色から溢れた雫がシーツを濡らし、やがて搾り取るように肉壁が蠢いた。
    「ッん!?ん、ぅ、んん、んーーーー!」
    熱を吐き出した瞬間、ホークスの性器からも勢いよく白濁が溢れ出す。エンデヴァーに組み敷かれ自由を奪われた身体はがくがくと痙攣するように震え、やがてふっとシーツに四肢を沈めた。真白いシーツはいつの間にか汗や白濁で塗れており、散々な状態だ。
    「……ホークス」
    意識を飛ばしたホークスの、目元に垂れた前髪を指で払う。こうして触れるのも最後にすると、そう決めた。一方的な最後通牒にホークスは怒るだろうか。それとも笑って受け入れるだろうか。
    手放される「いつか」が恐ろしいから、ホークスが真にエンデヴァーを嫌うことはないと分かっていて手放すと決めた。手放すくせに、忘れないでと願うのだ。こんなわがままな男のことを、いっそ恨んでくれればいいのにとすら思う。
    「…………、…………ッ」
    飲み込み続けた言葉は最後の最後まで音になることはなく、エンデヴァーは一人、静かに息を吐いた。





    目を覚まして、まず感じたのは全身の倦怠感だった。
    (腰、痛って……何時だ今……)
    羽根でスマホを取り画面を開けば、ホテルに着いてから三時間ほど経っている。エンデヴァーの姿が見えないが、荷物がそのまま置いてあるということはコンビニにでも行っているのかもしれない。いつもは水分補給用にと水を買っていたが、そういえば今日は買っていなかった。
    「こほ、ッ……あー……声ひど」
    通りで喉が渇くわけだと喉元を抑えつつ、もぞもぞと起き上がり、首を回す。あらゆる液体で汚れていた身体はさっぱりと綺麗になっており、シーツも真新しいものへ帰られている。行為の後に意識を飛ばすことはこれまでも数回あった。そういう時は大抵エンデヴァーがギリギリを保っている時で、今回はそれほどストレスをため込んでいるようには見えなかったのに。
    (……いつもと違ったな)
    妙に落ち着かない。
    ざわざわと胸の奥が重たいような、息苦しさにも似た感覚に襲われる。何もせずにはいられず、動かない身体を無理矢理起こそうと両手に力を込めたところで、がちゃりと扉の開く音がした。はっとして顔を上げれば、帰ってきたらしいエンデヴァーと目が合う。その手には、予想通りコンビニの袋が握られていた。
    「起きていたのか」
    「おかえりなさい、エンデヴァーさん。あ、水買ってきてくれたんですね」
    「……ああ」
    どこか声が固い。それに気付かないふりをして、ホークスは力の入らない手を伸ばした。ペットボトルを受け取り、失った水分を補うように流し込む。冷たい水が胃に流れ落ちる感覚が心地よく、あっという間に半分ほど無くなってしまった。ふう、と一息ついたホークスを見て、どこか険しい顔をしたエンデヴァーがベッドに腰かける。
    「……すまない」
    気絶するまで及んだことへの謝罪かとも思ったが、すぐに違うと分かった。分かってしまった。その瞳に固い決意の色が見えて、よく回る頭はこの先に発せられるだろう言葉を理解してしまった。
    (待って、言わんで。まだ、まだ)
    「エンデヴァーさ、」

    「もう、辞めにしよう」

    ひゅ、と喉の奥で嫌な音が鳴る。震える手を布団で隠し、無理矢理口角を上げて見せる。
    「……どうしてですか?気になる人でもできました?」
    「違う。……お前には何度も助けられた。だが、このまま続けていてもお前の献身に報いる術がない」
    「そんなもん要らんですよ。俺は貴方を支えたい、ただそれだけです」
    もしエンデヴァーが家族とやり直すというのなら、笑顔で背中を押すつもりだった。新しい恋をするというのなら、それだって本気で応援するつもりだった。けれど、報いることができないと、それが理由なら話は別だ。見返りなんて最初から求めていない。支えられればいいと、ずっとそう言ってきたのに。けれど、エンデヴァーは表情を変えなかった。
    「なぜそこまでする」
    何故、なんて。
    そんなの。
    そんなのは、
    「ッ貴方が好きだからですよ!貴方が、好きだから。だから――ッ」
    セックスの後にそんな話をするなんて最低だ。体温が、匂いが、熱視線の温度すら残るうちにそんな話をするから、枷が緩んでしまった。
    は、は、と肩で息をして項垂れる。軽蔑されるだろうか。嫌われるだろうか。断罪を待つような心地で頭を掻いたホークスに、エンデヴァーはゆっくりと言葉を紡ぐ。
    「……知っていた」
    その返答に、今度こそ息が止まった。
    「…………は」
    「お前の視線には、気付いていた。気付いていて、手放しがたいと思っていたのも事実だ。だが……お前のソレには答えてやれん。こんな関係は、間違っている」
    「…………」
    間違い。エンデヴァーにとって、この関係は間違いだったのか。
    答えてほしいなんて思っていなかった。ずっと、ずっと、自分ひとりで大切にしていたのに。墓場まで持っていくつもりだったのに。こんなにもあっけなく、最高に無様な形で露呈した挙句振られるなんて。
    「は、はは、ひどいひと。知ってて、振るためにわざわざ俺の口から言わせたんですか?」
    「お前はまだ若い。いつまでも俺に縛られるな」
    「ッそんなの、」
    何も知らないくせに、と叫びたかった。
    でも、エンデヴァーが望むホークスは、きっとここで笑うのだ。しょうがないなぁと笑って、新しい恋見つけるんで責任取って応援してくださいね、だとか。からっとした態度でこれからも食事には一緒に行ってくれますよね?と強請ってみたりだとか。脳内では幾らでも作り上げた「ホークス」の行動指針が浮かぶのに、張り付けた笑みを動かすことすらできないでいる。
    「……あなたに、おれは不要ですか」
    「…………ヒーローとして、これからも隣にいてほしい」
    それが、エンデヴァーの答えだった。
    ひどいひと、ともう一度声に出さず呟く。仕方のないことだ。だって、もう魔法は解けてしまった。
    「貴方の言葉に従いましょう」
    ホークスの返事に、僅かに肩を撫で下ろすのが見えた。最適解は出せなかったけれど、及第点は取れただろうか。最後まで、エンデヴァーの思うようなホークスでいられただろうか。
    「……ゆっくり休め」
    「ええ」
    伸ばされた手はホークスに届くことなく、数秒の躊躇いの後ポケットの中に仕舞われる。それが正しい距離感だとでもいうように、エンデヴァーは無言のまま背を向ける。もう、そのアイスブルーはホークスを見てはくれなかった。
    「さよなら、エンデヴァーさん」

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    Replies from the creator

    torimune2_9_

    DOODLE非常事態の中で共依存じみた関係を築いていた炎ホが全て終わった後すれ違って後悔してまたくっつく話……にしたい。ホ視点だと炎が割と酷いかも。一応この後事件を絡めつつなんやかんや起こる予定。相変わらずホが可哀想な目にあう
    愛の在処「エンデヴァーさーん。入れてくださーい」
    分厚い防弾ガラス越しに、書類を眺めるエンデヴァーに向けて声を掛ける。きっとこれが敵や敵の攻撃だったら、少なくとも数秒前には立ち上がり迎撃姿勢に入るだろう。だが、ホークスに対してはそうではない。呆れたようにこちらを見て、それから仕方ないといった様子で窓を開けてくれるのだ。
    「玄関から来いと何度言ったら分かる」
    「だってこっちの方が速いんですもん。それに、そんなこと言いながらちゃんと開けてくれるじゃないですか」
    「貴様が懲りずに来るからだろう!」
    エンデヴァー事務所の窓から入る人間なんて最初から最後まできっとホークスだけだ。敵はそもそも立ち入る前にエンデヴァーが撃ち落とすだろうし、他の飛行系ヒーローは思いつきもしないだろう。そんなちょっとした、きっとホークス以外にとってはくだらないオンリーワンのために態々空から飛んできていると知ったらエンデヴァーはどんな顔をするだろうか。
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