愛の物語【前編】 御影 玲王は普通の人が羨ましいと感じたことがある。総資産7058万の御影コーポレーションの御曹司。成績は進学校の白宝高校で総合一番。運動は運動部の中に混ざっても一番できる。ここまで出来すぎると嫉妬の一つ二つもされそうだが、仲良くない人がほぼいないコミュニケーション能力。仲が良くなくても付け入る隙のない男だ。
だからこそ人生は心が揺さぶられない。手に入るものもなく、この世に御影玲王を満足させるようなものは一つもなかった。才能、人、物も全て玲王にとって不自由なものはなかった。玲王にとって人生はそういうモノであった。つまらないが、自身が必要な理由はあり、他人からは嫉妬ばかりされる人生と思っていた。
「えー、玲王が一番じゃないんだ!?」
「いや、俺もびっくりしてるよ」
学校で帰ってきた試験の結果を見て、驚いてしまった。玲王が一位ではない科目が複数あった。歴史系の社会や理科の科目では玲王は二位だったらしい。
「あ、廊下に貼り出されっぽいぞ」
休み時間に貼り出された順位表をみれば、御影玲王の名前の上には"凪 誠士郎"と書いてあり、総合順位では玲王に次いで2位の位置にいた。
「流石、玲王!総合順位は一位だな!」
「まぁな!」
中学時代にはいなかった名前であることは間違いない。白宝高校は、白宝中学、白宝小学校と続くエスカレーター式の学校だ。中学生から入った子とも交流のある玲王にとって初めて見る名前をよく覚えた。少なくとも凪誠士郎との1回目のすれ違いはそこであった。
名前を覚えたとしても玲王にしては珍しく"凪誠士郎"と邂逅することはなかった。玲王のいるクラスは進学組かつエスカレーター組が多く所属するクラスだ。噂では、顔がいい広告になりやすいいい子を集めたクラスだとも言われている。成績が優秀だとしてもこのクラスにいないということは顔が良くないかそれとも素行に問題があるのか。他クラスにも探りを入れたが、どうにも見つからなかった。
そうして凪誠士郎を探すようになってから、ほんの少し人生が楽しくなったと玲王は感じていた。いわば一種のかくれんぼなのだろう。いっそ見つからないで欲しいとまで思うようになってしまった。クラスの誰からも名前の出ない“凪“を探し、はや半年以上が経って初めて他人から名前を玲王は聞いた。秋の体育祭で全部の優勝を狙っていたのにも関わらず、初戦で負けたらしい。
「うぇ〜、もう女子敗退したのかよ!?」
「そうなの…もう悔しいたらありゃしない!しかも一般クラス!」
玲王のいるクラスは学校側が用意したいわば王様のようなクラスだ。だから今まで勝とうとするクラスはほとんどいなかった。いても多くはスポーツ推薦で構成されたクラスもあるので、いかに勝つか作戦を練っているのが玲王のクラスだ。その中でつけられた黒星にひどくクラスメイトは悔しいと地団駄を踏んでいる。
「バレーそんなに強いやついたんだ?」
「私もそんな奴がいると思ってなかったんだよね……」
「え、どんなやつ?」
思わぬ敗北で玲王のクラスメイトは盛り上がってる。来年はきっと勝っているだろうが、そのための研究をしに行くつもりなのだろう。
「めちゃくちゃ身長高かったんだよね。リサーチ不足だった」
「しかもその子バレー部じゃないから油断した〜!」
クラスでこんなに話題になっているとは想像もしていなかっただろう。そもそもこのクラスにいる多くの生徒は、幼い頃より親から競争させられる世界にいる。玲王はその中でも勝率が高い方の人間だ。負けず嫌いがかなり強く勝ち続けるまで戦い続けるからこその勝率。
「じゃあ、見に行ってみっかな、そいつ」
「え、玲王見に行くの?」
「だって、バレー部エースを負かしたやつは流石に気になるって」
玲王の好奇心が火をつけた。幼馴染と言っていい気の強いクラスメイトがこんなに悔しがっている姿を見て面白くなってしまったのだ。
自分の参加しているサッカーとバレーの決勝戦は被るので、準決勝を一人で見に行った。クラスメイトはちょうど野球の準決勝だったため、すこしして追いかけて見にいくと伝えていた。
(えーと、6組だったよな。うちが負けたのって)
2階のキャットウォークから覗き込めば、平均的な背丈の中に一人、ずば抜けて大きな背丈の女子がいた。その女子が攻撃の要らしい。キャプテンと思わしき女子生徒が彼女の背中を叩く。
「凪さん!よろしくね」
微かに聞こえづらかったが、玲王の耳に凪という音が入った。玲王はくだんの“凪誠士郎”を思い出した。文字列から察するに誠士郎は男性だと玲王は判断した。ここにいる女子生徒はその凪誠士郎の双子のきょうだいかもしれないと、顔を少し覗きこんだ。可愛い顔立ちなのかもしれない。キャットウォークからではあまり覗き込めず、彼女が他の生徒に比べ頭抜けて大きいことだけは伝わってくる。白い長い髪を一つに結んだ彼女は、すらっとした体つきだが、しっかり筋肉はありそうだ。
試合が開始する前に彼女は一応、レシーブの構えをとった。ピーッとホイッスルの音がコートに鳴り響く。凪のいるクラスからサーブが始まり、敵陣にボールが渡る。ボールは宙を舞って、敵対クラスは初撃からスパイクを打って返そうとする。
バシッとそのスパイクはあっけくネットの前に立っていた凪に返されてしまった。
「さすが、凪さん!」
「くそ!次、次!」
熱を上げている周りに反してボールを返した彼女はぼんやりと立っていた。その瞳に玲王は自分と同じものを見た。当たり前のように彼女は来たボールを返しているだけ。彼女にとってはただ単純にそれだけ。しかし、ボールの速度は速かったり山なりに返っているはずだ。しかも彼女は味方が開けていた布陣の穴の元に行き、ボールを返している。現にコートでは彼女は自分がいかにすごいか気づいていないのだろう。
スマホのバイブレーションで玲王は自分が彼女に見入っていたことに気づく。スマホには早くこいよ〜!とクラスメイト彼女をもっと見ていたい気持ちもあるが、もうそろそろクラスメイトの野球を見に行く必要がある。
(1年2組の凪。おし、覚えた)
ひとまずはクラスメイトと体育祭を楽しむ方が優先されるべき出来事だと玲王は判断した。1年2組の凪にこれからだって話しかけるタイミングはまだあるはず。今はこれからのコミュニケーションを円滑に進めるため、野球グラウンドに向かった。
そして結果、玲王のクラスは総合優勝を飾った。それから玲王は1年2組の凪に声をかけることが2年に進級してからもできていなかった。
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玲王が凪に話しかけることができていない理由は二つあった。一つは凪の居場所がわからなかった。彼女は授業時以外、教室にいないことが多く、玲王は彼女を見つけることができていなかった。玲王は自分がファンクラブのできるような人間であることを何より理解している。迂闊に聞いたら凪に迷惑をかけることを理解していた。
二つ目の理由は玲王の多忙のためだった。学校の授業は進学校とはいえ、玲王にとっては授業を聞いていれば、今までの研鑽のおかげで簡単に成績一位を取ることができた。それで満足はせず、自己研鑽を欠かしてはいない。習い事も複数あったり、彼の生家のお仕事を手伝ったり。放課後は彼女を捕まえに行けなかった。
この二つの理由で、彼は凪に、話しかけに行けてなかった。しかし注意を向けていれば噂話は入ってくるようになった。彼女はいわば悪目立ちする存在らしい。
噂はいくつかあるのだが、まず男子からは顔が可愛くて、スタイルも良く声も可愛いと評判になっていた。ただ身長も大きいため身長にコンプレックス抱いている男子は苦手とも言っていた。
対して女子からはわからない生き物だから近づきたくないと言われ、遠巻きにされていた。この噂を聞いたとき、生き物とはどういう意味だろうかと玲王は考えたが会えば理解できるだろうと思った。
この話しかけに行けていない間も歴史のテストは凪誠士郎に今だ勝てたことがなかった。凪という生徒は調べてもあの女生徒のみで玲王が2年に上がった時、彼女がおそらく凪誠士郎ではないかと予測をしていた。
そして、運命の出会いは準備などをしていない時に発生する。
玲王が屋上にいたのはけん玉同好会のクラスメイトで、屋上に誘われ、彼らの部活という名の暇つぶしに参加していた。彼ら以上の力を見せつけ、すごいと賛称を受けたが玲王は自分の中が冷え切っていくことを実感していた。エスカレーター式とはいえ高校でさらに人数が入ってくる白宝高校の中で、玲王はほとんどの人と知り合い、友好関係を築いていた。
(誰か。何か。ほしい)
空腹の飢えたライオンのように心の渇きを玲王は自覚していた。日に日に感じる焦燥感。ここにいる御影玲王は彼の親が関係しない何かを見つけることができていなかった。気がついた時にはすでに遅く玲王は親の設計された子供になっていた。器用にできすぎるあまりに飽きてしまって色々なことに手を出し、それも一流レベルでできる男になっていた。
(そう、誰も見つけていないような、真っ白である何かを見つけたい)
もう少しで受験が本格的に始まって、大学に行くとしたら玲王の父親はきっと玲王にインターンと称して家業を手伝わされるだろう。その前にどうしても親がコントロールしていない側面を玲王は持ちたかった。
とりあえずは従順なふりをしなければ、と自分の荷物を取りに教室へ戻ろうとした道の途中の階段。階段の途中に座り込んでいた人物に気づかず、その人物を蹴ってしまった。その衝撃でその人物の手からスマホがこぼれ落ちる。
「あ、ゴメン…」
ふわりと白い長い髪の毛が玲王の視界を埋める。階段を蹴り、彼女の足がスマホに伸びる。つま先で衝撃を殺して、階段の下でキャッチしていた。その一瞬だけでも彼女の運動力の高さが窺える。
「お、セーフ」
そしてその足を伸ばす彼女の姿に見覚えがあった。
「凪…」
玲王は立ち上がった彼女を見てより強い感銘を受けた。すらっとしているものの張りのある足、パーカーによって隠されているが少し大きめの胸、185cmの玲王より少し小さい身長、雪のように白い肌、雪うさぎのような愛くるしい瞳、体格に似合わずベビーフェイスと言えるような幼なげな顔立ち、そして雲のようにふわふわとした髪。先ほどのしなやかな身のこなし。
そんな凪に玲王の目は惹きつけられた。可愛らしい女子、綺麗系の女子、美人な女性。様々な人と付き合ってきたはずなのに。いろんな女性と付き合ってきたはずなのに。目の前で見た彼女の雰囲気は他の誰とも違った。
「…何?」
「え、あ」
彼女が玲王に声をかける。当たり前だが名前を呼ばれたのだ。誰でも自分の名前が呼ばれたら声をかけるだろう。声をかけた玲王は鈴のような彼女の声を聞いて、思わず固まってしまった。
「えっと…だれだっけ」
彼女の図体に似合わず、子猫のような青にもグレーにも見える瞳が玲王を見る。
「確か、お金持ちの息子の人?」
手が玲王の方に差し出された。その手にレオは首を傾げた。
「お金、ちょーだい」
「へ?」
「あ、でも、贈与税とかがめんどいか。やっぱいいや」
そして彼女は玲王に対して興味を失ったように視線を外し、スマホに再び目線を落とした。
「どうしてお金が欲しいんだ?お前ならなんでもできるだろう?」
玲王は彼女の隣に座ってみた。おそらくこれは一目惚れというやつなのかもしれない。
「何でもってなに?」
怪訝そうな声で、玲王の方を見る凪。玲王は欲しいものを見つけたのかもしれない。
「運動神経すげぇよな、お前。どんなスポーツでも向いてるんじゃねぇか?」
「なんでそんなめんどうなことをするの?」
「え?」
彼女の目は玲王のことを全くみない。もう玲王に対して興味を失ってしまったようだった。
「なんでそんなに頑張らなくちゃいけないの?」
再び温度を失った瞳が玲王を貫く。
「一生、ダラダラしていたいんだよね。私」
手足を伸ばして、猫のように背伸びをする。ぴょいと軽い姿で凪は立ち上がった。
「頑張らなきゃダメなんてめんどくさいもん」
トンと立ち上がり、階段をさらに降りようとしている。あれだけ動けて、頭がよく、美しい彼女に一目惚れをしていたらしい。玲王は彼女の前に飛び出た。
「なぁ、名前教えてくれないか?」
「なんで?」
玲王は咄嗟に理由を思いつけず、そのまま思ったことを口に出した。
「お前が気になった。それじゃあ理由にならないか?」
「…この一瞬で?」
「おう!」
彼女は玲王の圧にたじろいだように一歩後ろに下がる。その一歩を玲王を一歩追い詰める。
「…凪。凪って呼んでよ」
観念したように凪は小さな口から自分の名前をこぼした。
「凪…って凪誠士郎であってるか?」
「なんだ。名前、知ってんの」
反応を見る限り、彼女の名前は凪 誠士郎で正しいようだ。
「負けなしだった社会でお前に負けたんだよ」
「だって、あんなの覚えるだけで楽勝でしょ」
なんともないと言ったふうに呟かれる言葉に思わず玲王は吹き出してしまった。それが凡人に難しいのだということを玲王は見てきたのだ。この玲王以外には誰にも認知されていない天才はそのことを知らないらしい。
「俺は、御影玲王だ。よろしくな!」
玲王から差し出された手に、凪は握手を返した。
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凪と出会ってから玲王は彼女と過ごす時間が少しだけできるようになった。とは言っても凪は玲王の前に滅多に現れずチェシャ猫のようにふわふわと現れることが多い。
玲王が1人の時じゃないと現れないようにしている様子があった。
例えば、屋上で玲王は呼び出された。呼び出された場所に行けばゆるくカールを巻いた髪、スカートを腰で巻き上げ丈を短くし、注意されない程度の化粧をした女子生徒がいた。別学年の女子からで、淡い期待をいただいたまま玲王に告白をしてきた。
「君が俺のことを好きでいてくれるのは嬉しいよ」
告白を受け取ってもらえたと思い、女子生徒は舞い上がったような表情をした。しかし、玲王は自分の持つ影響力を理解している。だから頷けない。
「でも、今は学業に専念したいから頷けないんだ。ごめんな?」
謝りながら玲王は優しい笑みを心がける。決して敵にはしないように言葉を紡ぐ。ただ、告白してきた彼女は悲しみを持ってその場を走り去っていた。
後ほど他の生徒たちもフォローを入れ粘らないと一息つく。興味が持てず、辟易としているのをしっかり隠し通せていると思いたい。玲王も全く興味が持てないわけじゃない。ただ、幾度もこう言ったことがあった。お金目的であったり、『御影玲王の彼女』というステータス目的で告白してくる女子が絶えず多いのだ。玲王から見れば今日、告白してきた女子生徒も見知らぬ女子生徒であり、きっと『御影玲王の彼女』というステータスを狙ってきていたのかもしれないと玲王は結論づけた。
「レオは大変だね」
凪の声が聞こえたが玲王の姿は見えず、キョロキョロと玲王が見回す。しかし屋上のどこにも姿は見えない。
「こっちこっち」
声の聞こえた方に玲王が顔を向けると凪はいた。
「この間も告白されていたでしょ」
彼女は玲王が見つけやすいよう塔屋に腰をかけていた。とうっとやる気のない声を共に降りてくる。彼女が身につけている制服はスカート。そして玲王は見上げていた。
「女の子が…」
「?」
ぷるぷると震えている玲王に凪は警戒心なく近づく。
「しかも、スパッツとか…はいてないのか…?」
凪誠士郎は今まで女として見てもらったことはなかった。だから注意されたことも、意識されたこともなかったのだ。
「ちゃんとスパッツとか履いておけ!!」
「…玲王、私のおかーさんか何か?」
凪にはこの説教が響いていないらしい。気にせずあくびをしている彼女に肩を落とす。
「なんで、そんなとこにいんだよ凪」
「私の定位置なので。屋上の風、気持ちいいんだよ」
凪が助走をつけて、壁を使い自身の体を真上に蹴り上げた。そのまま、塔屋の縁を掴み、あっという間に塔屋の上まで登ってしまった。スカートの中が再び見えそうになって、玲王は顔を逸らした。パルクールだとは思うが、あまりも華麗に行うので彼女が大きな白猫のように見えてくる。
「レオもおいでよ」
凪の手が差し出されるが、ここは男の意地だった。玲王も凪と同じ登り方で凪と同じ目線に立つ。
「お…おぉ!」
「キレーでしょ。ここ」
夕焼け時が重なり、空一帯が夕焼けに染まる。太陽の光によって染まっているオレンジ色と夜の始まりを告げる紺色が入り混じり、鮮やかなグラデーションを作り上げていた。
「いつもここにいたのか?」
「まぁね。静かで気持ちいいから」
玲王は静かに
「もうちょっとで冬になると寒くなるから、見納めなんだよね」
「そっか」
そう思うとなんだか寂しい秋空に思えてくる。
(ここにくれば凪と出会えるかと思ったのに)
玲王の中でそんな想いが湧き上がる。彼女と一瞬、会えただけでこんなに安らぐとは思っていなかったのだ。すぐに連絡を取れれば、こんなに探す羽目になかっただろう。
「あー!!」
簡単な見落としにレオは気づき、声を上げた。突然、上げられた大声に凪は目を見開いた。
「……何?」
「いや、連絡先交換すればいいんだ!」
「あー…なるほど…?」
「なんかSNSやってる?」
玲王は二台持っていたスマホを取り出す。この際、色々と聞き出して、交流の接点を多く掴みたいと玲王は思った。地面に座って、隣に座れとハンドジェスチャーをすれば、彼女は隣に座った。
「SNS、登録してない」
「え、まじかよ。LIMEかInstegramぐらい登録しておけよ」
「必要なかったし、めんどくさいから…」
「保護者とどう連絡取ってんだよ」
玲王の周りの同級生の多くはInstegramで連絡を取り合っており、LIMEは親や年上の先輩と連絡を取るためのツールだ。多くの生徒や家庭教師が使っているSNSに合わせて玲王も複数のSNSに登録している。玲王は親が業務上LIMEで会話できない内容も扱っているのでSMSを使っていることがほとんどだが、玲王の身の回りの世話をするばぁやに連絡する時はもっぱらLIMEを玲王も使用している。
「というか、なんでそんなに知りたいの?」
「凪と会うためだけど」
「…めんどいから、GPSとかで把握していいよ」
凪としてはめんどくさいと態度で示し、めんどくさい女だからと諦めてくれればいいと思って発した言葉だったが玲王にとても響いてしまったらしい。
「え、まじで?」
「…じゃあ、SNSも登録しておいて〜」
凪はスマホをアンロックして、玲王に手渡した。
「おまっ!?人にスマホ預けて何してんだよ!」
「玲王が登録してくれたら、楽ちんだな〜って思って」
凪の顔が玲王に近づく。
「それに玲王はいい人だから、してくれるかなって思って」
キスできそうな無防備な距離にレオの心臓は高鳴る。
「というわけでおやすみ〜…」
その言葉に安易に負けてしまった玲王は凪のLIME登録を済ませ、自分を友だち登録する。さらに凪の携帯に自分の連絡先を登録し、GPSを共有するリンクを自分の私用の携帯に送った。
「……」
呑気に寝ている彼女は隣にいるのが男だと意識せず、この世で安心できる場所だと思い健やかに寝ていた。
そんな寝顔に負けて、自分の心ではアンフェアだから凪のスマホでも玲王自身の居場所をわかるようにした。