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    紅雀部隊、炎属性能力者たちの合同任務🔥
    ギャグよりです😂

    『禁止薬物の製造、及び販売する組織の情報あり。製造法と計画書を証拠として保全し、組織を制圧、捕縛せよ』
     たまたま現場近くにいた夏日熒は、その連絡を受けてのんびりと現場に足を向けた。せっかく任務を終えたところだったのに、続け様に任務が入るなんてついてない。しかも敵に氷の能力者がいるらしく、熒と同じ炎系のグレイスによる合同任務ということだった。誰が来るのかはわからないが、まぁなんとかなるだろう。
     そう楽観的に考えていると、集合場所にはすでに三人の人物が集まっていた。

    「君で最後かな。今日は私が指揮をするよ。黒暁周琉だ、よろしく」
    「はーい」

     集まった中で一番年長の周琉が今回のリーダーだ。自信に満ちた表情、靡く白銀の髪。歩き方一つとっても強いことがわかる。
     即席チームのリーダーとしては申し分ないし、熒としても不満はない。だが、あとの二人も曲者だ。

    「ふふん、此度の任務我に任せておけば指揮など必要ない! さぁ行くぞ!」
    「油断は禁物だよ、気を引き締めていこう」

     熒と同年の魔玉財閥御曹司、魔玉焼辰と、一つ上で仕事はできるが問題エピソードにも事欠かない先輩、九ロマ。
     頼りになりそうな台詞を自信満々に言い切って、二人は早速別々の方向に歩き出した。

    「待て待て待て、どこに行く気だ!」
    「ハッハッハ! 我が行く道が覇道だ!」
    「え? 敵のアジトに向かうんでしょう?」

     ロマが指す先には氷のようなものでできた巨大な建造物が見える。そうかあそこに行けばいいのか。

    「道はこっちだぞ?!」

     周琉が示した道は二人とは全然違っていたが、我が道を突き進む二人にはその声は届かず。焼辰とロマは違う道を行ってしまった。

    「大変だね」
    「……」

     任務の前からがっくり項垂れた周琉の肩を、熒はぽんと叩いた。リーダーは大変だな。
     そしてとりあえず目的地は同じだから向かおうと一緒に歩き始めて数分。熒は周琉とはぐれ、いつの間にか一人で森の中を彷徨っていた。

    「……あいつら纏めるのとか無理だろ!」

     遠くから響く周琉の叫びが、森の中にむなしく木霊した。

    ◇◆◇

     道は分からなくても目的地は見えている。巨大な氷の城を目指し適当に歩いていた熒は、気付けば城の目の前に辿り着いていた。どうやら一番乗りらしい。
     ギィィと誘うように扉が開き、熒はのこのこと城に入っていく。お目付け役がいれば「少しは警戒しろ!」と突っ込まれたかもしれない。

    「おじゃましまーす」

     声をかけるが当然のように返事はない。氷でできているだけあって、城の中は随分ひんやりとしていた。
     こういう時はとりあえず上に向かえばいいはず。そう考えて階段に向かうと、ぞろぞろと道を阻むように敵だろう男達が現れた。武器を構えている者もいて、熒もめんどくさそうに二つの短刀を抜いた。

    「エル○いないのかー」

     氷の城といえばもしかしたらと思ったが、出てくるのはむさ苦しい男ばかり。もうさっさと終わらせたいが、上につくまではできるだけ能力も温存しておきたい。
     どうせならみんなが来る前に終わらせておけば褒めてもらえるかな。ほんの少しだけのやる気を見せて、熒はタンッと軽く床を蹴った。
     ふわりふわり、雲のように掴みどころのない熒の動きに敵はまるでついてこられていない。だが、階を上がる毎に増えていく雑魚は面倒以外の何物でもない。

    「喰らえオラァ! ぐわぁ!」
    「ざんねーん」

     熒の背後から襲いかかってきた敵を振り向きもせずに蹴り飛ばす。飽きてきたなぁ。建物自体が氷でできているし、いっそ能力で全部溶かしてやろうか。さすがに出血多量で死ぬかもしれないからダメか。
     ぼんやり考えながら敵を捌いていると、突然敵の一人が吹き飛んだ。メラリと燃える槍が炎の弧を描き、熒の隣に立つ。

    「はー……なんではぐれて迷った癖に私より早く着いてるのかな」
    「さぁ?」

     ため息をつきながらぼやく周琉に熒は首を傾げた。だって自分でもよく分からないし。でも人手が増えたのはありがたい。二人になった戦力でこの階をあっという間に制圧し、二人は最上階に向かった。
     最上階には部屋は一つきりらしい。いかにも「何かあります」といわんばかりの豪奢な扉を押し開ける。

    「ふははは! よくぞここまできた! 褒めてやろう!」

     部屋の中央にはラスボスよろしく五人の男達が仁王立ちで待ち構えていた。そして彼らの向こう、だだっ広い氷のフロアの奥には、今回の目的、薬物製造及び頒布計画書らしき物が氷の塊の中に封じ込められている。
     男達は先程までの雑魚とは違う。グレイスだ。つまり彼らを倒せば任務は完了というわけだ。

    「我々は『凍結戦隊! フロスティー!』」

     ビシィっ! とポーズを決める敵に、熒はぱちぱちと手を叩き、周琉は頭痛を堪えるように額を押さえた。なんだコイツらは、と呆れるように呟いた周琉の感想はごもっともである。

    「我々にかかれば貴様らなぞ一捻りだ! 我らの能力はすばらしいぞ? 水を生成する能力、液体を操る能力、水を凍らせる能力、触れたものの温度を一定に保つ能力、そして建築家!」
    「最後の人能力関係なくない?」
    「何を言う! こいつのおかげでこの素晴らしい城ができているんだぞ、敬え!」
    「ごめんなさい」
    「素直か」

     周琉は力なくツッコみつつ、炎の槍を構えた。熒も両手に短刀を構える。さすがにグレイス相手に能力を使わないわけにもいかない。
     熒の赤褐色の髪と瞳が鮮やかな赤に変わる。燎原烈火、熒の血中の鉄分を燃やし強力な炎を起こす能力だ。体内で血を燃やすことで体温を上げ運動能力を上げることもできる。

    「さっさと捕縛するぞ」
    「あいあいさー」
    「簡単にできると思うなよ! 行くぞ!」

     敵が吠えたと同時に、戦いの幕が上がった。
     ふざけたように見えるが、運動能力を底上げしている熒にもついてくる敵の動きは悪くない。五対二、そして能力は炎と相性の悪い水。少々の水なら蒸発させてやるが、水を延々と生成され、それを操って攻撃してくるとなると二人では不利だ。
     周琉も同じ考えだったようで、二人はまず目標を一人に絞った。

    「水出すやつを先にやる」
    「建築家は?」
    「建築家はほっとけ!」

     うねりをあげて向かってくる水流を躱し、水を出す能力者を狙う。だが、敵もその狙いは分かっているのだろう。水を凍らせて作った刀と、自在に動く水流が二人を阻んだ。
     シュッと冷たい刃が熒の頬を掠める。反撃と同時に敵の氷の刃を折るが、何度折ったところですぐに水から新しい刀身をつくられてしまう。面倒だが、楽しくなってきた。
     周琉も火力を上げているが水の量が多すぎる。熒ももう温存している場合じゃなかった。敵の高笑いが響く中、次の手を打つために熒が刃を自らの腕に当てた、その時。

    ドゴォォン!!

     轟音を立てて部屋の扉を含む氷の壁が崩れた。全員の目がそちらを向く。

    「はぁーっはっは!! 我らきたれり!」
    「大丈夫? 遅くなってごめん、あとは任せて」

     崩れた氷の瓦礫を踏み越え現れたのは、龍のような角が生え額に鱗が浮き出た焼辰と、炎の狐耳と尻尾を纏うロマだ。いいタイミングで加勢に来てくれた二人の足元からは氷が昇華した蒸気が上がっている。

    「行くぞ!!」

     敵はすぐに二人も狙うが、ロマが炎の尻尾を水流にぶつけ、焼辰は鋭くなった龍の爪で敵に殴りかかった。これで五対四。グレイスの数だけでいえば互角だ。火力も強くなり、水も氷もどんどん蒸発させていく。
     周琉も炎の槍で水も敵も薙ぎ払い、蒸気が目隠しする中とんだ大乱戦になってきた。

    「九! 味方まで巻き込んでるぞ!」
    「黒暁さんなら避けられるでしょ?」
    「そりゃそうだが……!」
    「ふはは我の力に恐れをなしたか! 次で終演(フィナーレ)だ。しばし時間を稼げ!」
    「待て捕縛するんだぞ?! 文書も燃やすなよ、加減してくれ!」

     合間に入る周琉のツッコミは大変そうだが、結局は焼辰が火球の威力を溜める援護をすることになりそうだ。

    「っはは!」

     こんなに楽しい戦いなら熒ももっと暴れないと損だ。にぃっと口角を持ち上げて、熒は腕に当てた刃を引いた。血が勢いよく流れるが、痛みよりも今は楽しさが勝っていた。

    「燃えろぉ! あっはははは!!」

     ビシャッと血を辺りに撒いて、熒が笑いだす。熒の髪と瞳がじわりと黄味を帯びた明るいオレンジに変わっていき、撒き散らした血が燃え上がり氷を溶かしていった。
     熱い、楽しい。熒の頭を段々とその感情だけが支配していく。ただ戦えれば、それでいい。
     美しかった氷の城はもう見る影もなく、床も壁も溶かされ壊され穴だらけ。熒と周琉とロマの三人に阻まれて、フロスティーの面々はもはや焼辰が巨大な火球を生み出すのを見守るしかできなくなっていた。建築家はもう号泣している。

    「や、やめろぉ! そんなことしたら……」
    「もう遅いわ! 食らえ!!」

     牙を覗かせた焼辰が吠え、ゴォッと巨大な火球が放たれた。

    「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

     あえなく『凍結戦隊フロスティー』は吹っ飛び、ドシャドシャと積み重なる。これで任務はほぼ片付いた、そう思ったのもつかの間。能力者が気絶したせいで、氷の城を形作っていた『水を凍らせる能力』『温度を一定に保つ能力』が消えた。するとどうなるか。

    パシャン!

     規模の割に軽い音がして、氷の城は瓦礫も含めて形を失い、この城にいたもの全てが大量の水に沈んだ。

    ◇◆◇

    「全くなんて任務だ……」

     溺れかけたメンバー及び雑魚も含めた敵をなんとか救出し、びちゃびちゃになった氷の城跡地で周琉が盛大にため息をついた。

    「……やっぱ水嫌い」
    「俺も~」
    「ふっ……水も滴る我も美しかろう」

     上がったテンションも消火され触角もしんなりとしてしまった熒がぼやき、ロマが同調する。ねー、と首を傾ける二人は戦闘時の緊迫感はどこへやら。ほややんとした空気を醸し出している。
     焼辰はといえば、全身びしょ濡れだが落ちてきた前髪をさっと払いうっとりしている。確かに滴る雫がキラキラ光を弾いて綺麗だなと思った。

    「証拠書類はどこにいった?」
    「あ、さっき燃えてるのが見えたかも!」

     キョロキョロとしていた周琉はロマのその一言でガクリとうなだれた。組織の人間を捕縛はしたからそれでなんとかなるか……と真剣に悩んでいるようだ。

    「終わりよければすべてよし! 我が労ってやろう。巧戸!」
    「お呼びですか、焼辰様」

     焼辰がパチンと指を鳴らすと、どこからともなく彼の従者、巧戸拳が現れた。拳がテキパキと準備を整え鉄板を握ると、その手が青い炎に包まれる。

    「至高のもんじゃをあなた様に」
    「いつもながら素晴らしい手際だ。さぁ、皆も食すといい!」
    「やったー。さすが魔王さま」
    「我は魔王ではない! ま ぎょ く!!」
    「わぁ! 美味しそうだね」

     血もいっぱい流して能力を使ったからヘトヘトだ。ついでに貧血でくらくらする。こういう時は食べて補給するのが一番。熒とロマは事後処理のことも忘れてヘラを受け取りテーブルについた。輝く食器は清潔そうで、トッピングも様々用意してある。

    「なんでそうなる……何もよくない」
    「めぐめぐ食べないの?」
    「誰がめぐめぐだ……はぁ……いただく」

     頭を抱えていた周琉も、最後には考えることを諦めたらしい。
     森の中にはしばらく美味しそうなもんじゃの焼ける匂いが漂っていた。

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