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    ぴー🥜

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    鍵谷潤と指月寿々花ちゃんの主従契約SSです。
    ゲリラ戦に向いてる能力だな、と書いてて思った✨ 
    寿々花ちゃんの能力を活かせるようにしっかり作戦考えます!
    寿々花ちゃん、これからよろしくね✨

     発端は、GCPAから学園に依頼された任務だった。
     GCPAが、犯罪の恐れがあると目を付けていた反GCPAを掲げる複数のグループ。その内の一つを偵察、怪しい動きがあればすぐに報告をあげること。反GCPAの勢力が増え動きが活発化してきたことによって、一時的に偵察に手が回せないのだという。
     主従の決まっていない潤は、任務の際には同じく主従のいないヴァレットクラスの者と組まされる。今回共に任務に向かうことになったのは、一つ年下の友人、指月寿々花だった。

    「鍵谷先輩! よろしくお願いします!」
    「ああ、よろしくな」

     寿々花とは任務の以前からの知り合いだ。紙飛行機から落っこちた寿々花を助けてから、寿々花は潤をよく慕ってくれているし潤にとってもかわいい後輩だ。あまり知らない人相手だとなかなか上手く話せない自覚のある潤は、少しでも気心の知れた相手とペアを組めることに内心ホッとしていた。
     戦闘向きの能力ではない潤達は、万が一対象に接触してしまった時に備え、偵察対象の中でも比較的大人しいグループに当てられた。アジトの場所も割れているため、偵察というよりは張り込みに近い形だろうか。そこまで難しい任務ではない、はずだった。

    ◇◆◇

    「……どうしよう、鍵谷先輩」

     不安そうに揺れる寿々花の赤い瞳に見上げられて、潤は思案する。
     ここは敵のアジトからそう離れてない場所にあった山小屋だ。使われなくなって相当経つらしく、ぐるりと見回した小屋の中はボロボロで、薄い板壁は所々に穴が開き、僅かに残されている家具も道具も今にも朽ちそうなものばかり。ドンドンと扉が激しく叩かれる度にこの小屋ごと揺れている気さえする。


     無難に終わるはずだった任務に暗雲が立ち込めてきたのは、張り込みについてすぐのことだった。アジトの中でなにやら言い争う声が聞こえ始めたのだ。
     仲間割れかと思ったが、どうも様子がおかしい。潤達は一旦報告の為にその場を離れようとしたのだが、それは叶わなかった。人里から離れた山の中のこのアジトに、柄の悪い輩達がぞろぞろと現れたからだ。見るからに好戦的な男達がアジトの中に入ってからは、一瞬にして悲鳴と怒号が辺りに響き渡った。
     これは仲間割れどころではない。潤達が見張っていた穏健派の勢力が過激派によって制圧されているのだ。GCPAの本隊が見張っているはずの過激派の一部だろうか。パッと見たところグレイスはいなさそうだが、人数が多く、暴力に慣れた様子は十分過ぎる脅威だ。
     見つかるとまずい。隣で顔を真っ青にしている寿々花の肩を叩いて、潤が逃げようと促そうとしたその時。

    「おいっ! こっち誰かいるぞ!!」
    「逃げるぞ!」

     バレずに逃げることはもう不可能だ。寿々花の手を掴んで、潤は走り出した。

     そうして山小屋に逃げ込んで今に至る。
     扉の鍵はとうに壊れていたようだが、扉さえ閉まれば潤の能力で施錠して多少は籠城することができる。しかし元よりボロボロの山小屋では、扉より先に壁の方が破壊されるのも時間の問題だろう。

    「……いつまでもここにはいられないな」
    「でも、外囲まれちゃってる……」

     呼吸を整えながら、潤が呟く。答えた寿々花も不安の色が濃い。
     そうしている間にも扉を破ろうとする音は激しさを増していく。随分人数が多いらしく、二人がいくらグレイスであろうとも多勢に無勢なのは明らかだ。

    「女がいたぜ、楽しみだな」
    「バッカこの人数じゃ足りねぇだろ、男の方もヤっちまおうぜ」

     外からは全く聞くに堪えない会話が漏れ聞こえ、潤は思わず舌を打った。

    「チッ、下衆が」
    「どうしよう、鍵谷先輩……」

     どうする、か。
     スマホを取り出し画面を見るが、ここは圏外。どちらか一人でも山を下りてGCPAと連絡が取れればこちらの勝ちだ。二人とも無事に逃げられれば尚良い。そしてそのためには。

    「指月。お前の能力を借りたい」
    「えっ!」
    「時間がない、一回で覚えてくれ。まずーー」

     驚く寿々花に、潤は作戦を説明していった。

    ◇◆◇

     寿々花の能力で体を小さくした二人は、壁の穴から気付かれないように外を窺った。窓もない小屋なせいか、敵の目は出入り口の扉だけに集中しているようだ。

    「……行くぞ」
    「はいっ」

     小声で声を掛け合い、二人は動き始めた。そのまま穴からそろりと小屋を抜け出し木の陰に身を潜めると、小屋から小さくして一緒に持ち出した家具などを反対側の草むらに投げる。小さくなっていても男の潤が投げればそれなりの距離を飛ばせたはずだ。

    「頼むぞ」
    「はい!」

     潤の指示で寿々花が能力を解くと、投げた物が元の大きさに戻りガサッと大きな音を立てた。小屋を囲んでいた男達が一斉に音の方を振り返り、俄に騒ぎだす。

    「抜け出したのか?」
    「いや出口はここだけのはずだ」
    「チッ追うぞ! こっちも一応見張ってろ」

     男達は二手に別れ、小屋の前に残る人数は大分減った。よし、うまくいったな。次にスッと潤が一本の鍵を取り出す。

    「Unlock」

     カチャッと小さく小屋の扉から音がして、同時に手の中の鍵が消えた。見張りに残った男達も聞こえたのだろう。鍵が開いたことを知り、愚かにも全員が小屋の中に突入していった。
     チャンスは一度。寿々花に能力を解除してもらった潤は、小屋が無人だとバレる前に急いで小屋の扉を閉じ今度は外側から鍵を掛けた。

    「Lock」

     取っ手がガチャガチャと激しく回るが、能力で施錠された扉は開かない。中からは激しい怒号が響いているが、さらりとそれを無視して潤は小さいままの寿々花を掬い上げて制服の胸ポケットに入らせた。
     悠長にしている暇はない。扉が破壊される前に、残りの男達が戻ってくる前に、逃げなければ。
     木々の間を抜け、できるだけ見つかりにくいように移動する。途中で何度か小さくして持ちだした小屋の物を進路とは違う方向に投げ、時間差で能力を解除し逃げている方向を誤魔化しながら距離を稼いだ。

    「指月、大丈夫か?」
    「まだいけます! お腹空いてきたけど頑張ります!」

     寿々花の能力は触れた物を縮めたり、大きくしたりできる。だが使い続けると、空腹から始まり最終的には疲労で倒れてしまうという。体力の消耗を抑える為に潤のポケットに入れて運んでいるが、寿々花は自分の体を縮めたままだし、他にも何度も能力を使っている。あまり長くはもたないだろう。

    「……帰れたら学食でなんか奢ってやる」
    「本当?!」
    「二人とも無事に帰れたらな」

     回り道をしながらだが、かなり山を下りてこれたので軽口を叩く余裕も出てきた。元々そんなに深い山ではない。そろそろ電波も入るのでは、とスマホを出そうとした瞬間、足元にキラリと光る糸に足をとられた。

    「キャアッ!」
    「痛っ、すまない、大丈夫か?」

     胸ポケットの寿々花を潰してしまわないように受け身を取ったが、転けた衝撃で寿々花はポケットから転がり出てしまった。幸いにも寿々花に大した怪我はないようで、すぐに立ち上がってポンポンとスカートについた土を払っている。
     よかった。これなら大丈夫そうだ。

    「指月、ここからはお前だけで行け」
    「ええっ?! あと少しなのになんで……」

     山を出るまでもう一息。スマホに電波さえ入ればGCPAに連絡できる。だが。

    「……この糸、明らかに人の手によるワナだ。山の出入りが張られてるんだろう」

     引っかかってしまった以上すぐに敵がくる。小さくなった寿々花一人なら見られることなく逃げられるはずだ。

    「じゃあ一緒に小さくなって……」
    「無理だ」

     ゆっくり潤も立ち上がる。ズキンズキンと痛む左足は、転けた拍子に酷く捻ってしまったらしい。折れてはいないと思うがとても走れはしない。

    「俺が敵を引き付けてるからその間にGCPAを呼んでくれ」
    「……嫌です!」
    「ダメだ。時間がない、急いで……」
    「い! や! です!!」

     ムッと頬を膨らませ強い拒絶の意思を示す寿々花に、潤は思わず頭を抱えそうになった。ここで押し問答している時間はないのに、寿々花はテコでも動きそうにない。
     どうするか、潤は瞬時に頭を巡らせる。そして一つため息をついた。


     ガサガサと鬱蒼とした茂みを揺らして現れたのは、ひょろりとした不健康そうな顔をした男だった。男は寿々花の姿を認めると青白い顔にニタリと嫌な笑みを浮かべた。

    「見張りもやってみるもんだ、こんな可愛い子を好きにできるなんてな」
    「そっ、それ以上近付かないで!」

     念のためにと小さくして持ってきていた武器、薙刀をビシリと構え、寿々花は男を睨み付けた。だがジリジリ迫ってくる男に、寿々花の足もじわりと後退していく。

    「もう一人いたって聞いたが……逃げたのか。置いていかれちまって可哀想になぁ」

     全くそうは思っていない顔で、男が寿々花に手を伸ばした。するとシュッと微かな音と共に、白い糸がうねりながら寿々花に向かって伸びてくる。

    「はぁっ!」

     寿々花が薙刀を振るうと糸はすんなりと切れて地面に落ちた。にょろにょろと動く糸は男が能力で操っているのに違いない。

    「お嬢ちゃんなかなかやるねぇ。でもいつまで耐えられるかな? ほら」

     切っても切っても白い糸は寿々花を捕らえようと襲ってくる。本体の男を狙おうにも、男は用心深く一定の距離を開けたまま糸で寿々花を翻弄するつもりらしい。

    「えいっ、やっ!……きゃあっ!」

     懸命に薙刀で糸を退けていた寿々花だが、突然足を引かれて体勢を崩してしまった。一体何が、と足元を見れば、一本の黒い糸が足首に巻き付いている。白糸を意識しすぎていた。見えない糸が近付いてきていたなんて。
     倒れた隙を敵が見逃すはずもなく、しゅるしゅると体に糸が巻き付き拘束されてしまう。動けなくてもキッと男を睨み付ける寿々花に、男はニヤニヤしながら近付いてくる。まだ、もう少し……。

    「じゃあ楽しませてもらおうか」

     寿々花の前に立ち、男が手を伸ばした瞬間。今だっ!
     寿々花が能力を解除すると同時に、男の真上から大木が降ってきた。

    「うわあああっ!!」
    「っ! やった!」

     どんなに大きな木でも小さくすれば折るのは簡単だ。それを木の枝に引っかけて、敵をその下に誘導する。そうして能力を解除すれば敵は大木の下敷き、というわけだ。
     寿々花がうまくいった、と思ったのも束の間。体を拘束する糸が緩まる気配がない。

    「……くそっ、やってくれたなぁお嬢ちゃん」

     ダメージはあったのだろう。頭から血を流してはいるが、男はしっかりと自らの足で大木をどけて立ち上がった。よく見れば糸がネットのように編まれて男の頭上に張られていて、それで大木を受け止めてダメージを減らしたようだ。
     怒りに視野を狭めた男はもう警戒するそぶりも見せずに寿々花に近付いてくる。本当に、こんなにうまくいくなんて。

    「えいっ!」

     寿々花が能力を解くと、男の真後ろから元の大きさに戻った潤が男の肩を掴んだ。

    「なっ……!!」
    「Lock」

    男が驚き振り返るがもう遅い。カチャッと鍵が閉まる音が男の頭に響くと同時に、能力を封じた重たい鍵を握り込んだ潤の拳が男の頬を殴り飛ばした。

    「指月、やれっ!」
    「はいっ!!」

     男の能力が消え拘束から抜け出した寿々花が、とどめとばかりに男を薙刀で打ち据える。峰打ちだが男は泡を吹いて気絶してしまった。

    「やった、やったぁ! 鍵谷先輩すごい!」
    「……お前がいないと無理だった。すごいのはお前だ」

     ぴょんぴょんと跳ね脅威を退けたことを喜ぶ寿々花に、潤も労いの言葉をかけた。さぁ、今の内に山を下りきってしまおう。
     走れない潤をもう一度小さくして、今度は寿々花が潤を運ぶことになり、肩に乗せられた潤は遠慮がちに寿々花の服に掴まった。
     トラブルから始まった初めての実戦。いまだにドキドキと高揚感が消えない。今回は逃げることに全力を注いだが、寿々花の能力は汎用性が高く、潤の能力とも合わせやすかった。
     お互いに信頼して、成長しあえる主従になりたい。潤の思い描く主従関係だ。指揮官を目指す潤は戦闘においては最後まで倒れるわけにはいかない。だから主従になるならば守ってくれる、または、一緒に逃げ切れる人がいい。そう、今の寿々花のように。

    「なぁ、指月……もし、お前がよかったらーー」





     後日、無事に学園に帰った二人は主従契約を結ぶこととなった。

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