「一緒に死んで」って言われた三公の話1(仮題)◆グラスの場合
「…………は?」
隣に座る彼は、何を言われたのか理解できないといった風にこちらを見ている。
当然といえば当然だ。恋人から突然「一緒に死んでくれ」と言われたら、誰だって戸惑うだろう。でも、聞かずにはいられなかった。
ふと彼の顔を見ると、その顔は涙で濡れていた。
「ど、どうしたの?」
「……わかんねぇ……なんだ、これ……?」
彼はただ静かに涙を流している。やがて固まっていた表情は歪み、流れる水に映った満月のように滲んだ瞳でこちらを見た。
「なぁ、今の、なんかの冗談だろ?いきなり、心中してくれ、なんて…」
「……それは、」
「こんな、こんな事言ったらさ、ガキくせぇって思われるかも知んねぇけど…俺、お前が死ぬってこと想像しちまって、俺もそのまま死ぬってことも……そしたら、急に怖くなっちまった。なぁ、幾らお前と一緒っつったって、俺死にたくねぇわ。お前と行ってねぇ場所とか食ってねぇ物とか、まだいっぱいあるんだ。死ぬなんて…言うなよ……」
縋るように抱き締められ、言葉が詰まる。普段人前で弱みを見せない彼が、嗚咽を漏らして泣いている。彼の零した言葉は、今までのこの問いに対するどんな言葉より、私の心に響いた。
「…ありがとう、大丈夫。生きる…私、生きるから」
まだ震えている彼の背中を、私はそっと包み込んだ。