死にゆく貴方と視界に白いものが映った。膝から顔を上げる。雪が降り始めていた。
息が白く浮かび上がった。呼吸をするたび鼻頭がツンと冷えて鼻水が垂れる。
――主は雪が好きだったな。
本丸が雪景色になるとそれは喜んで俺を連れ出したものだ。3年分の記憶が一気に蘇って鮮明に瞼の裏を焼く。カゴンと音が立つ。空き缶が転がって足元にたどり着く。クリスマスが近いのだろう。路地の外は煌びやかなイルミネーションが輝いて家族連れが談笑し、ウィンドウショッピングをしている。
――主がここにいなくてよかった。
路地裏は薄汚くて囲む建物内の暖かさから剥離するように寒かった。ゴミの山と鈍く温風を吐き出す換気扇が迷路のように配置されている。身を隠すには丁度良かったが暮らせる環境ではなかった。
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