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    ※主死んでる
    めちゃくちゃ重いへし主小説進捗のせ

    死にゆく貴方と視界に白いものが映った。膝から顔を上げる。雪が降り始めていた。
    息が白く浮かび上がった。呼吸をするたび鼻頭がツンと冷えて鼻水が垂れる。
    ――主は雪が好きだったな。
    本丸が雪景色になるとそれは喜んで俺を連れ出したものだ。3年分の記憶が一気に蘇って鮮明に瞼の裏を焼く。カゴンと音が立つ。空き缶が転がって足元にたどり着く。クリスマスが近いのだろう。路地の外は煌びやかなイルミネーションが輝いて家族連れが談笑し、ウィンドウショッピングをしている。
    ――主がここにいなくてよかった。
    路地裏は薄汚くて囲む建物内の暖かさから剥離するように寒かった。ゴミの山と鈍く温風を吐き出す換気扇が迷路のように配置されている。身を隠すには丁度良かったが暮らせる環境ではなかった。
    霊力はじっとしている今も刻一刻と減り続けている。身体から消える主を少しでも減らすためまた俯いて薄っぺらい毛布に包まる。
    ――寒い思いをさせないで済んで良かったなぁ。
    目を閉じると涙が溢れた。どうすれば良かったのだろう。どうすれば主に辛い思いをさせずに済んだのだろう。取り留めのない後悔をしてはまた反芻する。
    主との幸福だった1年間を。


    第一章 ふたり

    主の本丸は美濃国の片隅にひっそりと存在していた。規模は大きくない。200坪ほどの敷地に田圃と小さな古民家がぽつねんと建つ、穏やかな場所だった。初期刀と数振り。部隊を3つ組めば本丸に残る刀はいなくなった。主は霊力が多くなかった。俺たちにとって何の瑕疵にもならなかったが主は酷く気にした。
    「ごめんね、会いたい刀もいるだろうに」
    「今も十分幸せですよ」
    「ごめんね」
    それでも幸福だった。皆満ち足りた顔をしていた。時折叱る声が聞こえたり俺もまた怠惰に声を荒げたものだ。懐かしく思う。それは襲撃によって崩れ去ってしまった。
    その日、2つの部隊が出払っていた。1部隊だけでも在住していたのは不幸中の幸いであった。良く健闘した。途中から緊急帰城した2部隊も合わさり数百の敵を薙ぎ払った。人数が少ない分皆の練度は頂点に達していた。それもまた不幸中の幸いであった。しかしやはり数には勝てない。
    「長谷部!主を連れて逃げろ!」
    「きっとまた会える。主を頼んだぞ」
    主を胸に抱く。まとわりつく炎を払い、血液で滑りつく指をストラで拭った。目の前を塞ぐ敵を切り倒しひたすら前へ進む。主に繰り返し「大丈夫」と声をかけて、気づけば現世へたどり着いていた。
    現世へついて初めに行ったことは西暦を調べることであった。血だらけだったので救急車を呼ばれそうになったため抑えるのに大きく苦労した。骨を折りながらもここが2022年の1月26日だと情報を得る。俺は落胆した。主が生まれたのはここから数十年後。両親は頼れそうにない。だからと言って政府への通信は故障している。
    主を背負ったまま途方に暮れた。
    ――どうすればいい?俺はこのまま外で寝ても平気だが主は人の子だ。それに深い怪我だってしている。
    だからと言って金はない。人伝もないのだ。主を抱え直して力強く歩き出す。時間は無かった。刻一刻と命が削れていく。努めて揺らさないようにしながら走る。空き家を探していた。丁度良く廃れていて、でも風が凌げそうな按排の部屋だ。1時間ほど経ったころ、一軒の家を見つけた。平成初期に建てられたのであろう、二階建ての重心が低めの家だった。塀の中は雑草が生い茂っている。一本の木が方々に枝を伸ばし、二階の窓を突き破っている。窓の奥は暗い。壁に掛けられたままの時計や破れたカーテンがわずかに顔を覗かせる。外壁には悪ガキによる落書きがしてあったがそれ以外損傷はなく、一階なら問題なく過ごせそうだった。
    ――見つけた。
    奥底から湧き出るような歓喜を感じた。
    「主、あと少しです。辛抱してくださいね」
    優しく声をかけて門を開ける。鍵はかかっていなかった。草をかき分けて玄関にたどり着く。戸を引く。今度は開かなかった。一言断りを入れて刀を持ち戸の隙間に入れ枷を断ち切った。ガコンと小さな音と共に扉が開く。中は思ったより悪くない。時間が止まったように暗く、しかし家は死んでいた。長らく人が住んでいない家の様相だった。埃がうっすらと積もった廊下を土足で歩き、寝室を探す。二階の奥の部屋にあった。窓が割れた部屋の真正面で、この部屋からは海がよく見えた。
    マットレスの上にコートを広げ主を横たえる。静謐な光景だった。主と二人きり、夢に見た空間なのに胸部から腹部にかけて切り込まれた傷が毒々しい。衣服を優しく取り払いストラできつく締める。辺りを探し毛布を見つけた。押し入れの中に入っていたから損傷が少なく綺麗に保たれていた。主を包み再び家の中を歩き回る。火を探していた。できるだけ清らかな火がいい。元の持ち主が喫煙者だったのかライターが数個出てきた。二つはガス欠でもう一つは貧相な火しか出ない。全滅だ。再び探す。今度はマッチを見つけた。キッチンを探し油を手に入れる。持つ手が震え、己を叱咤する。分かっている。このままでは主は失血死してしまう。焼いて傷口を塞がなければならない。泣いている場合ではない。
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