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    なにがなんでも背負ってるララフェル

    「剣を打ち直して欲しい」


    そういって差し出された「大剣」を一目見て、中年ゼーヴォルフの店主は思わず眉根にシワを寄せた。
    フードでよく見えないが、見るからに小柄なララフェル族の客に合っていない。

    まず柄が太すぎる。もちろん好みは千差万別だが、こんなに太くては小さな手でしっかり掴むことができない。
    剣先についた泥汚れは、地面を引きずって持ってきたせいだろう。当然だ、刃渡りだけでゆうに客の頭を越えるのだから。
    持ってみればずっしりと重い。そのアダマンの刃は身幅も厚みも太めで、わざと重くされているようだ。

    しっかりと細かい傷だらけで、使用感の残る『これ』を、本当にこの小さな客が使っていたのだろうか?
    まさかそんなはずはない。文字通り手に余るはずだ。
    いや、むしろ、こんなものを振り回せるのは…

    「…ルガディンの『片手剣』か!どうしてこんなものを」
    「すこしだけ丈を詰めて、握りを細くしてくれ。」
    問いかけは無視され、どじゃんと金属の詰まった袋がカウンターに放られる。金、銀、銅が入り交じり、しゃりしゃりと音をたてる。

    「バカいっちゃいけない」
    店主も負けじと袋をおしやるが、その小さな客はステップの上でこゆるぎもしない。
    「これを使いたいから、打ち直してくれればいいんだ。」
    「そんな簡単に打ち直すってわけにもいかねえ、面倒なんだよ。高くつくし……それにいっちゃ悪いが大して良いものでもないぞこれ。」
    「知ってる。いいからたのむ。金は払う。」

    剣を押し返しても、そこをどうにかとまた押し戻される。押したり引いたりするうち、ふと客のフードの奥が剣に写りこんだ。
    包帯に血がにじんだ、ひどく傷ついた有り様がそこにあった。

    店主はチ、と小さく舌打ちする。
    「…高くつくぞ。」
    「いくらでも払う。」
    「言ったな?」
    金を払うというのだから好きなだけ払わせてやる。
    大きな指で、これまた大きな算術器をパチパチはじいてみせると、覗き込んだ客は固まってしまった。

    「これは…その、あまりにも法外じゃないか?」
    客が先ほど放り投げた袋では頭金にしかならないであろう大金だ。
    すかさず「いいや」と店主は押し込む。
    「メンテ込みだからな。月賦でもなんでも、俺が店を開いてる間に払い終わればそれでいい。」
    「お前が払うんだ。かならず、俺に直接金をもってこい。」
    太い太い指で、机をコンと叩いた。これ以上はない。

    (法外な値段に憤慨し、諦めて帰ればいい。)
    店主はそう願っていたが
    「よそには全部断られた、あんたの店が最後だ……絶対払うからよろしく頼む。」

    客はフードを外した。
    生傷だらけのララフェルは、片手に剣の柄を握りしめ、もう片方の手で机をピシャリと叩く。

    (最初から顔を見ておくんだった……)

    柔和な顔に似合わない、大きな向かい傷。それを免れた大きな瞳をみれば、「こいつは絶対あきらめない」とすぐわかったのに。

    「……次は来月こい。支払いはあまり日を開けすぎるな。」

    剣と金を受け取り、すぐさま店主は長い長い仕事に取りかかることにした。
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