無間地獄 俺は罪を犯した。
人を殺してしまった。
……それが面識の無い他人ならどれほど良かったか。
これまでに死にたいと思ったことは数え切れないほどあった。
だからって、正義の味方を殺してしまった事実を受け入れられるわけないじゃないか。その事実か大勢の人を狂わせてしまうことになるだなんて、思わないじゃん……。
あの人なら傷付かない、そんな訳はない。だって同じ人間だと知っているから。それでも、あの貼り付けた嘘を見る度ウザくて苦しくて、だから強い言葉を発して、仮面を外させようと、人間のあの人を見せてほしいだけだったのに……。
「はぁ……、あんたはいつでもヒーローヒーローって…!なんで一般市民の俺の気持ちを汲み取ってくれないんだよ……!もううんざりだ、こんなヒーローは必要ない……っ!」
「……」
俺の言葉に黙ってしまったヒーローは小さく口を開くと
「そうか、そうだったんだな……」
一言だけ遺し、家とは逆方向に進み消えていった。
その仮面が“守沢千秋の本体”だと気付いた時にはもう遅かったんだ。
太陽のように輝くヒーローは俺の言葉に殺された。
「守沢先ぱ……あ、えっと……隊長……」
数日後、今のあの人に声をかけてみても
「俺はもうヒーローじゃないんだ。隊長などやめてくれ……」
と別人のように否定してくる。
「……すみません」
「何がだ?」
この人は必要最低限の言葉で返してくる。
「俺のせい……ですよね」
「もう、いいんだ。俺が悪者だったんだ、最初から正義の味方にはなれなかったんだろう?」
諦めた目をしている、そんな先輩は決して俺の方を向くことはなかった。よく通っていた声は細く、明るかった笑顔も何も照らさなくなって……こんなの守沢千秋じゃない。
嘘でもいいからもう一度だけ咲ってくれませんか。そうじゃないと俺は罪を一生かけて償わなければいけない、死ねない、死にたいという些細な願いが叶うことはない。
人を、しかも俺の人生を変えてくれたような大事な人を殺しておいて、自分がのうのうと生きていることも許されなければ、自分で人生を終える時を決める権利すら与えられるわけないのに。だからこそ苦しい。
多分あの太陽の救いを求めてる人たちはもっと苦しいのかもしれない……、俺はただの自業自得だから。
「高峯……」
「お前はヒーローを続けてくれ、立派になってくれ」
……この人は純粋にそう思ってるのか俺への罰なのか、分からない。
「あんたの方が俺より余っ程罪は重いですよ……」