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    バグでfwさんがショタになる話。ヲ風味

    ショタfwさん「えっ⁉︎ にじさんじアプリのバグで不破さんが幼児化してしまったんですか⁉︎」
    「社長、分かりやすい説明セリフをどうもありがとう」
     加賀美の言葉を聞いて、呆れたように剣持が肩を竦める。剣持達の視線の先には、一人の少年がいた。
     色素が抜け落ちたように白い肌、墨で塗りたくった様な黯い瞳、サイズの合ってない白衣、その下は黒のシャツとタートルネック。大切そうに両腕で抱えているのは、不気味な面をつけた、ウサギともネコともつかない黒のぬいぐるみであった。唯一色と呼べるのは、薄い色素の髪に紛れている桔梗と躑躅のメッシュ。歳の頃はまだ小学生にも上がっていないぐらい、かと思われる。
     焦点の合っていないその黯い瞳で、天井の隅をじっと眺めている少年は、先程話題に出た不破湊その人の筈で、スタッフの話を聞くに、どうやらアプリのバグに巻き込まれてしまった様である。
     今日も、ろふまお塾の収録があった。昼休憩も終わり、メンバー各々がさて、後半戦だとスタジオで息巻いていたところ、このバグは起こった。ポン、なぞと軽い音を立てて、それまで立っていた青年は姿を消し、代わりに現れたのが、この少年。
     直ぐにスタッフが然るべき場所に連絡をして、バグの報告に至る。この状況になってからそこまで時間が経っていないものだから、さすが優秀な人材が集まっている会社であるなんて、密かに剣持は思う。
     流石にいつまでもスタジオに居座るわけにもいかないと、場所は楽屋に移していた。少年は変わらずぬいぐるみを抱きながら、椅子に座ってぷらぷら足を振っている。
    「……にしても、アニキ、喋らない子供だったんですね」
    「こっちに一切興味無しって感じだしね。これがあの大人になるとは思えないや」
     甲斐田が溢した感想と、再び肩を竦めて見せる剣持。少年は姿を見せてから、笑顔を見せるどころか、まだ一言も発していなかった。ただ、部屋の隅を眺めるだけ。
     よくある幼児化バグ――例にできるほど数があるのは問題ではないか? という主張は一度置いておく――は、大概が二種類に分類できる。体だけが縮んでしまい、記憶はそのままなタイプ、これは某探偵物の少年漫画と同じ分類だ。もう一つは、体も記憶も当時まで戻ってしまうタイプ。こうなると大方どうして自分が見ず知らずの場所にいるのかパニックになり、手がつけられないこともしばしばで。
     今回は不破の様子が全くいつもと違うため、どちらかと言うと後者であると推測はできる。しかし、それにしても少年は慌てる様子も見せず、手を引かれるまま大人しくスタジオから楽屋まで歩き、こちらなんて気にしていないみたいに、自分の世界に浸っている様だ。
     まるで、感情がごっそり抜け落ちてるのではないかと、剣持は思う。それ程までに、動きがない、大人しい少年である。
     スタッフは調査があると席を外し、楽屋に残されたのは加賀美、剣持、甲斐田の三人と、不破湊だと思われる少年が一人。この空気をどうするのだと、三人の視線が交差した。
     暫しの沈黙の後、一番最初に動いたのは加賀美だった。ゆっくりと歩いて、パイプ椅子の前にしゃがみ込む。目の前に見知らぬ大人が現れたのだと言うのに、全く気にしていない少年は、加賀美を一瞥する事もなくじっと天井の隅に視線を置き続ける。
     加賀美は、少年の視線よりも下に顔を持ってきて、笑顔で語りかけた。
    「こんにちは」
    「…………」
     返事はない。ただ、声は聞こえているのか、緩慢な動作で少年の視線が加賀美へと向く。こちらに興味を示してくれるのであればまだ対話が出来る。
    「急に知らないところに来ていてびっくりしましたよね。でも、怖くないところなので安心してくださいね」
    「…………?」
    「ん? もう一度お願いできますか?」
     そう思っていたら、微かに聞こえた声。それはあまりに小さく、次は聞き逃さない様に、加賀美は耳を澄ませる。
    「………………おじさん、誰?」
    「お、おじ…………」
     ピキ、たっぷり間を含ませて発せられた言葉に、加賀美が凍り付いたのが分かる。思わず、剣持と甲斐田は顔を見合わせた。加賀美は子供相手に本気で怒る人間ではないため、おそらく思ってもない角度から攻撃を受けて動揺し硬直してしまっただけだろう。
     剣持が言葉を発しなくなってしまった加賀美の元へ向かい、そっと顔を覗き込むと、笑顔のまま凍ってしまっていた。ヒラヒラと顔の前で手を振っても、反応がない。しばらくしたらそのまま床に崩れ落ちてしまった。
     そうやって加賀美で剣持が遊んでいる間に、次は甲斐田が少年の正面に座り込む。
    「急にびっくりさせてごめんね。僕は甲斐田晴。で、あの人は、加賀美ハヤトさん。おもちゃ会社の社長さんです。で、その人の前で嫌がらせをしてるのが、剣持刀也さん」
    「…………」
    「じゃあ、次。君の名前を教えてくれるかな?」
     黙ったままの少年に、甲斐田はゆっくりとした口調で話しかけ続ける。そういえば、と剣持は彼が教員免許を持っていた事を思い出した。それがどんな物なのか、詳細は知らないが、しかし多少なりとも子供相手に話すのに慣れているのではないか、と剣持は考察する。そんな事を言ったら、昔馴染みである黛灰の施設にたまに赴く加賀美だって、多少なりとも慣れてはいるはずではあるが。
    「…………みなと」
    「湊くんね。よろしくお願いします」
     一方で甲斐田は少年の名前を聞き出すのに成功していた。やはり少年が不破な事には間違いない。間違いはない、筈、なのだが……
    「…………」
    「うーん、アニキがこんなに喋らないと調子狂うなぁ……」
    「まぁ、普段もカメラ回ってない時は静かですし……」
     ヒソヒソ。そっと少年の前から立ち上がった甲斐田が、少し離れた場所で見守っていた剣持と加賀美に合流する。声を顰めて少し思った事を共有していると、そうしている間にも、自らを湊だと名乗った少年は、緩慢な動作でまた視線を動かし、何もない場所をじいっと見つめていた。まるで、自分たちには見えていない何かがあるかの様に。
     ピロン、唐突に携帯の通知音が鳴る。三人それぞれ自分のスマートフォンを見ると、メッセージアプリのろふまお塾用グループが動いており、解決までに少し時間がかかりそうな事、他にもバグに見舞われているライバーがいる事、そして不破を一人にしないで見守っていて欲しい旨の内容が送られてきていた。バグの詳細については、追って全体に周知が流されるとも付け加えられ、三人は顔を見合わせる。
    「いや、別にお世話してるのはいいけど……」
    「大人しいので、全く手がかかりそうにないですもんね」
    「もういっそ黛さんとか明那とか呼んで預けて遊んでもらう?」
    「それ……一人はショタコン・オブ・ザ・レッドですよ」
    「あー……」
     不破がよく一緒に行動をしている三人組の内、この場にいない二人の事を思い返す。先にも話題に出た黛は普段から子供と接しているため良いとして、悲しい事に三枝は自他共に認めるショタコンである。あまり、今の不破を預けるのに相応しい人間かと言われると、勿論彼が何かをするとは思わないが、ある意味一番暴走されそうなため、否なのだろう。嫌、彼のストライクゾーンより今の不破は随分と年齢が下かもしれないが。だとしても、最適解ではないことは確かだ。
    「……………………ねぇ」
    「わ、びっくりした」
     云々とこれからどうするのか考えていたら、急に、下から声が聞こえて来て、剣持が飛び上がりそうになるのをなんとか我慢し視線を落とすと、そこには色彩のない子供が立っていた。
     大切そうにぬいぐるみを抱きながら、普段であれば剣持とほとんど同じ高さの筈なのに、今はずっと下にある両目を細めて、こちらを見上げている。そういえば、この少年が自主的に動くのを見たのは、これが初めてかもしれない。
     少年は黯い瞳を瞬かせると、一言、
    「…………おなか、すいた」
     とだけ言葉をその場に置き、そしてまた動かなくなった。たまにパチリと瞼の裏に瞳が隠れるから、生きているのは分かるのだが、それがなければ綺麗な人形の様である。じっとこちらを見上げる姿に、三人はまた顔を見合わせる。今日だけでこの困惑を分かち合うのは何度目かも分からない。
    「えっと……何かありましたっけ?」
    「アニキの大福ならあるかなぁ」
    「え、いいんですかそれ?」
    「まぁ、食べるのはふわっちだし、いいんじゃない?」
     言い出しっぺの甲斐田が、勝手に不破の荷物を漁る。コンビニ袋に入った大福を少年に手渡した。
     ずっと立っているのもなんだからと、示し合わせた様に三人ともそれぞれ普段座っている席に腰掛けた。少年だけが流れに取り残された様に立ち竦んでいたため、甲斐田が気を利かせて「不破さ……みなとくん、こっちに」と声をかけて、自身の隣、詰まりは先程まで少年が座っていた不破の定位置の椅子をポンポンと叩いてみせた。
     少年はじっとその動作を見つめた後、何を思ったのかゆっくりと歩いて甲斐田に近寄ったかと思うと、その膝の上によじ登って陣取った。そのまま足をぷらぷら揺らして、大福のパッケージと格闘を始める。
    「甲斐田くん、懐かれたね」
    「なんか、小動物みたいだ……」
    「写真、撮っておきますか」
     きっと、大人の不破が見たら悶絶する光景だろうと、加賀美はスマホを取り出した。カシャ、とシャッター音が鳴り、無表情の少年と、困惑した表情の甲斐田の姿が記録される。甲斐田を揶揄うように、剣持はニヤニヤと意地悪く笑っている。
    「…………」
    「あー、ほら、粉溢れてるから」
     少々乱雑に開封したからか、大福の周りについている粉が宙を待っていた。元来の面倒見の良さを見せた甲斐田が、少年の手元にあるぬいぐるみが白く汚れてしまっているのを見て、少しだけ別のところに寄せようと手を触れようとした、その時。

     ――――パシッ。

     乾いた音が、楽屋に響いた。
     そこに残されたのは、いきなり手をはたかれて目を丸くした甲斐田と、同じく驚いた色を浮かべた加賀美、剣持。そして、じとっとした黯い瞳で、甲斐田のことを睨み上げた少年のみ。
     慌てて、甲斐田が少年に向け、謝罪を口にする。
    「……ご、ごめん。ぬいぐるみ触られるの、嫌だったかな?」
    「…………」
    「あ、あの…………」
    「……ヲズ」
    「えっ?」
    「……………………」
     一言、それだけ残して、少年はまた手元の大福をちまちまと食べ進める作業へと戻っていった。触るのを拒んだ割には、彼が『ヲズ』と呼んだぬいぐるみに白い粉が降りかかるのは気にしていない様子だ。
     楽屋に、沈黙が訪れる。少し泣きそうな甲斐田が、加賀美と剣持のことを交互に見つめていた。
    「ヲズ、って、ぬいぐるみの名前とかですかね?」
    「構わないでって言ってるよ、甲斐田くん」
    「えっ、甲斐田が悪い?」
     ほんの少し強く叩かれた事にショックを受けたような表情を浮かべていた甲斐田だが、しかし、少年が膝の上から降りる気配がないのを確信すると、少し困ったように笑っていた。
     いつの間にか、少年はすっかり大福を食べ終わり、ただ虚無を見つめる作業に戻っている。甲斐田が口の周りにベッタリついた粉を拭ってやると、抵抗せずなすがままになっていた。先ほどの様に手をはたき落とす仕草は見せず、やはりあれはぬいぐるみに触れようとしたのが起因だったようだ。
    「あ、皆さん、システムの復旧目処が立ちました」
    「よっかったです! あとどのぐらいかかりますか?」
    「もう十分もあれば、とのことです」
     トタトタと足音を立ててスタッフが報告にやってくる。加賀美と対応していた内容を聞いて、対応に苦慮していた一同はホッと胸を撫で下ろした。
     しかし、スタッフは甲斐田の膝の上で何処か虚無を眺め続ける無表情な少年を見て、ほんの少しだけ顔を曇らせる。
    「…………どうかしましたか?」
    「あ、いえ……大したことではないんですけど」
     剣持からの問いかけに、歯切れが悪そうに彼は答える。ほんの少しだけ迷ったあと、意を決したように口を開いた。
    「あの、今回のバグ、実は単純に年齢退行……という訳ではないみたいで」
    「……と、言うと?」
     畳み掛けるのは、甲斐田だ。少年から目を逸らしたスタッフは、続ける。
    「うまく説明できないのですが、単に年齢が退行するのでは無く、その人の内面を具現化した姿形を取ってしまうバグ、と言うべきでしょうか。他にも同じバグの報告があったのですが、主な症状はほんの少し見た目が変わるだとか、性格が変わるだとか、その程度で、不破さんのようにまるっと子供になってしまった方はいないみたいで……」
    「…………うーん、それは」
     続きは、加賀美の口から溢れることなく飲み込まれた。
     自然と、この場の全員の視線が、少年に集う。自分が見られているのすら気が付いていない様子で、自らを湊と名乗った少年は、足をぷらぷら揺らしながら、何もない天井の隅を眺め続けている。
     この、感情表現に乏しい濡羽色で塗りたくられた瞳の少年が、あの快活な青年の内面だとは到底思えない。思えないのだが、手元にある情報が示す真実は、ただひとつだ。
     大人達の視線に気が付いた伽藍堂の少年は、なんの感情も乗せずに首を傾げ、手元のぬいぐるみを抱き続けた。ぬいぐるみの、空っぽの瞳が、じっと虚空を見つめている…………
     …………………………………
     ………………………
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