檸檬の記憶 隣に住んでいるガーデニングが好きなジョンお爺さん。ただ一人。一人だけだった。僕のレモネードスタンドでレモネードを買ってくれたのは。
夏休みに社会授業の一貫として僕は自宅の前でレモネードスタンドを設けた。パパの教えだった。湖水地方のウィンダミアにある自宅の前は人通りが少なく、僕のお店の前を通過したのはまだら模様の野良猫だけだった。
鋭い日差しの下で僕と同じくらいにレモネードが入ったピッチャーは汗をかいていた。ママが用意してくれた氷が溶けてレモネードは嵩を増していき、さらに僕を焦らせた。僕はレモネードスタンドのテーブルの上でお爺さんからもらった一枚のコインをくるくる回していた。ウィンダミアがある湖水地方は観光ツアーでマグルがよく訪れる場所なのにその日に限ってまったく人の姿を見なかった。じっと見ていた地面に黒い影が見えて、僕は顔を起こした。黒い髪の同い年くらいの少年がいた。僕の目が合うと逃げようとする彼を慌てて止めた。
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