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    途中

    壁掛けのカレンダーを前にして、桃色のマジックペンのキャップをポンと取る。目当ての日付、25日のところにぐるりと二重丸を付けてから、それでも飽き足らずに花丸にした。空いているスペースに小さく「ロロくん!」と書き込むと、オンボロ寮の監督生――ユウは満面の笑みを浮かべる。胸の奥に暖かい光が差したようで、無性にくすぐったい気持ちになる。
    25日、それはユウが待ち焦がれている日であった。だって、ロロくんに会えるのだ。
    ロロは花の街にあるノーブルベルカレッジの生徒会長で、より正確に言えばユウの恋人でもある。ユウがうっとりと目を閉じると、脳内のロロくんは次々と表情を変えた。ナイトレイブンカレッジ生と初対面したときにチラついた軽蔑ともいえる表情、グリムを相棒と呼んだときの邪悪な笑顔、ユウ達を床下に落としたときの高笑い、ツノ太郎を睨みつけながら踊っている姿……。なんでそんな場面を選んだのかとブーイングの嵐が起きそうなシーンが走馬灯のように流れてくる。でも、好きになってしまったんだから仕方がない。ロロは交流会以降も魔力の無いユウをなにかと気に掛けてくれた。教師が生徒に抱くような義務感でも、対価と引き換えに手助けをする取引きでもない。世間知らずな明るさや優しさ故の気遣いとも異なる。同じ学生という立場にありながらも真剣な眼差しで手を差し伸べようとする姿に、鈍化してなんともなくなったはずの琴線が緩んでしまい、涙がひとつぶ零れたのだ。縮まった心の距離が、名前のついた関係性を求める。触れ合う手のひらの暖かさと、言葉を交わすたびに弾む心がこの気持ちをどんどん明瞭にしていく。重々しく口を開いたロロの、「交際を了承して欲しい」という告白にユウはこくりと頷いたのだった。

    ユウはしばらく25日に付けた花丸をみて頬を緩ませていたが、めくったカレンダーをパラパラと戻しながらため息をついた。1枚、2枚……。3ヶ月分の日付の羅列が、気の遠くなるほど先のことに感じる。お互いの長期休暇が重なるのは当分先だし、ロロは生徒会長で忙しい。そもそも、例え数日空いていたとしても、ここ賢者の島と花の街の距離はあまりにも遠すぎた。気軽にぱっと行って日帰りできる距離感ではないのだ。闇の鏡を使えれば一瞬だが、学園長から「私用での乱用は禁止です!」と念を押されている。ロロも同意見だったし、ユウも真面目だったので、まぁその通りだよねと納得した。ユウは他NRC生ほどの図々しさをまだ身に着けていなかった。学園長からのお小遣いをコツコツ貯めて、モストロラウンジでバイトをし、旅行費用を捻出する計画の真っ最中である。まだロロには相談していなかったが、まとまった休みが取れる短期間のホリデーを狙って、遊びに行こうと考えていた。
    ばふん、とベッドに飛び込めば、古びた木製のフレームがギシギシと軋んだ。まるで今のユウの心みたいだ。
    「会いたいなあ」
    口に出そうと思っていなかったのに、勝手に言葉が漏れだす。一度言ってしまうと思いが強くなるのか、寂しさがこみあげて来る。会って話せたらどんなにいいだろう。マジカメや手紙にも書かないような他愛ない話をして、一緒にご飯を食べて街を歩けたら。それとぎゅっと抱きしめられたら。そう考えてユウは頬を染めた。ユウはロロの大きな手のひらで包み込まれるのがとても好きなのだ。
    「ロロくんに早く会えますように」
    ユウがぽつりとつぶやいたのと、目の前が真っ暗になったのは、ほぼ同時のことだった。
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    ugen_3

    CAN’T MAKE途中
    壁掛けのカレンダーを前にして、桃色のマジックペンのキャップをポンと取る。目当ての日付、25日のところにぐるりと二重丸を付けてから、それでも飽き足らずに花丸にした。空いているスペースに小さく「ロロくん!」と書き込むと、オンボロ寮の監督生――ユウは満面の笑みを浮かべる。胸の奥に暖かい光が差したようで、無性にくすぐったい気持ちになる。
    25日、それはユウが待ち焦がれている日であった。だって、ロロくんに会えるのだ。
    ロロは花の街にあるノーブルベルカレッジの生徒会長で、より正確に言えばユウの恋人でもある。ユウがうっとりと目を閉じると、脳内のロロくんは次々と表情を変えた。ナイトレイブンカレッジ生と初対面したときにチラついた軽蔑ともいえる表情、グリムを相棒と呼んだときの邪悪な笑顔、ユウ達を床下に落としたときの高笑い、ツノ太郎を睨みつけながら踊っている姿……。なんでそんな場面を選んだのかとブーイングの嵐が起きそうなシーンが走馬灯のように流れてくる。でも、好きになってしまったんだから仕方がない。ロロは交流会以降も魔力の無いユウをなにかと気に掛けてくれた。教師が生徒に抱くような義務感でも、対価と引き換えに手助けをする取引きでもない。世間知らずな明るさや優しさ故の気遣いとも異なる。同じ学生という立場にありながらも真剣な眼差しで手を差し伸べようとする姿に、鈍化してなんともなくなったはずの琴線が緩んでしまい、涙がひとつぶ零れたのだ。縮まった心の距離が、名前のついた関係性を求める。触れ合う手のひらの暖かさと、言葉を交わすたびに弾む心がこの気持ちをどんどん明瞭にしていく。重々しく口を開いたロロの、「交際を了承して欲しい」という告白にユウはこくりと頷いたのだった。
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