途中②「抱擁のみで出られるのなら話は早い。ユウくん?」
ロロが優雅に両腕を持ち上げる。衣擦れの音がして、彼の威光の一端を担う豪華な刺繍入りの布地が後に続いた。呆けているユウの二歩先のところで、スンとした表情を崩すことなく佇んでいる。
すなわち、ハグ待ちの状態だ。
呼びかけてから自ら歩み寄ることもせずに、ユウから二歩分の距離を保っている。それは飼い主がペットを呼ぶときの姿に似ていた。与えられる親愛を当たり前のように享受する傲慢さが見え隠れする。実際、ロロは微塵も疑っていなかった。自分が一歩たりとも動かなくても、ユウは確実に来る。何故なら、ユウは「この私」を愛しているのだから。涼やかに見えて、その奥に熱を宿す瞳には揺るぎない自信が伺える。
一方のユウは、普段であれば弾丸のように飛び込んで、ロロの胸板に頬を預けただろう。細く見えても全く体幹のブレない身体に驚きながら、照れ隠しにちょっと笑顔を見せてその両腕に包まれていただろう。だけど……。
ユウはきゅっと口元を結んだ。この後に告げなければならない言葉を思うと、吸う息が重くなる。
何故って、期待を裏切らないといけないから。
ユウはロロの真っ直ぐな眼差しから逃れるように視線を彷徨わせたが、ハッキリと口にした。
「イヤ、です」
〈続く〉